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【イ・ガングクの経済散歩】数百万の働き口を奪った経済学者のミス

 筆者が博士課程の大学院生だった頃、ある教授は有名な経済学の実証研究の結果を検証してみろという課題をよく出した。 計量分析というものは実はソーセージを作る過程のようなもので、本人でなければどのように作られたのか分からないという冗談を交わしたことを思い出す。

 ほかでもないご当人のマサチューセッツ大学ロバート・ポーリン教授と大学院生のこのような作業が、経済学界に大きな波紋を投げている。 彼らの検証対象はメリーランド大のラインハートとハーバード大のロゴフ教授が2010年に発表した「負債時代の成長」という有名な論文だ。 この論文は第2次大戦後に先進国政府の負債が国内総生産(GDP)の90%以下である時は成長率が3~4%台に近いが、90%の敷居を越えれば-0.1%に大きく下がるという驚くべき結果を発表して途方もない注目をあびた。

 タイミングも絶妙な論文だった。 当時はグローバル金融危機以後、先進国政府の負債が急膨張して緊縮を叫ぶ保守的政治家たちの声が高かった。 先進国政府らは不況を深化させ全世界で数百万人を失業者にすることになるという憂慮もあったが、この論文を引用して緊縮政策を推進したのだ。 すでに2010年に政府の負債が国内総生産の90%を越えていた米国では財政支出にブレーキがかかったし、ギリシャなど財政危機にあった国家は救済金融の条件として緊縮を受け入れなければならなかった。 彼らの論文以後、数多くの関連研究が相次いだ。 いくつかの国際機構の研究は、計量分析を通じて政府の負債が全般的に経済成長率を下落させると発表した。 しかしどの研究も負債比率が90%を越える時に成長率が急落する結果を見出すことは出来なかったし、著者はデータを公開しなかった。

 ついにポーリン教授らは彼らの元データを入手し、綿密に分析を行なった。 その結果は衝撃的なものだった。この論文の結論が3つのミスから来ているというのだ。 先ず、第2次大戦直後の数年間のデータが抜けており、各国の平均成長率を計算する方式も非常におかしなものだった。 最もあきれさせられたのは、エクセルのコーディング ミスで平均を計算する時に5ヶ国が含まれなかったということだ。 このミスを全て矯正すれば、負債比率が90%以上である時も平均成長率は2.2%と計算され、最高の経済学者たちは体面を台なしにした。 その上、成長率の下落自体が負債比率を高め得るために政府の負債が成長率を落とすという因果関係は実のところ明確でない。 とにかく、問題の多い研究が緊縮政策の論理を提供し、数多くの人々の人生に影響を及ぼしたわけだ。

 韓国でも2006年、韓-米自由貿易協定(FTA)の経済的効果に関する国策研究院の報告書において成長率と貿易収支展望値が疑わしく、クォン・ヨンギル議員らが公開検証を要求した。 しかし政府は結局データを全て公開しなかった。 研究院も問題だが、さらに深刻な問題は、権力が恣意的に不十分な研究を利用したり、さらには研究に圧力を加えることだ。 いつもそうだが、誤った政策の被害はそっくり国民に回される。

イ・ガングク立命館大学教授

https://www.hani.co.kr/arti/economy/economy_general/584935.html 韓国語原文入力:2013/04/28 20:07
訳A.K(1431字)