イーマートが大型マートとして初めて農産物流通の全過程を直接担当できるシステムを備えたことは、国内農産物の歴史で重要事件に挙げるに値する。 農産物の流れの全過程に一定の影響を及ぼす可能性があるためだ。 イーマートの新しい流通システム構築を端緒として、ソウル可楽市場(カラクシジャン)仲買人、産地蒐集商、慶北(キョンブク)聞慶(ムンギョン)と霊泉(ヨンチョン)のリンゴ農家、農業経済専門家などを広く取材して韓国農産物流通の現場を覗いて見て未来を計ってみた。
①リンゴ果樹園
イーマートに売るか、可楽市場か
価格は同等…手数料が減る分だけ利益増
直配は価格が20%高いが手間
選別・包装・発送…"あまりに疲れる"
■慶北(キョンブク)リンゴ果樹園の収支勘定
慶北(キョンブク)聞慶市(ムンギョンシ)虎渓面(ホゲミョン)梨の木山の山麓、海抜300m地帯に位置したソンゴク農園では、この頃卵大に育ったリンゴをはさみで間引く作業が真っ最中だ。 同じ条件でも農夫の手の入れ方によりリンゴの品質には大きな違いが生じる。 良く育つところの実だけを残して、残りは間引いてこそおいしいリンゴを得ることができる。 ソンゴク農園の面積は2ヘクタール(6050坪)、農場主の手入れがリンゴの木の一株一株まで届けられる限界面積だ。
29年前に桑畑を耕し返してリンゴを植えたソンゴク農園の農場主ハン・サンヨル(53)氏は聞慶でもおいしいリンゴを作ることで名が知られた。 昨年11月イーマート バイヤーがハン氏を初めて訪ねてきた。 ハン氏のリンゴは価格が高く普段は大型マートではあまり購入しないが、新しく建てたフレッシュセンターCA貯蔵庫に初めて入れるリンゴを探しに来たイーマートは、ハン氏の最上品リンゴ7.6tを購入した。
初めての取引は満足できた。 1㎏当たり約3100ウォンで計2,350万ウォンを受け取った。 可楽市場(カラクシジャン)に送っても同じくらいの値が付くが、産地流通センターの手数料と競売手数料などで出て行くお金が6~7%程度になる。 それだけハン氏の取り分が増えたわけだ。
イーマートよりさらに高い価格を得る方法もある。 消費者から直接電話で注文を受けて宅配でリンゴを送る‘直配’だ。 ソウル 江南(カンナム)のあるアパート団地で口コミのおかげでハン氏は昨年、リンゴ収穫量の40%ほどを直配で売った。 中間段階を全て省略した直配価格は、イーマートや可楽市場より20%以上高い。 だが、中間段階をなくせば中間段階がしていたことをハン氏が直接しなければならない。 注文が入るたびに1,2箱分のリンゴを自分で選別して包装して郵便局まで持っていき送るのは並大抵の仕事ではない。 ハン氏は徐々に直配比率を減らすつもりでいる。
"直配が価格は良いがあまりに手間がかかって。 冬場に休むこともできない。" 慶北霊泉(ヨンチョン)普賢山(ポヒョンサン)の山裾で25年にわたりリンゴ農作業をしているソ・ジェムン(52)氏も最上品リンゴを生産している。 ソ氏は毎年収穫したリンゴ全量を可楽市場に送る。 可楽市場を経ずに直取引をしようという電話を何回も受けたが全て断った。 「直取引も初めて何度かは大丈夫。ところが数年過ぎたら価格を自分たちが思いのままに決めようとする。」
②キャベツ産地 蒐集商
種をまいて一ヶ月 畑買いすれば
3・4ヶ月 収穫時まで
農作業・リスク負担
"この商売、大儲けした人はいない"
■現代版許生員の失われた名誉
よく‘畑買い商人’と呼ばれる産地蒐集商が不当に暴利を取るならば誰よりも農民が蒐集商を嫌悪して当然だが、実状は違う。 「蒐集商がいなければ農民は皆死んでしまう。」 ソ・ジェムン氏が言い切った。 普通、農家で農作業をするために借りた借金を返さなければならない時期は秋の収穫期だ。 大金が必要な農家が秋に一度にリンゴを出荷すれば価格が暴落する。 産地蒐集商が大金を必要とする農家の窮地を救い、物量を調節する緩衝の役割を果たしている。
