原文入力:2012/03/18 22:51(2198字)
FTA 破られた約束 ② 1% 対 99%
多国籍企業ら、撤収してもセーフティネットなく対応無策
ジニ係数も10.8%↑働き口政策 ISDに巻き込まれる
カナダ、オンタリオ州、ロンドンに住むジョージ ペノー(36)は去る15年間に自動車製造工場を九ヶ所も転々とした。 初めは中小自動車部品会社で技術を習得し多国籍企業に転職したし、最近は工場が相次ぎ廃業したためやむを得ず離職した。先月3日には9回目の職場であり世界1位の重機業者であるキャタピラがロンドンのディーゼル機関車製造工場を閉鎖し、ペノーは同僚職員450人と共に路上に追い出されることになった。
キャタピラが工場を閉鎖した理由は賃金50%削減、年金制度廃止、医療恩恵縮小などの新勤労条件をカナダ自動車産業労組が受け入れなかったためだ。 これについて会社は閉鎖した機関車製造工場を、産業労組の力が弱い米国、インディアナ州に移す計画だ。会社の経営状況が厳しいためではない。 キャタピラは昨年49億ドル(5兆5200億ウォン)の利益を達成したと発表した。2010年(27億ドル)に比べて83%も増え、2次世界大戦以後の最高業績だ。機関車製造工場前でキャタピラの補償を要求する集会を開いたペノーは 「オンタリオ州で働き口を再び手に入れることは絶望的だ。妻、娘と離れて石油採掘をしに他州に行くか悩んでいる」と話した。
←1994年、北米自由貿易協定(NAFTA)発効以後、カナダの人々は市場競争論理を前面に掲げる大企業に対抗している。カナダ、オンタリオ州プレムボロ地域の住民たちは地下水を守るために、投資家-国家訴訟(ISD)を提起し採石場事業の許認可を受けようとしている多国籍セメント業者に対抗して立ち上がった。カナダ自動車産業労組(CAW)提供
1994年北米自由貿易協定(NAFTA)発効後、カナダの上位1%は経済的利益を得たが、残りの99%は産業構造が再編され困難に陥っている。 経済学者であるジム スタンフォードは「NAFTAの‘エネルギー共有’政策によりカナダの石油とガスなどの天然資源が米国へ大挙輸出された。それでカナダドルの価値が上がり、カナダ産商品と労働力の価格競争力が下がった」と話した。 2000年に米国ドルの67%水準だったカナダ ドルの価値が去る10年間に暴騰して米ドルと同等になり、同じ期間に57万ヶの働き口が製造業部門から消えた。 反面、対米輸出増大の60%以上を占める資源部門では低熟練、低賃金労働力を吸収している。
雇用が不安定になり1920年代以後初めてカナダの所得分配状態が悪化した。 所得不均衡の程度を表すジニ係数が10.8%も上昇し、2011年現在0.324を記録している。 先進国の中で所得不平等が最も激しい米国(0.378)よりは低い数値だが、不平等の進行速度はカナダの方が速い。スタンフォードは「NAFTAが発効する時、政府は勝者と敗者が生まれるだろうが、再分配により均衡を合わせるつもりだと言った。 だが、米国との価格競争力を前面に掲げた大企業が法人税と所得税を削減しろと圧迫し、政府の財政収入が減り、あわせて社会福祉支出も削減された」と説明した。実際、NAFTA発効時、国内総生産(GDP)の43%であった財政収入規模は昨年38.2%まで低下し、政府支出も49.7%から43.2%に減少した。 雇用保険から老人年金まで社会保障制度が全般的に縮小された。 スチーブン・クラークスン カナダ トロント大教授(政治学)は「カナダのような中小国が世界最強国と競争論理で対抗すれば望む結果を得ることはできない」と話した。
働き口を創り出すための政府の産業政策もNAFTAと違反する‘保護貿易主義’だとして圧迫を受けている。 代表的な事例が三星(サムスン)物産と韓国電力が70億カナダドル(約8兆ウォン)を投資してカナダ、オンタリオ州政府と締結した新再生エネルギー開発事業が投資家-国家訴訟(ISD)にまきこまれたのだ。三星物産などは2016年までに総計2500MW規模の世界最大の風力・太陽光発電および生産複合団地をオンタリオ州に建設し20年間運営することで契約した。 州政府はカナダの現地部品と労働力を25%以上義務使用するという条件で新再生エネルギーにより生産された電力を高値で買い入れることにした。 これに対して米国、テキサス州再生エネルギー開発業者であるメサ(MESA)パワーグループが“NAFTA違反”として損害賠償金7億7500万カナダドルを請求すると明らかにした。
ティム キャリー自動車産業労組ロンドン地域代表は「以前はカナダで自動車を販売するにはタイヤなどの一定部品についてカナダ産を使わなければならないという義務規定があった。 だが、それも今ではNAFTA違反になり、労働者の生存権を保護し企業の貪欲を制御する政府規制を施行できない」と話した。
トロント/チョン・ウンジュ記者 ejung@hani.co.kr
原文: https://www.hani.co.kr/arti/economy/economy_general/523997.html 訳J.S