本文に移動

トラス英首相、就任45日目にして辞任…最短命となった理由は

登録:2022-10-21 09:47 修正:2022-10-21 10:20
保守党の既得権層に向けた減税に固執して起きた惨事 
前回の総選挙圧勝の原動力となった労働大衆の要求を無視 
減税案の哲学である新自由主義の終焉を促すか
性急な減税案で大きな経済混乱をもたらしたリズ・トラス英首相が20日(現地時間)、首相官邸のロンドン・ダウニング街10番地前で保守党党首を辞任する意思を明らかにしている。トラス首相は就任後わずか45日で辞意を明らかにし、英国憲政史上最短の首相に記録されることになった=ロンドン/ロイター・聯合ニュース

 性急に推進した減税案の逆風に苦しんだ英国のリズ・トラス首相は、就任から45日目の20日、保守党党首を辞任するという意思を明らかにした。これによりトラス首相は、西欧先進国の政治史上で類例のない最短命の国家指導者になった。

 トラス首相をめぐる今回の騒動は、サッチャリズムという約40年前の古い経済政策に対するこだわりと疎通不在がもたらした惨事として記憶される見通しだ。トラス首相は、ボリス・ジョンソン前首相がパーティーゲートなどのスキャンダルで退任した後に行われた与党保守党の党首選挙で、破格の減税案を掲げて当選。高所得層の所得税と法人税を引き下げ、英国経済に活力を再び吹き込むという主張だった。これに対して党内外では、物価上昇の勢いが深刻化する状況で性急に減税案を推進した場合、国家財政が悪化し庶民の苦痛が膨らむという批判が続いた。しかし、保守党は減税案を支持してトラス氏を党首に選出し、最終的に首相になった。

 トラス首相は先月23日、430億ポンドに達する減税案を盛り込んだ2022年補正予算案「ミニ・バジェッド」を発表した。ここには減税を通じて穴のあいた財政をどうやって埋めるかについての内容は書かれていなかった。結局、市場はこれを英国政府が国債を大量発行するというシグナルとして受け入れた。その結果、ロンドン金融市場で英国債の信頼度が落ち、国債の価格が暴落した。これは再び金利上昇とポンド安を招いた。英国の最大産業であるロンドン金融街が焦土化し、ポンド相場は1ドル=1.1ポンドまで下がった。

 市場の大きな混乱を目撃した保守党内では、減税案の撤回を要求する声が高まったが、トラス首相は減税案を押し進めた。同首相は減税案が英国の低成長を打開する唯一の方法だと主張し、妥協しな姿勢を貫いた。しかし、市場の混乱の前に結局ひざまずいた。3日に最上位所得者に適用される「金持ち減税」を撤回し、14日には当初取り消すことにした法人税引き上げ(19→25%)を予定通り進めることにした。また、同じ日に今回の減税案を主導したクワシ・クワルテング財務相を更迭した。

 だが、その後も減税案は依然として有効だと言い張った。しかしクワルテング氏の後任に任命されたジェレミー・ハント新財務相は17日、トラス首相が発表した減税案の大半を事実上撤回すると宣言した。保守党内ではトラス首相がすでに国政指導力を失ったとし、首相辞任を要求する声が大きくなった。与党保守党の支持率は19%まで自由落下した。

 トラス首相がこのような惨事を起こしながらも意固地になったのは、6700万人の英国国民と市場よりも、16万人の保守党党員の利害に忠実だったためだ。8月から9月にかけてトラス首相と保守党党首選を戦ったのは、ジョンソン内閣で法人税引き上げを立案したリシ・スナークク元財務相だった。増税に否定的な保守党の既得権党員たちは減税案に積極的であり、一部は相続税廃止まで主張した。

 保守党は2019年10月の総選挙で、議会内の過半数議席を80議席も超える勝利を収めた。これは1987年以降で最大の勝利だった。英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)に賛成した労働党の支持層である「レッドウォール」が、保守党に加勢したためだ。彼らはブレグジットで自国の労働大衆の待遇がよくなると期待した。一方、保守党の既得権層はブレグジットで自由な規制緩和と税金削減を期待した。このような状況で、トラス首相が減税案で労働大衆を無視し、保守党の既得権層の利害だけに忠実になったことで「巨大な逆風」が吹き荒れた。

 今回の騒動のより根本的な原因は、トラス首相が信奉する40年前のサッチャリズムやレーガノミクスなどの新自由主義経済哲学だ。トラス首相の減税案は「減税、規制緩和、政府支出削減が経済成長を促進し、その果実が下流層に滴り落ちる」というトリクルダウンに支えられた1980年代初頭の思想に基づいている。新自由主義に基づいた政策は、当時は景気活性化の一助になったかもしれないが、結局「富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなる」現象を強化し、国家債務を増やしたという指摘を受けている。

 特に、物価が急激に上がっている時期に推進される減税案は、庶民の苦痛を増やすなど経済に致命的な効果をもたらすほかはない。そのため、保守党内でもトラス首相が崇めるサッチャー元首相だったら決してこのような政策を推進しなかっただろうという「苦言」が相次いだ。結局、トラス首相の早期落馬は、保守既得権層ばかりに目を向ける経済政策に固執し、批判に対しては「成長、成長、成長」と反論する疎通不在の姿を示したことで起きた惨事と記録されるものとみられる。

チョン・ウィギル先任記者Egil@hani.co.kr(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/international/international_general/1063628.html韓国語原文入力:2022-10-2100:33
訳C.M

関連記事