"価格騰落があまりにも激しいので、農民は恐ろしくてリンゴを永く持っていない。 蒐集商がいなければ、今まで昨年のリンゴが残っているか。」この頃、大邱(テグ)と慶南(キョンナム)密陽(ミリャン)のハウス キャベツ農家を行き来するのに忙しい産地蒐集商チョン・チュングン(62)氏が、ソウルの自宅に留まる日は1年に2ヶ月にもならない。 「底(産地農家)で一株当たり500ウォンで私たちに渡したハクサイが、可楽市場の競売で3000ウォンと言いながら、私たちが許生員のように暴利を取っているかのように言うが、農家が受け取る500ウォンがいつ受け取るか分かって言っているのですか?」普通ハクサイは種をまいて刈り取るまでに三,四ヶ月かかる。 500ウォンを受け取る農家は種をまいて一ヶ月で産地蒐集商に畑を渡す。 それ以後にあるかもしれない気象異変や病虫害、価格暴落のリスクを蒐集商に渡すということだ。 高齢化が深刻で多くの農家が収穫期まで農作業を行うのが難しいことも現実だ。 畑買い契約以後、収穫期までの二ヶ月余りの間、農薬を撒き肥料をあげて農作業を終えるのは産地蒐集商の役割だ。
「夜明けに地方のバスターミナルに行けば、全国からおばあさんたちが集まります。 私のような蒐集商が日当8万ウォンずつを渡して、そのおばあさんを雇用して畑仕事をします。 その費用だけ計算しても、ハクサイ価格は500ウォンではなく2000ウォンです。」 収穫期になれば産地蒐集商は‘作業班’を呼ぶ。 韓国人の作業班長が通常8人の移住労働者を乗合車に乗せて、畑を巡って農作物をトラックに積む。 8tトラック1台を満たすのに産地蒐集商が作業班に払う作業費が50万ウォンだ。「この商売をして大金を儲けた人がいるなら一度探してみなさい。」チョン氏は昨春、大邱(テグ)キャベツに6億ウォンを投じたが、時季外れの雹に降られた。 キャベツが "ぞうきん" になった。 政府が被害申告を受け付けたが、それは農家だけに当てはまる話であった。 畑を売り渡した農民が補償金を受け取り、チョン氏は雹の中で生き残ったキャベツを選び出し、かろうじて1億5000万ウォンだけを取り戻した。 15年前に50億ウォンを持って始めた事業は、一時は住んでいた家まで失う程にだめになり、今はかろうじて半分まで回復した。
③可楽市場 仲買人
農産物の品質によって分けて
需要と供給によって価格調整
100億売って10位圏の売り上げ
"職員7人の給与含めて4億残る"
■可楽市場 仲買人の目利き
慶北(キョンブク)霊泉(ヨンチョン)のソ・ジェムン氏が可楽市場に出すリンゴをほとんど全て買っていく仲買人がチェ・ヨンジン(48)ウンソ農産代表だ。 チェ氏は1988年に従業員として可楽市場に初めて入ってきて15年目の2003年に働いていた店を買い取って社長になった。
農産物は工業製品とは違い品質差が大きい。 大きさ、形、色、糖度、強度、食感、産地などにより品質が分かれる。 産地では自ら農産物を分類して可楽市場に送るが、より良い値を得ようとする欲は品質分類の定規を揺さぶる。 品質が劣る農産物の箱にも‘特’の印が捺されたりする。 表面から見える側には良い商品を置いて、内側には品質が劣る商品を詰め込む‘中入れ’も珍しくない。 可楽市場の仲買人は全国から上がってきた農産物を品質により分類しなおす。
このように分類された後に、需要と供給の法則が適用される。 適正量より出荷量が少しでも多ければ価格が暴落し、少しでも少なければ価格が暴騰する。 高いからと食べないわけにもいかず、安いからと多く食べることもできない農産物の典型的な特徴が‘需要の非弾力性’だ。
国内農産物の約50%が取り引きされる可楽市場競売の核心機能が‘価格発見’だ。 品質差と需要供給の法則によりソ・ジェムン氏のリンゴ価格は昨年1㎏当たり最低1912ウォンから最高5681ウォンまでの違いが生じた。 産地蒐集商と畑買い契約をしようとする農家も、産地蒐集商から農産物を購入しようとする地方卸売市場の商人も、可楽市場の競売価格を基準にして判断する。 CA貯蔵庫に‘時間に逆らったリンゴ’(長期保存リンゴ)を積み上げたイーマートも可楽市場の競売推移を鋭意注視して販売時期と価格を秤にかけた。
