埼玉県の知事が、1923年の関東大震災当時に虐殺された朝鮮人犠牲者の追悼行事に追悼文を送ったことが確認された。追悼文に朝鮮人虐殺被害が明示されていないという限界はあるものの、意味のある措置という声があがっている。
日本の市民団体「姜大興(カン・デフン)さんの想いを刻み未来に生かす集い実行委員会」(実行委)は2日、ハンギョレの取材に対し、大野元裕埼玉県知事が「関東大震災の発生から百一年を迎えるにあたり、震災で犠牲になられた全ての方々の御霊前に、衷心より哀悼の意をささげます」と書いた追悼文を送ってきたと明かした。大野知事が関東大震災の朝鮮人犠牲者と関連して追悼文を送ったのは今回が初めて。
姜大興さんは関東大震災当時に殺害された朝鮮人の中で名前が確認された極めて異例な事例だ。1923年9月1日、関東大震災が発生したことを受け、埼玉県警は県内の朝鮮人を集め、県の北部に接する群馬県などに移送する計画を立てた。姜さんはこの過程で一行とはぐれ片柳村に紛れ込んだものと推定される。地震発生から3日後の9月4日午前2時頃、姜さんは自警団に捕まり無残に殺害された。当時の新聞記事などによると、自警団は姜さんを殺害した後、褒賞を求めて警察に名乗り出たところ、処罰を受けた。その後、地元住民らが姜さんを追悼するため、埼玉県染谷にある常泉寺に墓碑を建て、「朝鮮人姜大興の墓」という碑銘を刻んだ。2007年から地域の市民団体が姜さんの命日である9月4日に合わせて追悼行事を開いている。
大野知事は先月27日、定例記者会見で実行委が追悼文の発送を要請したことに対して「デマ情報に基づいて朝鮮人の虐殺があったことは痛心に堪えない」とし、関東大虐殺当時の朝鮮人犠牲者に対する追悼文を送ることを前向きに検討していると明らかにした。
大野知事は昨年9月の記者会見で、朝鮮人虐殺の背景には、関東大震災の翌日、埼玉県内の郡役所が朝鮮人に対する警戒を強化するよう通達した「不逞鮮人放火に関する件通牒(つうちょう)」を傘下の町村に送った点があったと認めた。
関東大震災の朝鮮人虐殺は「朝鮮人が井戸に毒を入れた」といったデマが広がり、当時日本の警察など公権力が朝鮮人の警戒強化などを叫び、これを助長し、時には加担して起きた。大野知事が公権力の責任を一部認める発言をしたのは前向きな姿勢といえる。日本政府は「政府として調査した限り、事実関係を把握できる記録が見当たらない」とし、朝鮮人虐殺をまともに認めていない。大野知事は外務省出身で、2010年に民主党候補として埼玉県参議院選挙に立候補して当選した。2019年から埼玉県知事を務めている。
大野知事の追悼文送付は、毎年東京都墨田区の都立横網町公園で行われる「関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典」に、今年まで8年連続で追悼文の送付を拒否してきた小池百合子東京都知事の態度と対比を成している。 小池知事は「都慰霊会の大法要で大震災当時犠牲になったすべての方々に哀悼の意を表している」として、追悼文の送付を拒否している。
ただし、大野知事の追悼文にも「震災で犠牲になられた全ての方々」に対して哀悼の意を捧げると書かれており、限界がある。
実行委の小川満事務局長はハンギョレとの電話インタビューで「大野知事が朝鮮人追悼集会に追悼の意を伝えてきたことは、今後同じ歴史を繰り返さないためにも意味がある」とし、「初めて追悼文を送っており、今後さらに積極的なメッセージが出るよう知事を説得したい」と語った。