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解雇ばかりか労働者の賃貸保証金まで仮差押えした日本企業の韓国子会社

登録:2023-11-21 05:56 修正:2023-11-21 20:54
[ハンギョレ21]「黄色い封筒法」 
日本企業の子会社・韓国オプティカルハイテック
金属労組の韓国オプティカルハイテック支会の組合員らが2023年11月13日、火事で焼けた亀尾工場の前に立っている=リュ・ウジョン記者//ハンギョレ新聞社

 自宅の保証金の仮差押えを確認した時のことを、パク・ジェジョンさんははっきりと覚えている。2023年9月1日、同僚がカカオトークのグループチャットにメッセージを送った。「会社が自宅を仮差押えしたらしいので、みんなも一度確認してほしい」。パク・ジェジョンさんは不安な気持ちを抑え、借家のオンライン登記を確認した。「金4000万ウォン(約460万円)、債権者:韓国オプティカルハイテック株式会社、債務者:パク・ジェジョン他4人」。自身の借家の登記書類にこのような文面が記されていた。彼が使用者側の解雇決定に対抗した代価だった。

 「大変なことになった、と思いました。口座を差し押さえられるのはまだわかるとしても、伝貰(チョンセ。契約時に高額の保証金を賃貸人に預ける代わりに月々の家賃は発生しない不動産賃貸方式)の保証金を仮差押えするというのは、私は初めて聞きました。1月初めには今の家を引っ越さなければならないのに、保証金がなければ家を借りることもできません。その後は毎日のように眠れませんでした。心配のあまりに夜中に何度も目が覚めます」

 別名「黄色い封筒法」と呼ばれる労働組合および労働関係調整法(労働組合法)第2条と第3条の改正案が11月9日、国会の本会議で可決された。ストライキを行った労組を相手に、企業側が無分別な損害賠償請求訴訟と仮差押えをすることに歯止めをかけるものだ。経済界はこの法律を「悪法」と呼び、大統領に再議要求権の行使を建議し、ハン・ドクス首相は「国民の生活からかけ離れた法律」だと非難した。実際に訴訟の矢面に立つことになった労働者たちの意見は違う。会社を相手に生存闘争を行ったという理由で、数億ウォンの「損賠爆弾」を受けるべきだというのであれば、それは「労働組合活動をするなと言うのと同じだ」と語った。

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11年働いた会社に1日で切られる

 パク・ジェジョンさんは2011年、慶尚北道亀尾(クミ)にある韓国オプティカルハイテック(以下「韓国オプティカル」)に入社し、11年間勤務した。韓国オプティカルはLGにLCDの偏光フィルムを納品する日本の日東電工グループの韓国子会社だ。2017年まで年間売上額は7000億ウォン(約800億円)に達した。「あまりに忙しくて昼食も食べられず、菓子で間に合わせて仕事をする時も」パク・ジェジョンさんは大丈夫だと考えていた。

 2018年から韓国オプティカルの売上は3000億ウォン(約350億円)台に落ち込んだ。ディスプレイ業界の業況が悪化したことを契機に、会社側は2019~2020年に2回の構造調整を行った。運良く解雇を免れた人たちは残留した。2022年10月、亀尾工場で火災が発生すると、会社側は清算を決めた。亀尾で生産していた製品を平沢(ピョンテク)工場に移した後、労働者全員に希望退職を提示した。従業員210人中193人が退社し、17人が残った。パク・ジェジョンさんと同僚らは「平沢に生活根拠を移すから、平沢工場で働けるようにしてほしい」と要求した。会社側が平沢工場で新たに採用するという採用人員に、残った17人を加えてほしいということだった。

 会社側は拒否した。「亀尾韓国オプティカルと平沢日東オプティカルは、それぞれ別の法人であるため、雇用を継承する義務はない」とした。労働者らは雇用継承が受け入れられるまで闘うことにした。2023年2月から無給で10カ月、労組事務室に出勤した。会社側はこれらの人たちが工場撤去を妨害しているとして、退去拒絶と業務妨害罪で刑事告訴する一方、妨害禁止の仮処分と撤去遅延にともなう「損害額」4000万ウォンの仮差押えを裁判所に申し立てた。8月末に仮差押えが認められ、パク・ジェジョンさんと同僚たちの自宅の伝貰の保証金が差押えられた。

 「私は昨年から携帯電話の料金も2万ウォン(約2300円)台に減らし、労組事務室の無線LANを使っています。保険もいくつか解約しました。そんな状況で自宅の伝貰の保証金まで差押えられたので、妻に本当に申し訳なかったです」

 実際、会社側が仮差押えを申し立てる際に主張した被害金額は4000万ウォンだ。会社側は労組の反対で労組事務室の撤去が遅れたとして、8月3日(撤去を最初に試みた日)から8月24日(仮差押え申立日)までの約3週間で8406万ウォン(約970万円)に達する損害を被ったと主張した。内訳を細かく見てみると、その期間中の工場敷地の賃貸料から撤去業者の人件費と通信費、事務室費に交通費にいたるまで、すべて被害額に合算した。会社側はその一部の4000万ウォンをまず仮差押えするよう裁判所に申し立てた。

