[ズームイン] アッと言うほど暴騰した貸切保証金…(4953字)
‘1億2千万ウォンの貧困’を握りしめた30代仮想新婚夫婦の2泊3日
‘貸切住宅難民’歩き詰め日誌
□チェ・ソンジン、キム・ジョンヒョ
"あー、そうですか…。" 思わず細いため息がもれた。頭を横に振った女子職員はノートから目も離さなかった。黒の角縁メガネを一度抑えて表情は変えなかった。売り物情報が書かれたノートをす早く渡し彼女が付け加えた。「その金額ではアパートは難しいです。こちらの地域ではいくら小さなアパートでも最低が2億ウォン以上すると見なければなりません。」
"築25年 アパート貸切、2億ウォンなければ"
2億ウォン。生まれてこの方、そんなお金に触ってみたこともなく、2億ウォンの価値を私はよく分からない。ただし今暮しているアパートの保証金1億2千万ウォンより大きなお金だという事実は分かる。まだ返すことの出来ない銀行からの借金も2千万ウォン以上残っている。追加貸出を受けることもできるだろうが、それにしても2億ウォンは無理だ。世の中の事情も知らずにソウル、麻浦で1億~1億2千万ウォンの貸切アパートを探した。敗北感に襲われた。それでもアパートに向けた未練を捨てられなかった。
←2月9日午後、ソウル、松坡区、蚕室のある不動産仲介業所前に賃貸物件案内文が貼られている。 ハンギョレ21 キム・ジョンヒョ
"麻浦現代アパートですか。かなり古いところなんですが、そこでも難しいですか?"
"22坪が出ていますが、それでも1億8千万ウォンから2億ウォンはしますね。 それも出てくれば出すね。物件が全然ないんです。"
地下鉄5・6号線、孔徳駅から徒歩10分の距離にある麻浦現代アパートは今年で築25年になる古いアパートだった。丘の上に位置し交通が不便で人気がないという考えは錯覚だった。アパート貸切需要があまりにも多いらしく、低層にある貸切・売買物件も品切れだ。麻浦現代アパートより良く見える中央ハイツアパートやテヨンアパートは訊く気にもなれなかった。
二番目に訪問したK不動産でも事情は同じだった。麻浦周辺で1億2千万ウォンの2部屋アパート貸切を探しているという言葉に、K不動産の主人は素っ気無く笑った。「1億2千万ウォンでは麻浦でなくともソウルのどこでもアパート貸切は難しいでしょう。ビラでも1億5千万ウォンはしますからね。2部屋の新築ビラなら1億8千万ウォンを越える所も多いです。」
‘1億2千万ウォン’貧しい30代新婚夫婦のためにK不動産で薦めたことは、貸切資金の借り入れだった。対象住宅が専用面積25坪型(85㎡)以下の場合、年所得3千万ウォン以下の無住宅所帯主ならば年4.5%の利子で最高6千万ウォンまで国民住宅基金貸切資金貸出を活用できる(2月8日現在)。K不動産関係者は「皆このように貸切資金貸出を受けて住んでいます。」と付け加えた。即答はできなかった。月給は少ないのに再び金を借りればマイホームの夢もそれだけ遅れる。ビラや多世帯住宅でも適当な物が出てきたら連絡を欲しいという言葉だけ残してK不動産を後にした。2月8日夕方、麻浦の風は冷たかった。
‘貸切住宅難民’。暴騰する貸切保証金に耐えられずソウル都心から郊外周辺へ、アパートからビラへ、それでもだめなら家の広さまで減らしながらあちこち飛び回らなければならない人々を示す言葉だ。2月9日、不動産情報業者ドクターアパートの調査結果を見れば、首都圏の坪当たり(3.3㎡)平均貸切価格は2009年3月の459万ウォンから現在は536万ウォンに平均76万2千ウォン上がった。2年前に30坪型(100㎡)アパートに貸切で入った借家人が、再契約時点の今 その家に住み続けたければ平均約2300万ウォンを保証金として追加しなければならないという意だ。貸切保証金の上昇幅が最も大きいソウル、瑞草区の場合、2009年3月に坪当たり795万8千ウォンだったが1037万4千ウォンに241万6千ウォン上がった。
保証金が足りなければ半貸切に追いやられる
