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[日本の輸出規制から2年]技術における日本からの自立、残るは「最後の壁」のみ

登録:2021-06-29 03:39 修正:2021-06-29 10:06

東進セミケム発安工場を訪ねて 
 
日本の3大規制品目のうち、完全国産化が未達成の 
唯一の品目「フォトレジスト」 
政府による予算支援、諸企業の密着協力 
日本が掌握する市場で「シェア10%」
シリコンウェハーの上にフォトレジストをコーティングする様子。ウエハーを素早く回転させると、均一な膜が形成される=東進セミケム提供//ハンギョレ新聞社

 工場訪問前に送られてきた案内の電子メールには、携帯品リストを記してほしいと書かれていた。携帯電話以外は原則として持ち込めないとの趣旨だった。写真撮影にも難色を示した。清浄状態を保たなければならない保安施設であるということと、光に敏感な物質を製造する施設であるためだという。

 今月22日午後、京畿道華城市(ファソンシ)にある東進セミケム発安(パラン)工場を訪れた。案内棟の保安検査台を過ぎて中に入ると、工場の敷地が広がっていた。外から見ると平凡な農工団地施設のように見えたのとは全く違っていた。現場で会ったキム・ジェヒョン副社長は「総敷地面積は5万坪を少し超える」と話した。

 外壁に「3」と記された建物に入ると、ガソリンスタンドに来たような化学薬品の匂いがした。入り口から中に入ったところにある壁に設置されたスクリーンでは、フォトレジスト(半導体、ディスプレイ用の感光液)の製造過程を動画で見ることができた。ソルベント、ポリマー(合成樹脂)、感光剤などの原材料を精製し、適正な比率で混ぜて感光液を作る過程は、水と甘味料を混ぜて清涼飲料水を作る場面を思い起こさせる。

 石油から抽出された様々な化合物を精製、混合して製造する薄いオレンジ色のフォトレジストは、特殊製作された1ガロン(3.8リットル)の茶色のガラス瓶に入れられ、サムスン電子をはじめとする半導体メーカーに納品される。精製、混合はもちろん、最後にガラス瓶に入れる過程まで全てが自動処理され、3階にある管制所でこれを制御する。

 フォトレジスト製造企業としては韓国の代表格である東進セミケムの発安事業所第3工場の竣工・稼動(今年4月)や、「極端紫外線(EUV)用フォトレジスト」技術の短期間での向上は、いずれも日本の輸出規制措置がなければ現実とはなり得なかった。EUV用フォトレジストは「高純度フッ化水素」(エッチングガス)、「フルオリンポリイミド」(ディスプレイ素材)と並ぶ輸出規制強化3大品目で、2019年7月の日本による規制から2年となる今も、完全な意味での国産化段階には至っていない唯一の品目だ。

 「光(フォト)」に「抵抗する(レジスト)」という意味を持つフォトレジストは、半導体基板(シリコンウェハー)に回路の下描きを描くのに使われ、半導体製造の最初の工程の最重要素材に挙げられる。光を浴びると反応する性質を持ち、版画でインクがのる所とのらない所を区分するような役割を果たす。ウェハーを回転させながらフォトレジストをコーティングし、一定の厚さの膜を形成した後に、回路の設計図「フォトマスク」をかぶせ、光に当てればウェハーに設計図のパターンが描かれる。いわゆるフォト工程(露光工程)だ。このパターンに沿って、続く工程で半導体回路が最終形成される。

 フォトレジストは使用する光の波長によって、フッ化クリプトン(KrF、248ナノメートル)用、フッ化アルゴン(ArF、193ナノメートル)用、EUV(13.5ナノメートル)用などに分けられる。回路の線の幅を意味する数字が小さいほど微細な工程に有利となる。日本が規制対象とした戦略物資こそ、まさにEUV用フォトレジストだ。超微細な工程に使われ、国内では現在、サムスン電子でのみ量産に使われているという。

 フォトレジスト分野において国内では独歩的な東進セミケムは、この2年間で2つの重要な成果をあげている。どちらも日本の輸出規制に対抗して予算を投入した国策事業として推進されたものだ。