金属労組の韓国オプティカルハイテック支会のチェ・ヒョンファン支会長が11月13日、ハンギョレ21のインタビューを受けている=リュ・ウジョン記者//ハンギョレ新聞社

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工場撤去計画書はまだ審査中なのに…

 工場撤去は市庁の許可が出てから着手できる。それまでは業者の人件費などは当然のことながら支出される。亀尾市庁によると、工場撤去(解体)計画書はまだ審査中だ。許可が出るまでは、工場撤去の遅延費用は労組事務室の撤去とは関係なく発生するという意味だ。このような背景は仮差押えの申立書からは抜け落ちている。

 会社側が主張した被害額4000万ウォンは、仮差押え制度を経て、請求額4億ウォン(約4600万円)にまで膨れ上がった。原理は簡単だ。仮差押えは、訴訟が長引く間に債務者が財産を隠蔽する可能性などに備え、債権者が債務者の財産を事前に保全する制度だ。債務者が多数ならば誰かは返済できるとの理由から、企業は各人に仮差押えをすることができる。韓国オプティカルはこれを十分に活用し、組合員全員にそれぞれ4000万ウォンの仮差押えを行った。ストライキで損失を出したという額は4000万ウォンであるにもかかわらず、組合員に行った仮差押えを合計すると4億ウォンになった。大邱(テグ)地方裁判所の金泉(キムチョン)支部は、仮差押え申立てをそのまま受け入れた。

 「組合員一人ひとり全員を共同不法行為者とみなして仮差押えするというのは、労使関係の上下関係を考えれば過剰な側面がある。労組活動は、個々人の行為というよりも労働組合という団体の行為だ。特に個人の不法行為がなければ、損害賠償の仮差押えは個々人にではなく労働組合に対してのみ行うべきだ」と、高麗大学法学専門大学院のキム・ジェワン教授(民法)は述べた。

 労働法の枠組み内で労組と使用者側として向き合う関係が、民法の枠組み内に入ったとたんに債務者と債権者の関係に変わった。

 「私たちが会社に何の損害を与えたのでしょうか。工場に入って機材を壊したのであれば、当然損害賠償しなきゃなりませんが、ただ労組事務室に出勤しただけのことです」

 韓国オプティカルで勤務18年目となる労働者のチェ・ヒョンファンさんはそう語った。チェさんは「使用者側の一方的な主張が裁判所で受け入れられたことは、もっと理解できない」と言い、「仮差押えがこのように簡単に認められるとは思わなかった。妻が『あなたは闘争してもいいから、私たちの貯金だけは被害が及ばないようにしてほしい』と言っていたのに、自宅が仮差押えされた」と語った。

 労組側は、現時点では不当解雇に関する裁判所の判断を受けていないのに、労組事務室から撤去することは受け入れられないとする立場だ。2015年に外国の投資企業の撤収によって整理解雇されたハイディスの労組支会も、裁判所から不当解雇勝訴の判決を得たが、工場はすでに撤去された状態だったため、希望退職を受け入れなければならなかった。韓国オプティカル支会が空っぽの工場の場所でも守ろうとするのもそのためだ。

2023年11月15日、カトリック・プロテスタント・仏教の3宗教の団体が集まり、ソウル光化門の東和免税店前で「黄色い封筒法」を祈願する宗教者断食祈祷会を行っている。団体は法の成立まで断食祈祷会を続けるとしている=リュ・ウジョン記者//ハンギョレ新聞社

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機材を壊したわけでもなく、ただ労組事務室に出勤しただけ

 「黄色い封筒法」があったとすれば、状況が違ったのだろうか。国会を通過した労働組合法改正案第3条によると、裁判所が「団体交渉、争議行為、その他の労働組合活動」に対して損害賠償の責任を認める場合、組合員のそれぞれの帰責事由と寄与度に応じ、責任の範囲を個別に決めなければならない。会社側がストライキなどで損害を被ったとすれば、原則的には労働組合を相手に請求しなければならず、組合員全員を債務者とみなして賠償を求めることはできないということだ。これまではストライキなどによって営業に支障が生じた場合、企業が損害額を大きく膨らませて組合員全員に賠償責任を負わせたりした。ストライキに参加したという理由で数億ウォンの債務を負うことになった組合員は、深刻な圧力を感じ、労組が解体したりもした。

 キム・ジェワン教授は「黄色い封筒法が施行されれば、仮差押えをされても、組合員が損賠額を全額負担することにはならない」としたうえで、「会社側が主張する金額のうち、組合員が『実際にしたこと』に対してのみ責任を負うことになる」と述べた。

