福島県の漁業者たちが、原発汚染水の海洋放出を控えて岸田文雄首相が「漁業関係者との信頼関係が深まっている」と発言したことについて、強い不快感を示した。
福島県漁業協同組合連合会の野崎哲会長は8日、岸田首相の発言について「何を捉えてそういっているのか分からない」と述べた。岸田首相は7日、福島第一原発の放射性物質汚染水の海洋放出が今月末に始まるという日本メディアの報道を受け、「経済産業相などが現地と対話を重ねている。漁業者の方々との間における信頼関係は少しずつ深まっていると認識している」と述べた。野崎会長は「相手方(岸田首相)の感想だが、そういわれてしまうと身もふたもない。どこを捉えて理解が進んでいると言っているのか分からない」と批判した。
同日、野崎会長は渡辺博道復興相と会い、改めて汚染水放出に対する反対の立場を示した。野崎会長は「『関係者の理解なしにいかなる処分も行わない』という約束があることなどから反対だ。子々孫々、漁業が存続するよう慎重な判断をお願いしたい」と語った。これに対し、渡辺復興相は「福島の復興のためには処理水(汚染水)の処分は先送りできない重要な課題だ。漁業者の生業がしっかり成り立っていくようにしていくことも大事だと思っている」と答えた。
毎日新聞は9日付で、出席者から「数十年間続く放出の安全性をどう守るのか」などの意見が出たと報じた。
放出に強く反対する中国政府も、国際会議の場で日本に圧力をかけた。時事通信の報道によると、8日、オーストリアのウィーンで開かれた核拡散防止条約(NPT)の再検討会議に向けた準備委員会で、中国代表は「放出計画の強行の中止」を求めた。中国代表は汚染水放出が国際安全基準に合致するという国際原子力機関(IAEA)の報告書について、「権限が限られており、汚染水データの信頼性と正確性が確認できていない」と主張した。
日本政府は福島原発汚染水(約133万トン)の放射性物質の濃度を法的基準値以下に下げた後、30~40年かけて海に放出する予定だ。多核種除去設備(ALPS)で除去されないトリチウムは基準値の40分の1以下に濃度を希釈して海に流す。今月末の放出開始が有力視されている。