 一つは、従来の素材より性能を大幅にアップグレードしたフッ化アルゴン用フォトレジストを開発したことだ。長く取引関係のあったSKハイニックスをはじめ、これによってサムスン電子にもアップグレードしたフッ化アルゴン用フォトレジストを昨年11月から供給できるようになった。これまでは日本の企業にほぼ完全に掌握されていた分野だ。

 キム副社長は「日本の規制開始時は、内心では心配になることもあったが、当然チャンスとも考えた」とし「課題の実行に着手する時点で直ちに予算が出るほど、政府の対応と支援は早かった」と述べた。これが、2019年9月に開発に着手し、予想よりはるかに早く9~10カ月後の翌年6月には開発作業を終え、同年11月に製品化、商業化の段階へと至った主な要因とされる。

東進セミケムの作業員たちがフォトレジストの入った特殊ガラス瓶を手にしている//ハンギョレ新聞社

 キム副社長は「顧客企業(サムスン電子、SKハイニックス)がテスト作業を多く行ってくれたことにも大きく助けられた」と付け加えた。「かつては一度に2~3個程度テストしていたとすれば、多い時は20個をテストするほど多くの評価を実施してくれたおかげで、開発が早く実現し、優れた品質の製品が作り出せた」。日本側の圧力によって生じた切実さが、素材の需要者と供給者を密着させた形だ。

 同じく現場訪問時に取材に応じてくれた同社のキル・ミョングン専務は「韓国のフォトレジスト市場における日本側のシェアは約85%と依然として高いが、東進のシェアは規制以前は6~7%だったものが、現在は10%を上回っている」と述べた。同社の資料によると、韓国のフォトレジスト市場の規模は1兆4000億ウォン(約1370億円)ほど。

 もう一つの重要な成果が得られた分野は、まさに問題のEUV用フォトレジストだ。東進は素材の品質向上にかなりの進捗を見せており、あわせて安定した品質を確保するための準備も進めている。

 EUV用分野において、完全な意味での国産化と考えられる製品化・商業化の段階に至るのがいつになるかはまだ分からないとキム副社長は述べた。品質をさらに改善する努力とともに、「昨日作ったものと今日作ったものが同じ品質を保っているか」などを繰り返しテストした後に決まるだろうという。まだ開発中であり、量産段階には至っていないという点で、依然として未解決の課題を一つ抱えているわけだ。

 国内の素材・部品メーカーがこれまで多くの困難を経験してきた理由について、キム副社長は、日本とは異なる発展過程を歩んできたことを挙げた。日本が基礎産業を発達させ、上へと着実に積み上げるようにして産業を育んできたとすれば、韓国は逆に上(上位産業)からまず産業を育成し、下(素材、部品)へと下りてくるという圧縮成長方式だったとの分析だ。

 日本の輸出規制後、日本のメーカー(TOK)や米国のデュポンが国内に投資し、フォトレジストを生産、供給したことで一息ついてはいるものの、国産化の努力は続けなければならないとキム副社長は語った。キム副社長の説明によると、真の意味での国産化や自立化は製品開発一つで終わるものではなく、上位デバイス(製品)に必要な素材や部品を必要時に供給できるという技術の自立にまでつなげなければならないからだ。外国企業が国内に投資して供給のボトルネック現象を解消したとしても、いつでも再び行き詰まる状況は念頭に置いておくべきだということだ。

 「日本や米国の企業が韓国に進出しているが、メインの開発サイトは彼らの本社にあるため、限界がある。まず基礎から固める作業を純韓国企業は行うべきだと考える」

 キム副社長は「半導体産業が発達するのを見て我が社が半導体素材事業に参入したように、東進のようなフォトレジスト企業が成長すれば、その原材料を事業化しようとする国内企業が生まれ、続いてその企業に原料を供給する基礎原材料産業が連鎖的に生まれる可能性がある」と話した。基礎原材料から半導体に至る安定したサプライチェーンが生まれ、外部環境に動揺しない強靭な産業体系はこのような過程を通じて形成されるとの説明だった。

華城/キム・ヨンベ先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/economy/economy_general/1001103.html韓国語原文入力:2021-06-28 04:59
訳D.K

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