2年間で大幅に騰がった貸切保証金を払うお金があるならば、あなたは選ばれた人に属する。心暖かい主人に出会い保証金を引き上げずに2年間さらに住み続けられるならばあなたは直ぐにロトを買っても良い。そうではない大多数の貸切難民は部屋をあけ渡さなければならない。今住んでいるアパートと、より良い家に向かった欲求と、もしかしたら自尊心までも全てあけ渡さなければならない。
翌日の2月9日午前、もう少し効率的に家を調べてみるため電話問い合わせを先にしてみることにした。ソウル、瑞草区・江南区とともに貸切保証金が最も大きく上がった松坡区を選んだ。インターネット検索の窓に‘蚕室+不動産’を入力した。一番最初に登場した‘蚕室不動産B公認仲介士’の電話番号を押した。
“あるお金が1億から1億2千万ウォン程度なんですが、蚕室地域で住める借家はありますか。2部屋の物件を探しているんですが。”
“1億2千万ウォンですか? その金額では2部屋の物件はありません。”
“あー、アパートでは無理ですか。”
“アパートでなくても2部屋の物件はありませんね。”
蚕室のアパート団地から少し離れた地域でもいいですと言った。B不動産では調べてみて連絡すると言った。その日以後、B不動産からの電話はなかった。 暖かく虚しい希望を抱かせるより冷静で正直な方が良い。
S不動産では蚕室本洞はもちろん石村洞や三田洞、松坡洞まで視野を広げれば共同仲介システムを活用して最大限に物件を探してみると言った。条件さえ合えば他の不動産に出てきた物件でも紹介するという意味だった。1時間後、連絡がきた。多世帯住宅で1億1千万ウォンで1つと1億5千万ウォンで2つの物件があったという説明だった。S不動産の主人に会ったのはその日の午後だった。
“この頃、TVでもたくさん見たが貸切物件が少ないんです。アパートだけでなくビラや多世帯住宅も皆同じでしょう。貸切保証金上昇勢も当分続くので大きな欠点がなければひとまず契約をした方が良いです。”
←ソウル、松坡洞でみた保証金1億1千万ウォンの借家(円内)と内部の台所兼居間。 ハンギョレ21 チェ・ソンジン
午前に見つかった1億5千万ウォンの多世帯住宅貸切の内の一つは、すでに契約されたと言った。S不動産主人と共に初めて訪ねて行ったところは石村洞の2部屋の多世帯住宅だった。歩いて5分で石村湖水に行けるということが長所だった。反面、台所のシンク台の一部が火に焦げていたのが気に入らなかった。 壁面タイルの一部もこわれたまま口を開いていた。何より14坪にならない専用面積が狭苦しく感じられた。
それでも、その後直ぐに見た松坡洞の1億1千万ウォンの借家に比較すればはるかに良かった。誇張無しに話せば、松坡洞の物件は1億1千万ウォンでなく1100万ウォンでも住みたくない程に憂鬱だった。シンク台はどこに出しても遜色ないほど古く、黄金色の壁紙は浮きあがっていた。不思議なことに家中のすべての室内灯の覆いはどこに消えたのか、電球だけがぶら下がっていた。部屋は2つだったが、敷居の塗料が汚らしく剥げていることが妙に調和していた。代わりに保証金5千万ウォン以上であれば残りは家賃として毎月払うこともできた。従って保証金5千万に家賃60万ウォン、そのようにしてもかまわないという話だった。すなわち保証金付き家賃、あるいは半貸切だった。
黒く黴た家でも1億3千万ウォン
暴騰する貸切保証金で左頬を殴られなければならないことが貸切住宅難民の悲しい境遇だとすれば、半貸切にさえ他方の頬を出さなければならないのかも知れない。家族数が多く広さを減らすこともままならず、子供の教育などの理由で遠方への引越しもできなくて、半貸切に追い出されるのが相当数の貸切難民の肖像だ。半貸切が多くなった理由は低い銀行金利のためだ。銀行利子が低いので貸切保証金を運用するより家賃を稼いだ方が家主に有利だ。1億1千万ウォンの借家が‘5千に60’の半貸切に変えられる理由もそうだろうか。S不動産主人に尋ねた。
“この家の保証金は前から1億1千万ウォンでしたか?”
