第2次ドナルド・トランプ政権で産業・貿易政策を総括するハワード・ラトニック商務長官候補は29日(現地時間)、上院人事聴聞会で「日本の鉄鋼、韓国のテレビ家電などの場合、彼らは我々をただ利用した。これからは彼らが我々と協力してその生産を再び米国に持ってくる時だ」とし、「私は同盟国が米国内の製造業の生産性を上げるよう(我々と)緊密に協力すると考える」と述べた。韓国の家電産業は米国に投資・生産拠点を移転しなければならないという発言だ。
彼はなぜ先端半導体などハイエンドの技術分野ではなく、韓国のテレビを名指ししたのだろうか。ナイス信用評価のキム・ミョンス代表理事は20日、ナイス信用評価のウェブサイトに掲示した「トランプ時代に適応しなければならない韓国企業」というコラムで、韓国のテレビ家電企業が米国市場を守るために米国企業に技術を移転・協力する事例が成功すれば、トランプはこの事例を挙げてアップルの最高経営者(CEO)のティム・クック氏に「iPhoneも台湾のフォックスコン生産工場を米国に移転せよ」と圧迫するだろうとの見通しを示した。
産業的に米国と中国がデカップリングする時、最も難易度が高いのは電子産業だ。米国は世界最高のR&D能力を備えているが、電子製品の製造では徹底的に中国に隷属している。全世界のほぼすべての電子製品は中国で生産され、米国の電子製品輸入額は2023年基準で携帯電話546億ドル、PC・サーバー392億ドル、テレビ101億ドルに達する。輸入者はアップル、HP、Dellなど米国の看板企業だ。
これに先立つトランプ1期目当時の2018年1月、米国政府は突然、輸入洗濯機品目に輸入クォーターを賦課し、クォーター超過物量には50%の高率関税を課すと発表した。ワールプール、ゼネラル・エレクトリック(GE)などの自国業者を保護するための措置だった。LGとサムスンは当時、洗濯機工場を中国から北米に迅速に移転し、現在米国市場シェア40%をキープしている。ワールプールも米国内の10の工場をフル稼働し、シェア(32%)を伸ばしている。今回の2期目の政権任期内に韓国のテレビ、洗濯機、冷蔵庫の生産工場を米国にさらに多く誘致し、技術移転・協力方式で米国の家電企業の跳躍を図り、これを通じて中国製の電子製品の輸入を米国の自国製品に代替しようと考えているということだ。
新年に入ってLG電子は、トランプ政権の関税引き上げが現実化する場合、米国に工場を移す案も考慮しうると明らかにした。これについてキム代表は「北米テレビ市場(年間209億ドル)は洗濯機の10倍の規模で、韓国の家電メーカーがテレビ市場を中国メーカーに奪われれば存立が難しいだろう」とし「テレビは洗濯機と違い、米国内で米国企業の市場シェア(6.5%)が極めて低く、米国の立場としては中国製品の輸入を防ぐための高関税(中国製関税率11.4%)の実益がない」と診断した。韓国家電企業との技術移転・協力で米国企業のテレビ市場シェアが上がるように米国商務省が韓国家電企業の米国工場移転を圧迫しているという話だ。
さらに、トランプの米中電子産業のデカップリング戦略は、韓国の家電メーカーとしては光速で追撃してくる中国の電子産業を阻止する良い機会になるかもしれない。これについてキム代表は「現代自動車グループの現代製鉄が補助金もなしに米国に製鉄所を建てると言っているが、これは米国内に現代自動車の工場をさらに多く建てることができるという意味」だとし、「同様に韓国企業のテレビが米国で製造されれば、韓国のディスプレイやノートパソコンの工場も後に続くことになるだろう」と予想した。米中のデカップリングにうまく適応すれば北米市場で恩恵を受けることができるが、その一方で韓国企業の米国進出が加速化すると「韓国国内の産業空洞化」を招き、韓国内需市場はますます縮小されるという懸念がある。