 韓国オプティカルの会社側が不動産と伝貰の保証金の仮差押えを申し立てた労組組合員は10人だ。現在、雇用継承を要求する12人のうち、財産がある10人を仮差押え対象とした。

 韓国オプティカルの労働者たちは、このようなことがこれ以上繰り返されてはならないと話す。「損害賠償の仮差押えがこれほど容易に行われるということを、私も今回初めて知りました。会社側が一方的に主張したことをもとに、供託金だけで私たちの不動産全体を押さえたということです。これまで闘ってきた労働者たちが、激しい弾圧のなかで、いかに不安のもとで生きてきたか、亡くなった方々も本当に圧力が激しかったのだろうということを思い知りました。こういったことをなくすために、国会議員が(黄色い封筒)法を作りましたが、(公布されるまで)見守らなければ」。チェ・ヒョンファンさんは語った。

 「早くこのような法律が成立すれば、私たちのような弱者が少しでも保護されるのではないでしょうか。労働者も国民であり、一緒に生きていくことで国がうまく回るのに、あまりにも企業側に法が傾いているようです。今も法で許されているからこそ会社側は強気で言うんですよ。仮に大統領が(拒否権を行使)したら、弱者はさらに困難に陥るのではないでしょうか…」。勤務17年目の労働者のイ・ヒウンさんが付け加えた。

 韓国オプティカルの労働者たちとって、2023年の年末は運命の時間だ。労使がそれぞれ行った仮処分申立を待っているからだ。11月17日は、会社側の仮処分申立の尋問期日だ。12月1日は、労組側が要請した仮差押えの異議申立ての尋問期日だ。会社側が勝てば会社側が主張する「損害額」が日々増えることになり、労組側が勝てば仮差押えの金額を減らすことができる。最終的に労組側が望むことは、12人に減ったメンバーが平沢工場に雇用継承され、働けるようになることだ。

2023年11月15日、カトリック・プロテスタント・仏教の3宗教の団体が集まり、ソウル光化門の東和免税店前で「黄色い封筒法」を祈願する宗教者断食祈祷会を行っている。団体は法の成立まで断食祈祷会を続けるとしている=リュ・ウジョン記者//ハンギョレ新聞社

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90億、158億、15億、246億ウォン…損害賠償訴訟の懲罰の歴史

 ストライキを行った労組に対して企業側が損害賠償訴訟で「懲罰」するのは、歴史のなかで絶えず繰り返されてきた。2003年の斗山重工業の損害賠償訴訟で命を絶った労働者のペ・ダルホさんを皮切りに、2009年には双龍自動車労組の組合員と家族30人あまりが、暴力鎮圧のトラウマと損害賠償訴訟の圧迫に苦しめられ、自ら命を絶った。2010年、現代自動車が非正規職労組を相手に90億ウォンの損害賠償訴訟を起こして認められた。キム・ジュイク支会長が損害賠償訴訟の圧力で2003年に命を絶った韓進重工業では、2012年にふたたび158億ウォンの損害賠償訴訟が起こされ、労働者のチェ・ガンソさんが亡くなった。半導体企業KECの労組組合員は、2016年から3年にわたり賃金30億ウォンを差し押さえられた。2018年にはCJ大韓通運が宅配労組を相手に15億ウォン、2021年には現代製鉄が労組と組合員641人を相手に246億ウォン、2022年には大宇造船とハイト真露がそれぞれ下請けと特殊雇用労組を相手に470億ウォンと27億ウォンの損害賠償訴訟を起こした。

 「黄色い封筒法」の公布を求めて無期限のハンガーストライキに突入した韓国基督教教会協議会などの宗教団体は、11月13日に声明を出し、「数多くの労働者と市民の切実な願いのもとで国会を通過した労組法第2条・第3条の改正案が、大統領の拒否権によって消えることのないよう、ただちに公布されることを願う」と明らかにした。

[黄色い封筒法とは?]

→ 労使の団体交渉の範囲をこれまでより拡張し、ストライキに対して企業が起こす損害賠償訴訟にも制限を設けた労働組合および労働関係調整法(労働組合法)第2条・第3条の改正案。これまでは、労使の団体交渉は一つの事業所の内部だけで保障され、社内下請けの労組や特殊雇用職の労組は実質的な労働条件を決める元請けと交渉できなかった。これらの労組が10年にわたり叫び続けた「本当の社長出てこい」というスローガンは、労働組合法第2条の「使用者」の定義を拡大する条文の改正として現実となった。また、これまでは占拠ストライキなどが発生した場合、会社側がストライキに参加した個人まで債務者とみなし、数億ウォン台の損害賠償訴訟を起こす慣行が続いた。新法は、損害賠償の主体を労働組合団体と個人に分離し、個人には直接の行為に対してのみ損害を賠償するように制限した。

シン・ダウン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1116870.html韓国語原文入力:2023-11-18 11:58
訳M.S

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