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平凡な衣料品店主人の‘あなたのための行進曲’

原文入力:2012/10/03 22:42(4113字)

←ソウル、麻浦区(マポグ)、合井洞(ハプチョンドン)ホームプラス開店阻止に立ち上がった望遠洞(マンウォンドン)市場の商人ソ・ジョンネ(右側)氏が去る9月18日、合井駅前の座込みテントで同僚の商人と話を交わしている。 去る8月に始まった彼らのテント座り込みは2ヶ月近く過ぎた今も続いている。 リュ・ウジョン記者 wjryu@hani.co.kr

[経済民主化と私] ①市場商人ソ・ジョンネ氏

 経済民主化は財閥改革だけに限定されない。 憲法条項でも財閥の市場支配と経済力乱用を阻むだけでなく、国民経済全般の安定と適正な所得分配、多様な経済主導者間の調和を合わせる広い意味での経済民主化を規定している。 経済民主化はまた大統領選挙を控えた政界で交わされる‘彼らだけのイシュー’ではなく、中小商人、一般納税者、中小企業など各領域にあまねく絡まる‘私たち皆の課題’だ。 経済民主化の風が大規模流通資本の路地商圏侵犯を制御する‘武器’として活用されているところに見られるように、すでに‘私’の人生に影響を及ぼしていて、その流れはより大きくなるものと予想される。 6回の連載を通じて経済民主化の流れが私たちの生活をどのように変えていくのかを推し量ってみる。

大型マートに対抗した8ヶ月… "経済民主化とはこういうことでしょう"

望遠市場で衣料品店 20年
大型マートが暮らしを揺るがし
開店反対集会 先頭に立つ

 ‘合井洞ホームプラス絶対反対’という字句が書かれた薄緑色の‘闘争チョッキ’が今はよく似合っている。 集会現場で歌う‘あなたのための行進曲’もいつのまにか流行歌謡のように馴染んできた。 去る7ヶ月間にソウル、麻浦区(マポグ)望遠市場の商人ソ・ジョンネ(50)氏の人生は大きく変わった。 今は大型マートに対抗して生活の基盤を守ろうとする望遠市場商人の戦いを先頭に立って率いていて‘経済民主化’とか‘大型流通資本の貪欲’とか言う言葉を自然に口にしているが、少し前まで彼は毎日売り上げを上げるために忙しい平凡な衣料品店の主人だった。

 ソ氏は20年前、素手で服の商売に飛び込んだ。 地方の小さな会社で2年余りの職場生活をして辞めて、望遠市場に8坪の店を得た。  「4坪は住居として使い、残りの空間で‘コマドンイ(おちびちゃん)’という自社ブランドで子供服を売りました。 商売の経験がなかったために当初はかなり苦労しましたよ。」

 当時はそれでも市場の景気が良かった上に、なりふり構わず熱心に駆けたおかげで彼は席を占めることができた。 時代の流れに歩調をそろえてインターネット衣類ショッピングモールも開いて販路を拡げた。 ところが税金問題で一瞬にして事業をたたまなければならない境遇になった。 「草創期のインターネット ショッピングモールを運営したので、よく分からなかったんですよ。 オフラインでやった方式どおりにしたし、税理士もその程度申告すれば良いと言ったが、後になって税務調査を受けました。 購入資料がなかったために耐え難いほどの追徴にあって店を閉めざるを得ませんでした。」

 ソ氏は16年間育んできた子供服事業をあきらめたが、市場を去ったわけではなかった。 その間に縁を結んだ得意客がいたし、若い時期を全て注ぎ込んだ生活基盤だったためだ。 悩んだ末に彼は同じ場所出婦人服売り場を開き再起に出た。 ただし今度は自身のブランドではなく、中堅ファッション業者の加盟店を運営する方式だった。 彼は 「その間に大型マートが流通の中心に位置して資本力のある業者側に力が集中した結果、個人が市場で彼らとの競争をすることは難しい時代になった」として「大きな企業に依存して商売せざるをえなかった」と語った。

 望遠市場の近隣に大型マートが入ってきたのはソ氏が商売を始めて10年目頃の去る2003年のことだった。 市場から1.5km程離れた上岩洞(サンアムドン)ワールドカップ競技場にカルフールが売り場(現在のホームプラス ワールドカップ店)を開いた。 だが、初めはこの大型マートが自身を含む市場商人の暮らしを締めつける‘怪物’になるとは全く思いもしなかった。

"初めは一つの文化トレンドとして考え
競争相手という意識も無かったけど…
いつの間にか商売にならなくなり
景気が良くなっても状況は変わらなかった"

市場から670mの距離に大型マート開店予定
半径1km以内の小売店545軒 打撃 展望
"商人が数十年培ってきた商圏なのに
ブラックホールのようにあらゆるものを吸い込んでいく"