“それは私どもには分かりません。でも、100%上がったと見て間違いないでしょう。保証金を上げるか、貸切で無く家賃に変えたいからこそ今まで住んでいた借家人を先に出したんでしょう。”
貸切物量が不足することでは鍾路区も侮れなかった。1億2千万ウォンで2部屋の貸切を探すという言葉に寿松洞のC公認仲介士事務所では鍾路区の代わりに龍山区、西界洞に一つだけあると話した。鍾路や光化門に住むなら1億4千万~1億5千万ウォンは準備しなければなければならないと付け加えた。それでも見たいと言って食い下がった。無愛想な返事が帰ってきた。「今あるという話ではなく出て来ればその位の水準だと言うことですよ。”
自分なりには歩き詰めに歩いたものの、翌日の2月10日午前まで2泊3日間、時間をあけて見て回った借家は全部で8戸だった。最も安い借家は3部屋のソウル、麻浦区、孔徳洞の多世帯住宅と鍾路区、楼下洞の2部屋の物件で、保証金1億ウォンだった。孔徳洞の借家は窓を開ければ直ぐに市場という決定的短所があった。楼下洞の部屋は1階であることに加え、あまりにも狭苦しく引越し候補から除外した。
2部屋の麻浦区、新水洞の新築ビラと鍾路区、楼上洞の3部屋のビラは保証金が各々1億2千万,1億3千万ウォンだった。専用面積は両方とも13坪余りだった。2つの家とも室内のあちこちに黒黴が見られた。激しい結露の跡だった。鍾路区の借家を紹介したD不動産代表が辛そうな表情を浮かべて話した。
“あの程度の結露が発生する所ならば建てた時から誤りがあったと見なければなりませんね。でも、借家がそれほどに無いんです。私どもと共同で仲介する不動産が何ヶ所かあるが、家をちょっと見に行くと、普段とは違い皆が来ないでくれと言うんですよ。それだけ物が少ないということでしょう。”
ソウルの空の下‘1億2千万ウォン’の巣を作ることができる部屋2部屋借家が果たしてあるのだろうか? D不動産代表の説明だ。「金額を2億ウォン以上に上げない以上、鍾路や麻浦地域で気に入る借家探しは難しいでしょう。絶対に1億2千万ウォンで2部屋というなら、都心から少し離れた中浪区や蘆原区、あるいは恩平区側い行くことを考えなければなりません。」
辺境の辺境の追い出され…
アパートからビラや多世帯住宅へ、そしてまた都心から辺境に押し出されることが貸切住宅難民の法則だと言うが、私の境遇がまさにそうだった。1億2千万ウォンの2部屋借家探しを当分断念した2月10日午前、松坡区S不動産の主人から電話がきた。状態が最もそれでも一番良いと思った石村洞の1億5千万ウォンの多世帯住宅がその間に決まったという便りだった。
文 チェ・ソンジン記者 csj@hani.co.kr・写真 キム・ジョンヒョ記者 hyopd@hani.co.kr
*付け足し
統計庁と金融監督院、韓国銀行が昨年12月29日に発表した‘2010年家計金融調査結果’によれば、世帯主年齢30才以上40才未満の中位世帯(3人基準)の資産は1億2430万ウォンだった。これら世帯の平均負債は2850万ウォンだった。資産から借金を除いた純粋財産は1億ウォンに少し足りなかった。ここで言う中位世帯とは同年齢帯世帯の資産順位を付けた後、正確に中位を占めた世帯を示す。記事に登場する平凡な30代の家長‘私’の資産規模および家族構成は統計庁の‘2010年家計金融調査結果’を参照した。
原文: http://h21.hani.co.kr/arti/society/society_general/29019.html 訳J.S