彼に性急に疑惑を着せて
記者も‘スパイ法違反共謀’調査
偏見・過剰捜査論難を招いた
核・安保専門家としての彼の人生は破綻し
‘自由・人権の国’米国は言う
"何も言うな。さもなくば押し潰す"
"米国情報当局は北韓が国連安全保障理事会(安保理)決議にまた別の核実験で対応するつもりだとバラク・オバマ大統領と高官に警告した。 ……. 北韓の次の核実験は中央情報局(CIA)が北韓内部情報部員から確保した4つの計画された行動の一つだ。"
2009年6月11日、米国<フォックスニュース>のジェームズ ローゼン記者は匿名の取材源からこういう内容を聴いたとし記事をオンラインに載せた。 当時は北韓がその年の4月に長距離ロケットを発射し、5月には第2次核実験を断行し、国連安保理が制裁決議を準備している時であった。 これに対して北韓がまた別の核実験とテポドン2号ミサイル発射などの追加措置を取る計画を持っていて、米情報当局がこのような機密情報を入手したということがこの記事の要旨であった。
実際、安保理はその年の6月12日に制裁決議を通過させた。 だがその後、北韓は短距離ミサイル発射試験をしただけで、この記事が言及した北韓の‘計画’は実行されなかった。 結局、誤った情報を根拠に作成されたものと判明したこの記事は、しかし一人の前途有望な核・安保専門家の人生を根こそぎ変えた。
この記事が出て3ケ月ほどが経過したその年の9月、米連邦捜査局(FBI)要員が米国務部のある事務室に押しかけた。 国務部 検証・遵守・履行局情報総括先任補佐官だった在米同胞スチーブン キム(46・韓国名 キム・ジンウ)博士の事務室だった。 米国国立核研究所であるローレンス リバモア所属だった彼は、2008年から国務部に派遣勤務をしていた。
米国捜査当局がこの記事の出処としてキム博士を名指しして捜査に入ったのだった。 捜査当局はキム博士はもちろん、ローゼン記者のコンピュータと電話通話・Eメール記録、国務部出入り情報をいわば底引き網式に洗いざらい捜査した。 そして翌年の2010年8月、キム博士に対して国家安保関連機密情報を漏洩した容疑で‘スパイ法’(Espionage Act)を適用し起訴した。 検察は起訴状で "スチーブン キムは米国に害を与え外国を利するように使われうることを知りながら、機密である国家安保情報を意図的に記者に流布した」と指摘した。 裁判所で容疑が認められれば最高15年の刑を宣告されうる罪目だ。
その時まで米国の国家利益のために最善を尽くしてきたと自負していたキム博士には青天の霹靂のようなことであった。 彼が疑惑を全面否認すると長い長い訴訟が始まった。 この訴訟は現在、事件発生以後4年、起訴以後3年を越してうっとうしい攻防が続いている。 キム博士は9日<ハンギョレ>とのインタビューで「私は米国の国家利益を害するいかなることもしていない」として「法務部がなぜ私を名指しして不法行為をしたと起訴したのか理解できない」と話した。
裁判所の審理記録とキム博士側の主張などを調べれば、法務部の捜査にいくつかの疑問点が提起される。 最初に、キム博士に対する不公正捜査論難だ。 当時ローゼン記者が報道した情報を見た米国行政府関係者は95人を越えたと言う。 特に報道する数時間前にローゼン記者はホワイトハウス国家安保会議(NSC)高位関係者と電話通話をしたと発表された。 裁判所の記録を見れば、<フォックスニュース>のホワイトハウス出入り記者は、当時国家安保会議副補佐官だったデニス・メクドナー現ホワイトハウス秘書室長にEメールを送って同僚であるローゼン記者が電話をするから受けてほしいと要請したし、メクドナー秘書室長は "分かった" と返信を送った。 この返信が来て10分ほど後にローゼン記者はメクドナーにつながる電話番号に電話をかけた。 そして数分間にわたり通話した。
