[金東椿(キム・ドンチュン)の暴力の世紀 vs 正義の未来](5132字)
韓国戦争期、罪なき民間人を射殺したカナダ軍人 本国召還後 免罪符
強大国参戦軍人の殺人犯罪糾明・断罪を未だ無視する韓国政府
←去る4月26日、カナダ、バンクーバーの韓国人会館でビクトリア大学のジョン プライス教授(左側)をはじめとするカナダ市民社会の人々が韓国戦争期にカナダ軍人によって韓国人が殺害された事件に関して、カナダ政府が遺族に謝罪し補償せよと要求する内容の記者会見を行っている。 キム・ドンチュン提供
去る4月26日、カナダ、バンクーバーの韓国人会館で異色な記者会見が開かれた。 韓国戦争期、京畿道(キョンギド)坡州(パジュ)のシン・ヨンドク氏がカナダ軍人に殺害された事件について、カナダ政府が遺族に謝罪し補償せよと要求する内容だった。 この記者会見を斡旋した人はビクトリア大学のジョン プライス教授であった。 彼に会ったのは昨年バンクーバーに学術行事のために行った時だ。 ‘真実・和解のための過去事整理委員会’活動もよく知っていた彼は、今回のカナダ、ワーテルローで開かれたサンフランシスコ平和条約60年記念学術行事に共に参加する私にバンクーバーに立ち寄れるかと尋ねた。 韓国戦争中、カナダ人が犯した戦争犯罪に対して記者会見をしようということだった。
15年刑を受け4ヶ月後に解放
初めて彼がバンクーバーで記者会見をしようと提案した時、若干ためらった。 私が真実和解委員会常任委員の任期を終えた民間人の身分であることに加え、彼が語るカナダ軍人の韓国民間人虐殺事件は私が真実和解委員会にいる時に先送りして処理できないまま出てきて申し訳ない気持ちもあったし、そのために私が記者会見に出ることは適切でなく思えたためだ。
事件は概略このような内容だ。 1951年9月17日、休戦交渉が進行中だった板門店(パンムンジョム)付近に国連軍が駐留していたが、そこから程近い坡州(パジュ)ファンバン里のある村に40才の貧しい農夫シン・ヨンドク氏と家族が暮らしていた。 ところがカナダ軍人が家に押しかけ銃をむやみに乱射し、シン・ヨンドク氏と息子のシン・ヒョンチャン氏、韓国軍士兵が銃に撃たれた。 別の部屋にいた妻パク・ジョンスンが飛び出してみると、夫と息子は血を流して倒れていたし、10才になった娘の首を弾丸が掠めていた。 軍人が3人を病院に連れて行ったが、翌日妻が病院へ行ってみると夫はすでに死亡し、遺体は毛布にくるまれていたし、息子は別の病院に運ばれた状態であった。 おぞましい場面だった。
その軍人は直ちに逮捕され軍事法廷に移送された。 シン・ヒョンチャン氏と彼の妹が裁判に参加したが、通訳たちは軍人が処罰を受けてカナダへ強制連行されたという事実を知らせてくれた。 ジョン プライス教授がカナダ国立図書館で見つけた軍法会議資料によれば、加害者カナダ第57野戦工兵中隊所属ジョン モーリー スティーブスは事件当日朝、韓国人を殺してやると周辺の人々に話したという。 スティーブスは町内を歩き回り女を探したが、シン・ヨンドク氏とその家族に銃を乱射した。 彼は軍事法廷で殺人罪により15年刑を受けたが、カナダへ移送された後4ヶ月が過ぎた1952年5月1日に免罪されて釈放された。 カナダ軍法会議は彼が精神的に‘ゆがんだ’(wayward)状態だったとの理由で免罪符を与えた。 遺族はこのすべての事実に対してカナダ政府から何らの公式通知も受けることはできなかった。 以後、スティーブスと対話した直属上官ミッチェル中隊長によれば、スティーブスは非常に意識が鮮明であり韓国人が自身の時計を盗んだので3人に銃を撃ったという事実を明確に記憶していた。
現場で銃により負傷したが奇跡的に生還した息子のシン・ヒョンチャン氏は1999年から韓国国防部に嘆願を提起し、ジョン プライス教授の斡旋で公益訴訟を担当するバンクーバー現地の弁護士ゲリー キャロラインを通じてカナダ政府に謝罪と補償を要求している。 シン氏は真実和解委員会にも真相究明申請をしたが、この事件は私が去った以後‘却下’処理された。 真実和解法の調査対象である集団虐殺でなく、国家犯罪とは距離があったためだ。