「最低5年は可楽市場でもまれてこそ物を見る目ができます。 可楽市場の仲買人の目利きは恐ろしいまで正確です。 4万ウォンの競売で最低入札者と最高入札者の価格差は1000ウォン程度しか出ません。」 チェ氏は高級果物だけを取り扱うことで差別化を試みた。 チェ氏と7人の職員が月曜日から土曜日まで週6日間、明け方2時から午前10時30分まで休みなく続く競売で最高級果物を確保する。 そのようにして確保した果物はソウル 江南(カンナム)と京畿道(キョンギド)盆唐(ブンダン)など金持ち町内のスーパーや果物店に行く。 永い歳月をかけたチェ氏の‘果物を見る目’を信頼してくれる取引先だ。
ウンソ農産の昨年の売上は100億ウォンを少し上回る。 可楽市場の1400余いる青果仲買人の中で10位圏に入る実績だ。 マージン率は3~4%水準で、昨年約4億ウォンが残した。ここから従業員7人の給与を払い、残りがチェ氏の取り分だ。
④イーマート農産物流通
元々それぞれの段階でなされてきた仕事
誰かが代行しなければ
大企業の比重が大きくなれば価格歪曲 憂慮
■流通段階の縮小だけが答なのか
イーマートが昨年9月京畿道(キョンギド)利川(イチョン)に完工したフレッシュセンターは55年の歴史を持つ農協もまだ持てない国内最大規模の先端農水産物保存・加工・包装施設だ。 これによりイーマートは産地蒐集商や産地流通センター、卸売法人、仲買人、卸売商を全て飛び越えて直接農家から農産物を買い取り消費者に販売できるインフラを備えた。 これを基にイーマートは去る4日、済州道(チェジュド)と農水畜産物販売業務協約を締結した。 済州道で計34万坪の畑を確保して、ダイコン、ジャガイモ、ニンジン、玉ネギなどを契約栽培することにした。 イーマートだけではない。 ロッテマートやホームプラスも産地農家と契約栽培物量を増やす計画を相次いで発表した。
イーマートはフレッシュセンターの運営を通じて、農産物消費者価格を品目により15~30%下げ、産地農家の収入も平均10%ほど高めたと明らかにした。 済州道との業務協約で済州道産の野菜価格を既存対比で10~20%ぐらい安くすると同時に、農家の収益は10%ほど高められると展望している。 だが、価格騰落が激しい農産物を直接流通させることは大企業の立場でも負担だ。 1,2回の価格暴落は甘受できるとしても、営利企業が毎度これに耐えることは所詮できない相談だ。 ある大型マート関係者は「特定品目の価格暴落にともなう損害を他品目の価格を上げる方式で消費者に転嫁させたり、生産者に転嫁させるしかないだろう」と話した。
大企業の農産物流通比重が過度に大きくなる場合、価格発見機能が歪曲されかねないという憂慮もある。 代表的な事例が米国の畜産物市場だ。 ヤン・スンニョン高麗(コリョ)大教授(食品資源経済学)は「米国畜産物市場を3~4社の恐竜企業らが掌握している。 これらの企業が米国全体の畜産農家の80%と契約し畜産物を生産している。 大企業が価格を決めるだけに適正価格がいくらなのか誰も分からなくなった」と指摘した。
ヤン教授は「現在の農産物流通過程で非難されて当然な人は一人もいない」として「流通段階を縮小するのが答ではなく、各段階が遂行している機能を効率化しなければならない」と主張する。 聞慶のハン・サンヨル氏のリンゴ直配のケースのように、中間段階を減らしても元々その段階でなされていた仕事は誰かが代行しなければならない。 その費用は農家が負担することになる公算が高い。
農産物流通を効率化できる核心の鍵は‘標準等級化’にある。産地で生産された農産物の品質がどの程度なのか誰もが信頼できるように等級化がなされれば、段階ごとに物をおろして品質を確認し再びのせる苦労を減らせる。 すでに1999年農産物品質管理法が制定されて品目別に標準規格を定められるようにしたが、実際の流通市場では効力を発揮できずにいる。 可楽市場ウンソ農産チェ・ヨンジン代表は「産地で300ウォン、可楽市場で2000ウォンなら、その間の1700ウォンで暮らす人がとても多い。 その中にただで金を儲ける人は一人もいない。 流通経路を多様にさせるのは良いが、その中で何が答だと強要するのは間違いだ」と話した。
ユ・シンジェ記者 ohora@hani.co.kr