しかし後に、メクドナーは捜査当局に当時の電話を覚えていないと答えた。 この電話は当時対テロ補佐官だったジョン プレノン現中央情報局局長と当時国家安保会議副補佐官だったマーク リパット現国防長官秘書室長にもつながるということだったが、この二人も覚えがないと答えたとのことが捜査当局の説明だ。 キム博士の弁護人であるエビー ローウェル弁護士は彼らに対する捜査記録を公開してほしいと要請し、裁判所は最近これを受け入れた。
ローウェル弁護士は「当時その内容をメディアに話した人々が数人いたことがわかっている」として「捜査当局が他の可能性を見ずにあまりに性急にスチーブン キムに焦点を合わせたと考える」と話した。 彼は「追跡が難しい高位職を対象にするより、スチーブン キムが追跡しやすいという点も作用したようだ」と付け加えた。
第二に、無理な捜査論難だ。 捜査当局はこの捜査をしながら異例的に記者の電話通話とEメール内訳まで調査した。 そして捜索令状の発給を受けるためローゼン記者を 「スパイ法に違反した共謀者」と指摘した。 米国で国家安保に関する機密情報を記事化したという理由でスパイ法を適用したケースはその時まで一度もなかった。
米国の主要言論がこの事件をAP通信に対する法務部の捜査とともに大きく扱って、エリック ホルダー法務長官は今年7月、記者たちの通常のニュース取材行為と関連して捜索令状を請求できないようにする内部指針を発表した。 他の人を相手にした調査を目的に発給された令状の場合、記者を相手にこれを利用できなくした。 この基準が適用されればローゼン記者の電話とEメールなどを調査するという目的で提示した令状は無効となる。
第三に、スパイ法の無理な適用だ。 スパイ法は当初第1次世界大戦の時である1917年、主にスパイを処罰するために作られたものだ。 ところが、この法は国家安保関連機密を外部に漏洩したことについても国益を害し敵を利するとして処罰対象に含めた。 法務部がキム博士に適用したのもスパイ条項ではなく、この機密漏洩条項だ。 ワシントンでは高官たちが記者たちと会って自分たちに有利な情報を言論に日常的に話すことが慣行になっている。
ホワイトハウスは昨年オバマ大統領が政治功績だとして自慢するオサマ・ビン ラディン射殺作戦に関する機密事項を映画製作者に知らせもした。 共和党側はこれをオバマの再選用だとし批判した経緯があるが、法務部は問題視しなかった。 そのため人権団体では国家安保に関する機密漏洩を利敵行為だとして処罰するならば、相当数の高官が同じように処罰を受けなければならないと主張している。
逆説的なことには、人権を重視するだろうと見られてきたオバマ行政府が国家機密漏洩行為に対するスパイ法適用を他のどの政府よりも多くしているという点だ。 オバマ行政府で関連法条項違反で起訴された事件は、キム博士を含めて計7件に達する。 これは歴代政府で起訴された事件全てを合わせたものより多い。 事実上死文化されている法条項が、オバマ行政府になってよみがえったと言っても過言ではない。 一部ではオバマ大統領が就任初期に自身が国家安保問題に対して柔弱だろうという既得権層の憂慮を払拭させるために、こういう‘機密漏洩との戦争’に出たという見解もある。
キム博士と同じく機密漏洩容疑で2010年に起訴されたトーマス ドレーク前国家安保局(NSA)幹部は、昨年10月<ブルームバーグ>とのインタビューでこのように話した。 「法務部のメッセージはこうだ。‘何も言うな、さもなくば我々があなたを押し潰すだろう。」 彼は当初最大35年刑に処されうる容疑で起訴された。 しかし2011年に検察側との刑量交渉でコンピュータを私的用途で使ったという軽犯罪に該当する疑惑に対してのみ有罪を認める代価として執行猶予1年を宣告され解放された。 ドレークは寃罪を晴らしたものの、莫大な訴訟費用がかかったことはもちろんで、スパイ法違反というレッテルが貼られ職場から追われた。 彼は「私は一文無しになった」と話した。