イラク民間人24人を殺害した米軍人は90日懲役
私はプライス教授の情熱に感服して記者会見に参加することにした。 私の憂慮に気づいたのか、彼は今回の記者会見で要求するのはカナダ政府の‘法的’責任ではなく道徳的責任を問うということを強調した。 会見文でも「韓国とカナダの友情を持続、強化するためには、韓国戦争期にカナダ軍人が韓国民間人に対して犯した犯罪が綿密に検討されなければならない」と明示した。 カナダが対内外的に人権国家であることを強調しながらも、過去にカナダ軍人が犯した犯罪に対して加害者処罰もきちんとせずに、被害者である韓国人に何らの謝罪も補償もしなかったということは恥かしいことだというものだ。 カナダ政府は最近、真実和解委員会を作り原住民であるインディアンにも謝罪と補償措置を行ったし、下院では日本軍慰安婦問題の解決を促す決議も通過させた国だ。 そしてバンクーバー ブリティッシュコロンビア大学(UBC)で第2次世界大戦中に日系学生たちを退学させたことについても名誉卒業証書を与えるなど自ら過去の誤りに対する是正措置を積極的に行っている。 保守党政府だが少数者に対する配慮が多いというのが彼の指摘だった。
事実、戦争期にこのような類型の殺人事件は数えきれない程に多い。 プライス教授の説明によれば、当時カナダ軍人が韓国民間人を殺害した事件はその他にも多い。 米軍による殺人事件がさらに多いということも私たちは知っている。 学者はこのような犯罪を‘非組織的暴力’と呼ぶ。 戦争や革命などの激変期には、平和や秩序が構築されている時期より軍人が犯罪を犯す可能性がはるかに高い。 しかも性欲が旺盛な20代始めの兵士たちは、戦争の危険と兵営でのストレスのために片っ端から性暴行と暴行を犯す可能性が大きい。 ところで、戦争期の軍事法廷はスティーブスに対する判決のように個人が精神的に問題がある兵士と見なして単純殺人罪を適用し軽微な処罰をしたり、それすらもほとんどが免罪符を与える。
去る1月27日、米国軍事法廷は2005年イラク民間人24人を殺害した米第1海兵連隊所属の下士官フランク ウトリチに90日の懲役を課す軽微な判決を下した。 彼は2005年11月19日、イラク、ユーフラテス河岸の町ハチタで作戦中に女性4人と子供7人が含まれたイラク民間人24人を殺し、子供の頭にまで銃を撃った。 彼は部下に「先ず撃って、後で尋け」と命令したという。 24人を殺した軍人をたった3ヶ月の刑に処したことにイラクの人々はいきりたった。 この判決はイラク人の血と人間性自体に対する攻撃だと興奮した。
←ジョン プライス教授は韓国戦争期に戦争犯罪を犯した自国軍人に免罪符を与えたカナダ国防部の行為や忠北(チュンブク)、栄洞の老斤里(ノグルリ)で米軍が住民を大量虐殺した事件などの背景には韓国人を殺害しても何の問題もないという‘白人優越主義’が基礎にあると分析した。 老斤里事件を扱った映画<小さな池>。ハンギョレ資料
被害者が白人でもそうしただろうか
戦争期には死んだ人はいても殺した人は見つからないケースが茶飯事だ。 しかも殺害者が強大国の軍人ならば殺した軍人を捜し出しても、彼を処罰して被害者が応分の謝罪と補償を受けることはほとんど不可能だ。 ところで戦争が終わって秩序が回復した時期になっても駐留外国軍による被害はほとんど未解決事件になったり、加害者は自国へ移送されて免罪符を受け取っている。 映画にもなった‘イテウォン殺人事件’の被害者チョ・チュンピル(当時23才)氏のお母さんは殺人者の1人だったアダ パターソンが事件から14年後の2011年5月米国で逮捕されたという事実を聞いた。 米国側から公式通知を受けたのではなく、季節ごとに法務部に電話をかけ捜査の進行状況を尋ねていたが、2011年に入り2回目にした電話で息子を殺した犯人が捕えられたという消息を聞いたということだ。 14年にわたり自宅の電話番号も交換せず引越しもせずに法務部の連絡を待っていたという。 しかし、法務部職員は同日午後再び電話をかけてきて「へたに騒ぎたてれば良くないことが起こり得る」と話した。 米当局が遺族に当然事件の進行状況を知らせ、韓国政府がそれを斡旋するのが当然だが、そんなことはなかった。 死んだ人だけが無念な思いをしたわけだ。
