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[レビュー]「発展戦略」になった戦争…ロシア・ウクライナ戦争からみた多元覇権時代

登録:2024-04-08 05:58 修正:2024-04-08 17:17
エコノミーインサイト_Economy insight 
編集者に聞く経済と本|戦争後の世界 
 
『戦争後の世界:多元的覇権時代、韓国の選択』朴露子(パク・ノジャ)著|ハンギョレ出版
『戦争後の世界:多元的覇権時代、韓国の選択』朴露子(パク・ノジャ)著|ハンギョレ出版|2万ウォン//ハンギョレ新聞社

 「政治は、書生的な問題意識と商人的な現実感覚をともに備えていなければならない」

 今年で生誕100年をむかえる金大中(キム・デジュン)元大統領の数多くの語録のなかでもとりわけ人口に膾炙する言葉であり、彼が亡くなった現在でも、政治の本質をついた言葉だと評される。

 金大中元大統領の言葉は、国内政治よりも国際政治にこそふさわしい。自分と自分たちの正しさを前面に出すだけでは相手である外国を説得できないため、国際政治では徹底した現実感覚が必須だが、現実を分析するだけにとどまり問題意識を失えば、弱肉強食の世界を承認することになり、道徳と倫理の居場所がない。実際に金大中元大統領は、「書生的な問題意識」と「商人的な現実感覚」をもとに「3段階統一論」という固有の統一論を主唱し、シンガポールのリー・クアンユー元首相と「アジア民主主義」をめぐり論争するなど、国際政治でも卓越した見識をみせた。

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「商人的な現実感覚」

 『戦争後の世界』は、「書生的な問題意識」と「商人的な現実感覚」で、ロシア・ウクライナ戦争、さらには戦争が変える世界秩序を分析した本だ。著者の朴露子(パク・ノジャ)教授は、ソ連出身の知識人らしく、韓国人があまり知らないロシア社会の中に隠された作動原理を隅々まで示し、ロシア・ウクライナ戦争がなぜ発生し、今後どのような様相で進行するのかを説明する。

 著者の「商人的な現実感覚」が際立つ箇所は、ロシア・ウクライナ戦争を「発展戦略」として解釈したところだ。経済力では米国や中国、欧州連合(EU)の相手にならないロシアが、「第2位の軍事大国」という強みを生かし、「西側との競争から遮断された、すなわち保護された経済領土内で、銀行資本や情報技術(IT)資本などを育てようとする」(89ページ)試みがロシア・ウクライナ戦争だったというのだ。この「発展戦略」は、しばしば「新冷戦」と称される世界秩序の再編と連動している。超大国の米国が君臨した一極覇権体制から、様々な地域強国が勢力バランスを成してけん制する多元覇権体制への移行を、この戦争は予言している。

 こうした「商人的な現実感覚」を通じて、米国をはじめとする西側世界がいくら語気を強めて批判して制裁を加えても、ロシアが戦争を止めない理由を知ることができる。私たちは、私たちの常識で理解できないことが発生した場合、そうした問題を起こした国家や勢力が非合理的だと決めつけたりするが、多くの場合、彼らもそれなりの「合理的な」判断によってそのような行動をとっていることを理解する必要がある。

 しかし、本書は「書生的な問題意識」も捨てていない。ロシアの「合理性」を理解することは、決して彼らの侵略を「合理化」するためのものではない。むしろ、侵略の主体の内在的論理を理解することによって、彼らの今後の行動を予想し、さらには平和を模索するためだ。

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「書生的な問題意識」

 したがって、ロシア・ウクライナ戦争は「西側世界に対抗したロシアの自己救済策」だとしたり、プーチン政権は新自由主義に対する「進歩的代案」だと評価する一部の「進歩的な」知識人たちとは違い、著者はロシア・ウクライナ戦争とプーチン政権の非倫理性をより強力に批判する。非正規職やプラットホーム労働者たちの権利が侵害され、民主的な労働組合に対する弾圧が激しいロシアの現実、ウクライナでプーチン政権が犯した虐殺、標的暗殺、不法監禁、強制移住などに言及し、ロシアに対する幻想を捨てなければなければならないと強調する。

 実際、プーチン政権の行動は朝鮮半島の平和にとって潜在的な脅威要因だ。プーチン政権はロシア・ウクライナ戦争で用いる北朝鮮製の兵器を大量購入し、その代価として、北朝鮮に先端軍事技術を移転するものと予想される。これは、ただでさえ不安定な朝鮮半島の安全保障環境を、よりいっそう悪化させる可能性が高い。

 ならば、今も現在進行形のロシア・ウクライナ戦争で、そして、この戦争によって多元覇権体制に再編される世界で、韓国は何をすべきなのか。「商人的な現実感覚」で韓国を取り巻く世界を冷静に認識しながらも、「書生的な問題意識」を捨てずに、自由、人権、民主主義などの価値を守るためには、何が必要なのか。何より、この新しい「戦争の時代に、戦争をせず、朝鮮半島の平和を守って乗り越えていく方法」(14ページ)とは何なのか。残念ながらそこまで語るには与えられた紙面のスペースが小さすぎる。だから、この質問の答えが気になる人たちは、『戦争後の世界』を直接手に取ってほしい。ロシアと朝鮮半島、さらには国際情勢に対する深い理解をもとに展開される鋭い洞察と具体的な代案に出会えるはずだ。

キム・ギョンフン|ハンギョレ出版人文社会チーム代理 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/economy/economy_general/1135517.html韓国語原文入力:2024-04-07 09:24
訳M.S

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