オバマ行政府がスパイ法を伝家の宝刀のように使う正確な動機は分からない。 しかし、その対象になる人々が加えられる苦痛はなんとも言えないほど大きい。 キム博士の場合、事実上家庭が破綻し、職業まで喪失した。 莫大な訴訟費用を賄うためにその間貯蓄しておいた資金を全部使った。 彼の両親は家まで売らなければならなかった。 もう財産がほとんどなくなったと言う。 しかしキム博士は「いくら辛くとも、私ができるすべてのことを尽くす」と語った。
ワシントン/パク・ヒョン特派員 hyun21@hani.co.kr
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[スチーブン キム Eメール インタビュー] "なぜ私を名指ししたのか、今だに分からない"
機密漏洩疑惑 私と無関係
孤独で苦しいが、すべての覚悟をしている
この戦い、今後も応援して欲しい
スチーブン キムは<ハンギョレ>とのインタビューで、米国法務部が提起した機密漏洩疑惑を全面否認した。 このインタビューは先週Eメールで進行された。
-米国法務部がスパイを処罰する法と一般に理解されているスパイ法を適用してあなたを起訴したが、疑惑を認めるのか?
"私はスパイ容疑で起訴されたわけではない。 法は‘スパイ法’と呼ばれているが、言論に機密漏洩した人々を法務部が起訴することにも利用されている。 私は国家のために忠実に奉仕してきたし、国家利益を害するいかなる事もしていない。 私の職務での目標は、常に官吏たちが外交政策を決定をするのに最善の情報を持てるようにすることだった。"
-<フォックスニュース>記者は当時、高位層にも接触したと理解するが、法務部がなぜあなたを名指ししたと考えるか?
"ワシントンで高位職にいる人々が何の処罰も受けずに毎日報道機関と話をして機密を漏洩しているということは常識に属する。 私は彼らがなぜ私を捜査対象に選択し、犯罪人のように取り扱うのか、そしてなぜ私が不法行為をしたとして起訴したのか、まったくわからず理解できない。 私は彼らが起訴したような行為をしていない。 これは本当に不当だ。"
-あなたは主にどんな仕事をしていたのか?
"博士学位を受けた後、大学に残らずに別の道を選択した。 軍事作戦を分析し、永く核抑止イシューを扱ってきた。 その次に核兵器イシューを担当した。 最上位水準の機密情報取扱許可を受けた。 私は高位要人からブリーフィングを要請されたが、私の観点に関心を示した人の中にはヘンリー・キッシンジャー、ジョージ・シュルツ前国務長官とスチーブン・ハドリー前国家安保補佐官、リチャード・チェイニー前副大統領らが含まれている。"
-今回の事件があなたの人生をどのように変えたか?
"私と私の家族全員に途方もない衝撃を与えた。 私は好きな職業を放棄しなければならなかった。 そして結婚生活を破壊した。 私の家族は訴訟費用を賄うために貯蓄したお金を全部使い、家まで売らなければならなかった。 残っている財産は殆どない。 私がしてもいない事のために起訴されて、疑いをかけられて生きるということは孤独で辛い経験だ。 あなたはあなたが犯してもいない犯罪で起訴されるということがどんなことなのか、想像できないだろう。"
-今後の計画は?
"どれほど辛くとも私はできるかぎりのことを尽くす覚悟ができている。 法務部がこの事件に数十人の弁護士を動員するなど、多くの資源を投じているのは公正でない。 私は戦い続ける。 彼らが起訴した行為を私がしていないということを、人々が認めてくれることを願う。 また可能で意味のある仕事を見つけて、私の家族を養えることを望む。 私がこの戦いを続けられるよう応援して欲しい。"
ワシントン/パク・ヒョン特派員