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最高の発明品「セルカ棒」はなぜ“迷惑アイテム”になったのか

登録:2015-03-17 01:08 修正:2015-03-17 08:18
 セルカ棒、「展示品毀損可能」などの理由で博物館などで「禁止」
 個人的に便利な道具が社会にとっては脅威とある状況
オーストラリア紙ヘラルドサンに掲載されたセルカ棒を素材にした漫画//ハンギョレ新聞社

 米国の時事週刊誌タイムが「2014年最高の発明品」の一つに選んだ「セルカ棒」が2015年早々からあちこちで「迷惑アイテム」となっている。

 3月初め、フランスのベルサイユ宮殿とロンドンのナショナルギャラリーは、観光客のセルカ棒の使用を禁止すると発表した。パリのオルセー美術館は、写真撮影自体を禁止する。 ルモンドによると、ルーヴル美術館とポンピドゥーセンターもセルカ棒禁止を検討している。米国ワシントンDCのスミソニアン博物館ではカメラの携帯と撮影は許されるが、セルカ棒の使用は禁止される。シカゴ・デトロイトのアートインスティチュート、ニューヨークの近代美術館(MoMA)とメトロポリタン美術館、グッゲンハイム美術館も、ロサンゼルスのゲッティセンターとゲッティヴも、セルカ棒の搬入を禁止した。オーストラリアのキャンベラ国立美術館もセルカ棒禁止だ。イタリア・ローマのコロセウムは2月から訪問客にセルカ棒を携帯できないようにした。今月初めの2人の米国観光客がコロセウムの壁に自分たちの名前を刻んだ後、セルカ棒で写真を撮っていたところ、逮捕された。

 遺跡や博物館だけではない。今年の初めに東京ディズニーランドは、入場者のセルカ棒の使用を禁止した。英国のサッカープレミアリーグ、アーセナルとトッテナムも本拠地でセルカ棒の搬入を止めている。英国最大の屋内会場であるグリニッジのO2アリーナも、シンガポール国立競技場もセルカ棒を禁止した。南米の国はサッカー場でのセルカ棒の使用を遮断しており、今年、ブラジルリオのカーニバルの行進でもセルカ棒は禁止された。旅行者の必需品として脚光を浴びているセルカ棒が、世界的な観光地では使用が禁止されているのである。

イラストレーターロブ・ドビー(Rob Dobi)が音楽専門サイト(Noisey.com)に載せた絵。出所ロブ・ドビーのツイッター(@Robdobi)//ハンギョレ新聞社

 有名な博物館とスタジアムのセルカ棒禁止政策は、セルカ棒の人気に起因する。1、2人ではなく、大勢の人々が同時に1メートルの長さの鉄の棒を頭の上にかざしている状況の潜在的な危険性のためだ。遺物や展示品を傷づける可能性があるという懸念と、セルカ棒撮影者たちが他の人々の視野の邪魔になり、落ち着いた感想の雰囲気を壊すという観覧客の不満が主な理由だ。スタジアムや祭りでは、いざとなると凶器として使用される可能性もあるという懸念も禁止事由に加えられた。

 セルカ棒のせいではない。ユーザーたちが、時と場所をわきまえることなく、どこでもセルカ棒をかざすのが問題だ。実際にセルカ棒は全く新しい発明品ではなく、プロの写真家たちが使っていた一脚スタンドの一種だが、大衆化により問題も伴った。以前はカメラと一緒に三脚や一脚を持ち歩く人たちは、どのような状況で道具を使用したらいいのかについて、判断と経験が豊富な人が多かった。ところが状況が一変した。セルカ棒は値段も安く、持ち運びも簡単だ。使い方は別に習得する必要もないほど簡単で、誰もが携帯して使うことができる。

シンガポール国立競技場のセルカ棒禁止案内//ハンギョレ新聞社

 デジタル技術の進歩と個人化の傾向もその背景にある。機器はさらに持ち運びが簡単になり、常に身につけていたり、体の一部のように付着できるようになった。スマートフォンに続いて、スマートウォッチが注目されている。道具がさらに個人化して、身体の一部のようにいつも携帯するようになる状況は、技術の使用に関して新たな問題を投げかける。自分は個人的な道具として使用しているが、その使われ方は自分の目的を超えて、社会的に影響を与える状況になる。私の「個人的な用途」が他の人々の利益や安全、または心理的に新たなリスクとなる可能性があるからだ。

 新技術は、実際に使われる状況では、ユーザーの省察とエチケットも必要だが、設計と開発の段階から様々な検討が必要だ。代表的例がグーグルグラス(Google Glass)だ。 「撮影(take a video)」コマンド一つで目の前のすべてのものを撮影し、気になることがあればインターネットで検索できるので、その着用者をサイボーグのように強力にしてくれる技術だ。しかし、グーグルがグーグルグラスを手術室や出入国審査台のような特別な場所や用途に制限することなく、誰でも使用できるように一般販売に乗り出したことで、それに対する人々の不安や懸念は技術に対する肯定的期待を圧倒した。着用者は強力にするが、残りの人たちは裸にするような技術になりかねない。結局、グーグルグラスは、登場して間もなく苦戦を強いられ市場から撤退した。技術が実際の使用時に現れる社会的影響を十分に考慮しなかったら、その技術は、開発者の確信や期待とは異なり、ユーザーから見向きもされなくなる。

ク・グボングォン ハンギョレ人とデジタル研究所長(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力: 2015.03.16 15:09

https://www.hani.co.kr/arti/economy/it/682393.html  訳H.J

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