本文に移動

「核の高度化」対「圧倒的な力」…核の緊張が高まる朝鮮半島

登録:2023-10-13 05:47 修正:2023-10-13 11:38
北朝鮮は憲法の条文に「核保有国」を明記 
韓国は「力による平和」ばかり強調する対立の時代
北朝鮮の金正恩国務委員長が、2023年9月26~27日に平壌の万寿台議事堂で開かれた最高人民会議第14期第9回会議で演説をしている/聯合ニュース

 「朝鮮半島で核をめぐる緊張感が、よりいっそう危険な水準にまで高まった」

 核兵器廃絶のための長きにわたる努力が認められ、2017年にノーベル平和賞を受賞した多国籍平和団体「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)は、2023年9月28日に出した資料でこのように評した。ICANは「危機の兆候」として2つ挙げた。1つ目は、北朝鮮が韓米日3カ国間の核協力の深化に対抗し、「核兵器の高度化」を憲法の条文に明記した点だ。2つ目は、北朝鮮が核兵器を使えば「北朝鮮政権を終わらせる」という尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の発言だ。過度に強硬になった言葉が行動に発展する可能性が高まっている。危険な情勢のもとで、過去30年あまり続いた北朝鮮の核・ミサイル問題の解決に根本的な変化が必要だとする指摘が出ている。

________
「『核国家』北朝鮮を内外に宣言したもの」

 北朝鮮は2023年9月26~27日、平壌(ピョンヤン)の万寿台議事堂で、最高人民会議(国会に相当)の第14期第9回会議を開催し、「朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法」の一部の内容を修正補完することを議決した。「朝鮮中央通信」の報道によると、議案報告を行ったチェ・リョンヘ最高人民会議常任委員長は「国家防衛に占める核戦力の地位と核戦力建設に関する国家活動の原則を、共和国の基本法であり社会主義強国建設の偉大な政治憲章である社会主義憲法に規定するために憲法修正・補足案を審議、採択する」と述べた。

 続いて演説をした金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は、「今年われわれが収めた成果のうち最も大きな成果は、国家防衛力、核戦争抑止力の強化において飛躍的な全盛期を確かに開いたこと」だとし、「強力な防衛力と圧倒的な攻撃力を徹底的に備えた共和国の威力ある実状を現実で見せるこのような目覚ましい成果は、われわれの自主権と生存権を脅かすいかなる行為も許さないという朝鮮の胆力と決行力がどんなものであるのかを明々白々と証明」したと述べた

 この日の最高人民会議は、これまで「朝鮮民主主義人民共和国は、全人民的、全国家的防衛体系に依拠する」と規定されていた北朝鮮憲法第4章58条の改正案を全員一致で採択した。改正された第58条には「核兵器の発展を高度化し、国の生存権と発展権を担保し、戦争を抑制し、地域と世界の平和と安定を守護する」と明記された。

 前文と7章172条からなる北朝鮮憲法は、1948年9月の憲法制定から今回まで合わせて16回改正された。旧ソ連の没落と冷戦終結の直後である1992年4月の最高人民会議第9期第3回会議(第8次改憲)では、それまでなかった「国防」に関する第4章が新設された。また、金正日(キム・ジョンイル)国防委員長の死亡直後の2012年4月に開かれた最高人民会議第12期第5回会議(第11次改憲)では、「核保有国」という点を憲法の前文に明記した。北韓大学院大学のク・ガプ教授は、「憲法の前文にあった『核保有国』が条文の中に入り、特に『核兵器の高度化』を明記したのは、『核国家』であり北朝鮮は核兵器を放棄する意思はないという点を内外に宣言したもの」だとしたうえで、「深刻な状況」だと指摘した。

北朝鮮が「戦勝節」(朝鮮戦争の停戦協定締結日)70周年の2023年7月27日夕方、平壌の金日成広場で開催した軍事パレードで公開した大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星18型」/聯合ニュース

 「わが共和国が世界最大の核兵器保有国であり、最も危険な戦争国家である米国とその追随勢力との長期的な対立の中で、自衛のために避けられず核を保有し、核戦力強化政策を法制化したことは、世界が公認する事実だ。(中略)もし、わが共和国が引き続き増大されてきた米国の核恐喝と威嚇の前で、他国の核の傘に漠然とした期待をかけていたり、帝国主義者がしつこく宣伝する取るに足らない『善意』と派手な誘惑に幻想を抱いて核保有路線を決断できなかったなら、(中略)とうの昔に核の惨禍と絶滅の災難を免れなかったであろう」

________
米国からも「非核化」の代わりに「非拡散」の主張

 この日の会議で、金正恩委員長はこのように主張した。さらに金委員長は、拡大抑止強化のための韓米核協議グループ(NCG)の開催▽韓米合同軍事演習の強化▽米国の核戦略資産を常時配備の水準で朝鮮半島に展開など、2023年4月の韓米首脳会談の際に発表された「ワシントン宣言」の中心的な内容を一つひとつ論じ、「わが共和国に対する核戦争の脅威を史上最悪の水準へと極大化している」と非難した。「核兵器の高度化」を憲法の条文に明文化した「理由」というわけだ。

 特に金委員長は「(米国が)日本と『大韓民国』との3カ国軍事同盟システムの樹立を本格化することによって、戦争と侵略の根源的基礎である『アジア版NATO』がついに醜い正体を現すことになった。これはいわゆる修辞的威嚇や表象的な実体ではない実際の最大の脅威」だとしたうえで、「帝国主義者の暴政の核が地球上に存在する限り、核保有国の現地位を絶対に変更・譲歩してはならず、かえって核戦力を持続的にいっそう強化しなければならないというのが、わが党と政府が下した厳正な戦略的判断」だと強調した。核の脅威に対抗して核武装を行い、核の脅威が消えない限り「核武力の高度化」を止めないという主張だ。

