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プーチンの「汚れた手」ワグネル、ロシアの「戦争の口実」崩して撤退

登録:2023-06-26 01:41 修正:2023-06-26 08:07
ロシアの傭兵集団「ワグネル」の隊員たちが24日(現地時間)、ロシア南部のロストフナドヌーで戦車に乗った少女と写真を撮っている/EPA・聯合ニュース

 ロシアの傭兵集団「ワグネル」が結局、モスクワへの進撃をあきらめて撤退したことで、クーデターの試みは「一日天下」に終わった。しかし、今回の事態は20年以上ロシアを鉄拳支配してきたウラジーミル・プーチン大統領のリーダーシップに大きな傷跡を残した。

 ワグネルの最高責任者、エフゲニー・プリゴジン氏は24日(現地時間)、「流血事態を避けるためモスクワに向かっていた兵力に撤退を指示した」と、テレグラムを通じて明らかにした。氏は同日、ワグネルがモスクワから200キロ離れたところまで接近したが、「ロシア人が血を流すことに伴う責任を理解しているため、計画通り兵力を戻して基地に復帰する」と述べた。

 ワグネルの撤退は、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が交渉を取り持ったことによるもの。双方はプーチン大統領がプリゴジン氏とワグネルの安全を保障する代わりに、ワグネルは直ちに撤退しプリゴジン氏はロシアを離れてベラルーシに向かうことで合意した。

 今回の事態は、ワグネルがロシア南部のロストフナドヌーの軍基地を占領した後、モスクワに向かって北進したことで触発された。彼らは、ロシア国防省が自分たちをミサイルで攻撃したとして、軍指導部の処罰を求めた。これに対し、プーチン大統領が今回の事態を反乱とみなし、対テロ作戦体制を発令するなど強硬対応に乗り出したことで、政局の緊張が一層高まった。

 今回の事態は土壇場の合意で破局には向かわなかったが、プーチン大統領がはたして政局を掌握しているのかについて疑念を抱かせる契機になった。専門家らは、1999年12月に大統領権限代行に任命されて以来、23年以上続いてきたプーチン大統領の長期政権体制が最悪の挑戦に直面したと分析している。英紙「ガーディアン」は、今回の事態が1991年夏に失敗した旧ソ連保守派のクーデター未遂を思い出させるとし、プーチン体制に深い傷痕を残して政治的不安を高めるだろうと診断した。

 今回反旗を翻したプリゴジン氏は、プーチン大統領の最側近グループに属している人物。氏はこれまで私的武力集団のワグネルを率いて、プーチン体制が公にはできないいわゆる「汚れ仕事」を担ってきた。2014年のウクライナ内戦にも参戦し、その後シリアとモザンビーク、リビア、スーダン、中央アフリカ共和国、マリなどのアフリカ内戦に介入し、民間人の虐殺と人権侵害で悪名を轟かせた。プーチン大統領がこのような最側近の反乱を事前に防げなかったのは、内部統制の失敗という点で致命的といえる。

 プリゴジン氏はこれまでロシア国防省と対立してきた。公の場で「国防省が戦闘を行うワグネルに兵器と軍需物資をきちんと支援していない」と非難する場面もあった。しかし、プーチン大統領はこのような軋轢を収拾するよりは傍観する態度を示してきた。これに対して当時、プーチンが支配エリート間の軋轢を利用して自身の権力を固めるいわゆる「分割統治(divide and rule)」の戦略を使っているのではないかとみる専門家も多かった。しかし、今振り返ってみると、プーチン大統領がプリゴジン氏を統制できなかったという分析の方がより的を射ていたかもしれない。

 今回の事態は、国家の武力独占原則を損ねたプーチン大統領の自業自得だという指摘もある。政治的便宜のためにワグネルという私的武力集団を容認したことで、正規軍とは別の私兵組織が堂々と活動する契機になったということだ。カーネギー国際平和財団のアンドレイ・コレスニコフ氏は「国家が(ワグネルを通じて)武力を外注化したのは、国家の独占的武力使用原則をみずから放棄したものであり、国家機構の崩壊だ」と述べた。

 今回の権力内部の亀裂が今後の国内外情勢にどのような影響を及ぼすかについて、判断はまだしがたい。今のところ、ロシア国内にプーチンに対抗しうる政治的勢力がいるわけではない。しかし、プーチン大統領の権威失墜は免れず、これによって予想される権力の空白を埋めるための各勢力の暗中模索が繰り広げられるものとみられる。

 プーチン大統領は今回の事態を収拾するため、プリゴジン氏とワグネルに免罪符を与えた。当初プーチン大統領は「反乱加担者は処罰する」と脅しをかけたが、数時間も経たないうちに前言を撤回した。それだけ事態が緊迫しており、プーチン大統領が深刻な危機に追い込まれていたことを示している。ロシア大統領府報道官は「流血事態を避けるのが責任者処罰より重要だった」と釈明したが、力のない権力者の無能さを隠すための苦しい言い訳に聞こえる。

 今回の事態はウクライナ戦争にも影響を及ぼすものとみられる。何より、今回の事態がそもそもウクライナ戦争をめぐる意見の相違と対立に端を発したということが、プーチン体制の戦争遂行に負担になりうる。プリゴジン氏は23日、決起を宣言する際、「ロシアはウクライナとNATO(北大西洋条約機構)から安全保障を脅かされているわけではない」とし、「ロシア軍指導部がプーチンをだまして戦争を起こさせた」と述べた。公にプーチン大統領のウクライナ侵略の口実をすべて否定したわけだ。戦争の目的をめぐる議論はロシア軍内の動揺を招く要因になりかねず、ロシア社会に潜伏していた戦争への懐疑論を煽る可能性もある。

 ワグネルをこれ以上戦線に投入するのが難しくなったのも、ロシア軍の戦力に否定的な効果をもたらすものとみられる。英国国防省は今年1月、ウクライナに投入されたワグネルの兵力が5万人に達すると推定した。実際、戦闘力はロシア正規軍より優れているといわれている。彼らの戦線離脱は、特に最近ウクライナが大反撃作戦に出たことと時期的にかみ合い、戦勢にかなりの変化をもたらす可能性もある。

パク・ピョンス先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/europe/1097417.html韓国語原文入力:2023-06-26 00:25
訳H.J

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