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金正恩とトランプは“なぜ”シンガポールを選択したのか

登録:2018-05-11 22:23 修正:2018-05-12 08:07
中立性・移動距離・治安・宿泊など考慮し、無難な代案 
平壌は過度な譲歩、板門店は象徴性ゆえに選択されず 
米国メディア、「金正恩を板門店の外に引き出したことはトランプの勝利」
2008年7月、シンガポールで開かれたアセアン地域フォーラム全体会議に参加したパク・ウィチュン北朝鮮外相の前を、コンドリーザ・ライス当時米国務長官が通り過ぎている=資料写真//ハンギョレ新聞社

 ドナルド・トランプ大統領と金正恩(キム・ジョンウン)北朝鮮国務委員長の選択は、結局“シンガポール”だった。北朝鮮にも米国にも友好的な関係を維持してきたシンガポールの中立的位置、二人の指導者の移動距離、現地の治安・宿泊・マスコミのアクセシビリティなどさまざまな要素を考慮した結果と見られる。

 トランプ大統領が3月初め、金正恩(キム・ジョンウン)委員長との史上初の朝米首脳会談に応じる意向を明らかにして以来議論されてきた候補地は、平壌(ピョンヤン)▽板門店(パンムンジョム)▽シンガポール・モンゴル・スイスなど第3国の三通りだった。このうち北朝鮮は平壌を、韓国は板門店を好んだという。しかし、平壌開催は北朝鮮に対する「過度な譲歩」という理由で、板門店開催は北朝鮮核廃棄より平和協定の締結により重きが置かれることになるという“象徴性”ゆえに選択されなかった。ニューヨークタイムズは10日、「金正恩委員長を、象徴的ではあるが政治的に問題の素地がある非武装地帯(板門店)の外に引き出して、シンガポールを選択したことはトランプ大統領の小さな勝利」と指摘した。

 第3国のうちでは、早くからシンガポールが最有力候補地に選ばれてきた。シンガポールは1966年に米国と、1975年には北朝鮮と国交正常化し、その後朝米双方と友好関係を維持してきた“中立地帯”だ。金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員会委員長は、毎年友好国シンガポールの祝日(8月9日)に合わせて祝電を送っている。米国はもちろん北朝鮮もここに職員4人が駐在する小規模な大使館を開いている。北朝鮮の国民はシンガポールにノービザで入国できる。

 シンガポールで朝米首脳会談を受け入れられる会談場としては、毎年アジア安保会議(シャングリラ会議)が開催されるシャングリラホテル、マリーナベイサンズ、セントーサ島が挙げられる。ハンギョレが11日、現地のホテルに来月12日の首脳会談前後に客室予約を試みた結果、シャングリラホテルは「3泊以上は可能だが、1~2泊の予約は不可能」と返答した。このホテルのスタッフは「たまにイベントがあると、このようなやり方で予約を受ける」と話した。確認されてはいないが、朝米会談と関連しているのではないかという推定も可能だ。 2015年11月、66年ぶりに初の両岸首脳会談を開いた中国の習近平国家主席と馬英九台湾総統もシャングリラホテルを会談場に利用した。

 マリーナベイサンズホテルも所有主のシェルドン・アデルソンがトランプ大統領と親しい間柄であるため、会談の場に利用される可能性がある。アデルソンは11月の米国中間選挙を控え、共和党に巨額を寄付したという。

 朝米首脳らは、ひとまず1日の会談をすることにしたが、マイク・ポンペオ米国務長官は日程が1日増える可能性があると述べたことがある。トランプ大統領は来月8~9日にカナダで開かれる主要7カ国(G7)首脳会議に出席するが、すぐにシンガポールに来るなら宿泊をする可能性もある。両首脳がホテルの代わりに別途のコンベンションセンターなどを会談場に使う場合もある。

 朝米共にシンガポールは馴染みのある外交舞台だ。両国がときおりこちらで外交接触をしてきたためだ。2008年、6カ国協議の合意履行をめぐる意見の相違の調整のために、クリストファー・ヒル当時米国務部東アジア太平洋次官補とキム・ケグァン北朝鮮外務省副相が、4月と12月にそれぞれシンガポールの米国大使館で会った。その年の7月、コンドリーザ・ライス当時国務長官がパク・ウィチュン外相に会ったのもシンガポールだった。オバマ行政府の「戦略的忍耐」期間である2012年8月と2015年1月にも両国はシンガポールで1.5トラック、または2トラック対話を行った。

 会談の場所がシンガポールに決まった以上、金正恩委員長は飛行機で現地に移動するものと見られる。シンガポールと平壌は4800キロメートル程度離れていて、金委員長の専用機であるオオタカ1号(旧ソ連製イリューシン)(IL)-62M・航続距離1万キロメートル)の利用に大きな無理はない。金委員長は7~8日に習近平国家主席と2回目の首脳会談のために、中国の大連に行く際に専用機を利用した。シンガポール飛行のための予行演習だった計算だ。金委員長の祖父である金日成(キム・イルソン)主席は、1965年にインドネシアのバンドンで開かれた非同盟諸国会議出席のために6時間を超える長距離飛行をしたことがある。

 ニューヨークタイムズは「両国が米国、韓国、モンゴル、ベトナム、あるいは太平洋の米海軍艦艇など多くの潜在的会談場所に関して討論し、“政治的イシュー”と金委員長が北朝鮮の危険な飛行機に乗って遠距離を飛行できるかのような“実用的考慮”の間で均衡を合わせた」と指摘した。ジョセフ・ユン元米国務省対北朝鮮政策特別代表もこの新聞とのインタビューで「北朝鮮は板門店を好んだだろう。しかし、シンガポールは治安が安定したところだ。激しいデモ隊がいない」と話した。シンガポールは、世界の主要放送局がアジア支局を運営している重要な“メディアハブ”なので、トランプ大統領が会談の成果を精一杯に誇りうる最適な場所でもある。金正恩委員長も、4・27南北首脳会談を取材する記者たちに「よろしく頼む」と話すなど、マスコミ対応センスを誇ったことがある。

キル・ユンヒョン、キム・ミナ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/international_general/844235.html韓国語原文入力:2018-05-11 17:10
訳J.S