 北朝鮮は、2019年2月の「ハノイ・ノーディール」以後、韓米が過去30年あまりの間、北朝鮮の核・ミサイル問題の解決策として推進してきた「非核化」方式の代わりに、今後は「『核保有国』対『核保有国』」として米国と核軍縮協議に入るという意向を何度も明らかにした。ウラジーミル・プーチン大統領も、2019年4月にロシアのウラジオストクを訪問した金委員長との首脳会談後に単独で行った記者会見で、北朝鮮に対する体制の安全の保障の必要性とともに、「核軍縮」を口にした。核拡散防止条約(NPT)第6条は「各締約国は、核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する」と規定している。

________
尹錫悦政権「韓米同盟の圧倒的対応、北朝鮮政権の終り」

 米国内部からも「非核化」の代わりに「非拡散」と「脅威の減少」へと焦点を移さなければならないという主張が出て久しい。北朝鮮の核・ミサイル問題の専門家である米国「ジェームズ・マーティン不拡散研究センター」(CNS)のジェフリー・ルイス東アジア担当局長は、2022年10月13日付のニューヨーク・タイムズに寄稿し、「もはや北朝鮮が核兵器を保有しているという点を認める時がきた」と指摘している。北朝鮮の最高人民会議が、核保有と核兵器の運用原則を含めた「国家核武力政策法」を立法化し、核兵器を放棄する意思がないことを対外的に明確にした直後だ。ルイス氏は次のように書いた。

 「冷戦期も米国はソ連と対峙し、核戦争のリスクを下げるための方法を議論した。だが、米朝関係改善のためのこれまでのすべての努力は、北朝鮮が先に武装解除しなければならないという米国側の意地のため、無意味に終わった。(中略)北朝鮮を核保有国と認定することは明らかに悪いことだが、米国はすでに事実上(核保有国として)認めている。米国当局者が金正恩政権の核プログラムを容認できないという言葉ばかりを口にしている間、北朝鮮は核兵器の保有量を増やし続けている。もはや現実を受け入れ、朝鮮半島での戦争のリスクを下げる努力をしなければならない」

 文在寅(ムン・ジェイン)前政権の対北朝鮮政策を「失敗作」であり「政治ショー」だとみなす尹錫悦大統領の考えは、まったく違うようだ。大統領候補だった頃から「力による平和」を外交・安全保障政策の中心的な基本方針として強調してきた尹大統領は、2023年9月26日に開かれた軍創立75周年の「国軍の日」記念行事で、次のように述べた。北朝鮮最高人民会議が「核武力の高度化」条項を憲法に加えるために議論をしていた時だ。

尹錫悦大統領が2023年9月26日、城南のソウル空港で開かれた「国軍の日」75周年の祝賀パーティーで「力による平和」というフレーズを背景に祝杯を挙げている=大統領室提供//ハンギョレ新聞社

 「北朝鮮は過去数十年間、国際社会の度重なる警告にもかかわらず、核とミサイルの能力を高度化しており、さらには核使用の脅しを露骨に加えている。これは、私たち大韓民国国民に対する実存への脅しであり、世界平和に対する重大な挑戦だ。(中略)北朝鮮政権は、核兵器が自身の安全とリスクを守ることはできないという事実を明確に理解しなければならない。北朝鮮が核を使う場合、韓米同盟の圧倒的な対応を通じて、北朝鮮政権を終わらせるだろう」

________
「借りてきた力」、むやみに使えず

 国際政治学における「力による平和」は、「ある国家が蓄積した軍事力と安全保障の資産をもとに、他国に自国が望む外交・安全保障的な環境を強制すること」を意味する。1980年、米国大統領選挙の際に現職だったジミー・カーター大統領(民主党)の「安全保障無能」を批判するために、共和党のロナルド・レーガン候補が「力による平和」を前面に掲げた。実際、レーガン大統領は政権発足後に天文学的な資金を投入してソ連との無制限の軍拡競争に乗りだし、それがソ連崩壊の原因の一つとされている。

 一方、「力による平和」は容易に「安全保障のジレンマ」に繋がりうる。ある国が安全保障を追求する行為が、相手国の安全保障を脅かすと、相手国もそれに相応な安全保障の増強に乗りだし、結局は自国の安全保障を危険にさらす状況が作られる。停戦70年を迎えた南北にとっては教科書的な事例だ。陸軍大佐出身の米国の歴史学者であるアンドリュー・ベースビッチ氏は2010年8月20、CBS放送に出演して次のように述べた。「軍事力の効能に対する信頼は、ほとんど必然的に実際に使おうとする誘惑を呼ぶ。『力による平和』は容易に『戦争による平和』に変わりうる」

 北朝鮮の改憲のニュースが伝わった2023年9月28日、統一部は声明を出し「韓米日の圧倒的な対応と国際社会の協調のもとで制裁と圧力を強化し、北朝鮮の核開発を抑制し断念させていく」と明らかにした。「韓米日」と「国際社会」が、尹錫悦政権の言う「力による平和」の実体ということだ。「借りてきた力」であるだけにむやみに使うことはできないということがせめてもの幸いというべきか。

チョン・インファン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://h21.hani.co.kr/arti/world/world_general/54500.html韓国語原文入力:2023-10-07 12:26
訳M.S

関連記事