現在2万8500人いる駐韓米軍は、米国の国防戦略によりその数が継続的に減っているが、犯罪件数はむしろ増加している。 民主統合党パク・ジュソン議員が法務部から受け取った資料を見れば、2008年261件、2009年325件、2010年380件で米軍犯罪は増え続けている。 今年は上半期だけで米軍犯罪が214件起きた。 暴力、窃盗および強盗、性犯罪などの凶悪犯罪が高い比重を占める。 裁判まで行くことも少ないが、険しい過程を経て裁判まで行っても被疑者が処罰を受けるケースは殆どない。 2011年1月から8月まで、韓国の裁判所に立った米軍人は計91人だが、この内1人は無罪を受け、有罪を宣告された90人の中で実刑を宣告された米軍人は4人に過ぎなかった。 3人は執行猶予、残りの83人(92%)は罰金刑を受けて解放された。
プライス教授は著書でシン・ヒョンチャン氏家族事件を基本的に人種主義的観点から接近している。 当時カナダ国防部の高位層に深く根付いた人種主義が犯罪を犯した自国軍人に免罪符を与えた構造的理由だというものだ。 白人優越主義がすなわち戦争だというが、韓国人に対する甚だしい蔑視が当時の参戦米軍やカナダ軍人の間で一般的であったし、したがって韓国人を殺害しても何の問題もないという意識がこの事件を処理した国防部と軍法務官などすべての人の心に敷かれていたということが彼の主張だ。 彼は米軍による良民虐殺事件である忠北、栄洞の老斤里事件にもこのような観点から接近する。 戦争期に指揮命令による虐殺事件であれ、非組織的暴力事件であれ、処理される過程は似ている。 今アフガニスタンやイラクで行われている米軍と北大西洋条約機構(NATO)軍の犯罪事件処理もこれと似ている。 果たしてイラクとアフガニスタンの人々が白人だったら、殺人事件がそのように蔓延し、加害者に免罪符を与えることができただろうか? ソウル、イテウォン殺人事件のチョ・チュンピル氏のお母さんも14年間も泥沼に陥った未解決事件を全身で体験し、加害者が米軍人ではなくてもこんな事件経過にまでなるだろうかと考えたという。 戦争は常に犯罪を蔓延させるが、外国人が戦争に投入された時、その強度は更に深刻になりえる。 ところでその外国軍が世界を支配する米国など西側諸国の軍人ならば、作戦範囲内の民間人はどんな境遇に置かれることになるだろうか? 日本の沖縄、韓国、ベトナム、イラク、アフガニスタンの駐屯地周辺で暮らす民間人は果たして今までどんなことを体験し、それに対して各国家はどんな態度を取っただろうか?
一人のカナダ学者の涙
韓国戦に参戦した多くの米軍人とカナダ軍人が貧しい境遇の韓国人に食べ物と服を与え、孤児養子縁組をするなどの善行を行ったのも事実だ。 我が国の軍人がベトナムの人々に果たしてどのようにしたのかを尋ねるならば、恥ずかしい点がさらに多い。
バンクーバーの記者会見場でプライス教授が数年前に亡くなったシン・ヒョンチャン氏のお母さんの結婚指輪の写真を見せながら涙まじりに語った。彼女の恨多き人生が加害国家の学者である彼の喉を涙で詰まらせた。 ところで韓国人の中の誰がこの家族の悲劇のために泣くことができるだろうか? 「韓国側が公式にこの問題を挙論しないのに、私たちの要求が受け入れられるだろうか?」記者会見後の昼食の席で参席者のカナダ人がこのように話した。
聖公会(ソンゴンフェ)大社会科学部教授
原文: http://h21.hani.co.kr/arti/society/society_general/32140.html 訳J.S