 "その時は一つの文化トレンドと思って私も大型マートに買い物にしばしば行きましたね。 競争相手という意識もなかったんですよ。 ところがカルフールがイーランドへ渡り、再びホームプラスに引き取られてから24時間営業をして、最廉価マーケティングに熱を上げるのを見守りながら危機意識を感じ始めたんです。」

 大型マートだけでなく企業型スーパーマーケット(SSM)のホームプラス エクスプレスも市場から300m離れた望遠駅に売り場を出した。 隣の町内である上岩洞(サンアムドン)と延南洞(ヨンナムドン)の良い場所ににもホームプラスエクスプレスが開店した。 ホームプラス ワールドカップ店がホームプラスの全国最高売上店舗に成長していく間に市場商人の売上は目に見えて下がっていった。 「いつの時からか商売がだめになりました。 景気が良くなったといっても同じでした。 私の場合は20年前も今も一日の売り上げが変わらないほどなんです。」

 このような状況で昨年春からホームプラスの店ができるという噂が広がった。 伝統市場の近隣に大型マートが入ってくるのを規制する法律と条例が通過したので、市場の商人は初めは‘まさかそんな’と思った。 誤算だった。 昨年10月、麻浦区庁に正式に質問したところ、‘ホームプラス合井店が開店することになっている’という返事が帰ってきた。 条例が通過する直前にホームプラスが登録手続きを完了したということだった。

←ソウル市、麻浦区、望遠洞の住民たちが3日午後、望遠市場とワールドカップ市場を見て回り夕方のおかずの材料を買っている。 この伝統市場の近隣にはホームプラス合井店ができる予定であり、市場商人たちが去る2月から反対運動を繰り広げている。 キム・ポンギュ記者 bong9@hani.co.kr

 ホームプラス合井店は地下鉄2号線合井駅と直接つながった新築住商複合建物の地下にスペースを確保した。 望遠市場とはわずか670mしか離れていない。 商人たちは衝撃を受けた。 ホームプラス ワールドカップ店よりさらに近い距離に同様な規模の大型マートがまたできれば、地域商圏の崩壊は火を見るより明らかだったためだ。 実際、ハンヌリ創業研究所の報告書を見れば、ホームプラス合井店ができれば、半径1km以内の小売店545ヶが打撃を受け、特に加工食品と農水畜産品を販売する69ヶの店舗は営業利益が66.8%も減ると予想されている。

 望遠市場とすぐそばの望遠ワールドカップ市場の商人たちはホームプラス開店阻止対策委員会を設け、去る2月から署名運動に突入した。 ソ氏も積極的に参加した。 彼は集会シナリオも直接作り司会も務めるなど東奔西走した。 商人たちは4回も市場全体の店を一斉に閉めホームプラス開店反対集会を開いた。 連帯の応援も相次いだ。 地域住民1万7000人余りがホームプラス開店に反対する署名に参加し、市民団体も反対運動に結合した。 その間、3回にわたりホームプラスと商人らが会って事業調停案を議論した。 だが、ホームプラス側の開店意志は変わらなかった。 商人たちは結局最後の手段として去る8月10日からホームプラス合井店ができる予定の住商複合建物前でテント座り込みを始めた。 ソ氏は毎日昼12時から2時までそこで3坪のテントを守っている。

 彼はホームプラス合井店入店反対闘争をしながら、自身と市場商人が多くのことを学び感じたと語った。 「市場商人たちは食べていくことに精一杯で自身が置かれている状況について深く悩む余裕がありません。 今回共に勉強して議論しながら大型マートが地域経済をどのように破壊するのかを知るようになりました。」地域商人が数十年間かけて投資して苦労して築いてきた既存商圏に大型マートが押し入ってきて数千億ウォンの売り上げをブラックホールのように吸い込んで、その金はほとんど地域外に抜け出るということを知ることになったというわけだ。  「地域にお金が回らなくなります。 結局以前のように中小零細自営業者と地域住民が共生した地域経済の好循環構造が崩れてしまうんです。」

 ソ氏は今年大統領選挙の話題である経済民主化が‘自分自身の問題’という事実も悟った。 「開店反対闘争に没頭している時、政界と言論から経済民主化という話が相次いで出てきました。 その時私は考えました。 複雑な理論や論理も重要だが、大型資本の貪欲に対抗して地域経済の元気な生態系と生活の基盤を守ろうとする私たち商人の闘争がまさに経済民主化運動だということを…。」

 市場商人たちの粘り強い闘争に市民団体が連帯して、政界と言論が関心を示しながらホームプラス合井店入店反対運動は個別地域の問題ではなく、大韓民国全体の路地商圏を守るための象徴に浮上した。 ソ氏が自負心と共に責任感を合わせ感じる背景だ。 「こんなにまで熱心に戦っても防げないなら希望はありません。 商人たちも最後まで熱心にがんばりますが、経済民主化をするという政界が後押ししなければなりません。」

キム・スホン記者 minerva@hani.co.kr

原文: https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/554198.html 訳J.S