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チリ大統領選、もう一つの反極右戦線【寄稿】

登録:2025-10-04 00:21 修正:2025-10-06 06:02
6月29日、チリ共産党所属のジャネット・ハラ氏が、チリのサンティアゴで行われた左派の大統領候補を選ぶ予備選挙での勝利を祝っている/EPA・聯合ニュース

 来る11月、米大陸の南側と北側では、世界的に跋扈(ばっこ)する極右派とこれに対抗する流れの間の勢力均衡に大きな影響を及ぼすであろう選挙がそれぞれ実施される。一つは11月4日に行われる米ニューヨーク市長選挙だ。世論調査の結果によれば、ドナルド・トランプ政府が無理な介入をしない限り、民主党候補であり「アメリカ民主社会主義者」グループの会員であるゾーラン・マムダニ氏の当選が有力だ。もう一つは、大統領と下院全体、上院の半分を選出する11月16日のチリ総選挙だ。

 数カ月前までは、チリの大統領選挙の結果は明らかにみえた。極右の共和党から出馬するホセ・カスト候補の勝利が確実視されていたのだ。チリでは民主化以降、右派を代表する政党は独立民主連合(UDI)だが、この党が軍部独裁時代を「過度に」批判しているといって分裂した勢力が共和党だ。共和党の結成を率いたカスト氏は、ドイツからチリに逃走した元ナチス党員の息子であり、兄弟の一人はピノチェト軍部政権の閣僚であり、カスト自身も若い頃からピノチェトの熱烈な支持者だった。つまり、カスト路線は新自由主義と軍部ファシズムを結合させたピノチェト路線の21世紀版といえる。

 カスト旋風が吹き始めたのはかなり前だ。他の変数がなかったら、すでに2021年の大統領選でカスト氏が当選していたかもしれない。しかし、2019~2020年にチリ社会を揺るがした反新自由主義抵抗運動の余震がバランスを取るうえで強力な錘(おもり)の役割をしたおかげで、この時は極右派の政権奪取はひとまず阻止された。共産党をはじめとする急進左派政党の単一候補のガブリエル・ボリッチ氏が、大統領選の決選投票で勝ったのだ。

 しかし、ボリッチ政権が重要公約である憲法の進歩的改正を成し遂げることに失敗すると、カストがまた浮上しはじめた。少なくとも今年6月まではそうだった。この時、政党連合「チリのための団結」が大統領候補を選出した。「チリのための団結」はボリッチ政権を生み出した急進左派政党だけでなく、穏健左派、中道派政党が総結集した組織だ。民主化以降数回にわたって政権を握ってきた社会党、キリスト教民主党などの中道勢力が、総選挙で共産党と手を組んで全面的に共同対応することを決めたのは、今回が初めてだ。

 ところで「チリのための団結」は党内選挙の末、中道勢力ではなく共産党が立てた候補を単一候補として選出した。ボリッチ政権で労働福祉長官を務めた人権弁護士であり、女性政治家のジャネット・ハラ氏だ。サンティアゴの貧民家庭出身のハラ氏は、長官時代に労働時間短縮、年金改革で華々しい成果を上げた。そのため、ボリッチ政権の人気が底まで落ちた状況でも、大衆の支持を得ている。また、共産党の党籍を維持しながらも、社会党所属のミチェル・バチェレ大統領の第2期政権(2014~2018年)で福祉次官を務めた経歴があるため、中道派の支持層からも好感を得ている。

 6月以降、すべての世論調査でハラ候補は安定して支持率1位を走っている。しかし、決選投票での1対1の対決でカスト候補に勝てるかどうかは未知数だ。チリにとどまらず世界の注目を集め、11月まで激しい接戦を続けなければならない状況だ。

 ただし、最終結果が出る前にも注目すべきことがある。ニューヨーク市長選であれチリ総選挙であれ、これまで主流リベラルが率いてきた反極右連合の性格が変わりつつある兆しが見られるということだ。新自由主義の慣性から抜け出せないリベラルに代わって、脱新自由主義の社会改革を強調する左派が、反極右政治の新たな求心点として浮上している。

//ハンギョレ新聞社

チャン・ソクチュン|出版・研究集団「ペゴッサンヒョンジェ」企画委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr)

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1221819.html韓国語原文入力:2025-10-01 18:48
訳C.M

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