二足歩行を機に新たな進化段階に入った人類の祖先は、自由になった手を使って道具を操り、環境を克服し始め(ホモ・ハビリス)、さらに二足歩行が確立されるとアフリカを離れて世界各地へ進出(ホモ・エレクトゥス)し、聡明な頭脳で各地に文明社会を築き上げた (ホモ・サピエンス)。
しかし、高度な技術文明を築いた今日の人類は、体を動かすことから遠ざかっている。都市に住む現代人は、起きている時間の大部分を座って過ごしている。機械に任せたまま椅子に座ってすべての仕事を処理する「ホモ・セデンス(Homo sedens)」の状態だと言っても過言ではない。
問題は、長時間の座りっぱなしの生活による活動不足が、さまざまな慢性疾患のリスクを高めることだ。公衆衛生上の問題にまで浮上した、いわゆる「椅子病(Sedentary disease)」のリスクを低減できる、手軽な方法はないだろうか。
米国ニューヨークのコロンビア大学を中心とした研究チームが、1時間ごとに5分間歩く「歩く休憩(Movement breaks:運動休息の中でも主に歩くことが多いことからここで歩く休憩とする)」が、実践可能性と効果の面でもっとも効率の良い方法であるという研究結果を、国際学術誌「英国スポーツ医学ジャーナル(British Journal of Sports Medicine)」に発表した。業務の生産性を損なうことなく、疲労や気分を改善するのに有意な効果があるという。
研究チームは、米国公共ラジオNPRの健康番組「ボディ・エレクトリック・チャレンジ(Body Electric Challenge)」に参加した成人1万9342人を対象に、21日間の実験を行った。
■30分間隔、効果はより高いが実践可能性が課題
研究チームは、様々な年齢層や職業層で構成された実験参加者を3つのグループに分け、それぞれ30分、60分、120分間隔で5分間の歩く休憩を取らせた。さらに、一日の業務終了後、あるいは業務の合間に、疲労度、気分、業務成果の変化を記録させた。
分析の結果、すべてのグループで疲労感や抑うつ感が減少し、気分が改善される現象がはっきりと現れた。特に30分ごとに歩いたグループは、疲労の減少幅が最も大きかった。だが、参加者からは30分ごとに5分歩くことは、現実的に毎回実践するにはやや負担が大きいという反応が見られた。
一方、1時間(60分)ごとに5分間歩いたグループは、疲労解消と気分転換の効果が十分でありながら、業務の流れを妨げなかったため、持続可能性の面で最も理想的な結果を示した。
研究チームは、「これまで業務中の短い休憩に対する抵抗感は、『生産性が低下する』という漠然とした懸念によるものだったが、今回の研究結果はこうした認識を真っ向から反証するものだ」と明らかにした。
研究チームは、実験参加者の業務成果と没入度を分析した結果、5分間歩く休憩が業務効率を阻害しなかったことを確認したと明らかにした。研究チームは、むしろわずかではあるが肯定的な方向に没入度と業務成果を高めたと付け加えた。
今回の研究は自己報告方式という限界はあるものの、実際の日常生活を通じて検証されたデータであるという点で意義がある。ただし、血糖値や心臓の健康など、慢性疾患に及ぼす影響を測定・分析するには期間が短すぎた。研究を主導したコロンビア大学のキース・ディアス教授(行動医学)は、「今回の結果は、今後、保健当局が身体活動ガイドラインを策定する際、「1時間ごとに5分間歩く」を重要な戦略として考慮できる強力な根拠となるだろう」と強調した。
もちろん、実践できるのであれば、30分ごとに椅子から立ち上がって、少しでも体を動かすほうが望ましい。一度に30分以上座り続けることは、がんによる死亡リスクとも相関関係がある。英国グラスゴー大学の研究チームが、英国の成人約9万人を約12年間追跡調査し、医学誌「PLOS Medicine」に発表した研究によると、30分以上座っている時間が1日あたり1時間増えるごとに、がんによる死亡リスクが9%高まった。
座りっぱなしの生活が健康に及ぼす影響は、座っている総時間だけでなく、長時間じっと座り続けているか、それとも途中で頻繁に体を動かしているかによっても異なる可能性があることを示唆している。
*論文情報
Evaluating movement breaks as a public health strategy to mitigate the harms of prolonged sitting: a large-scale pragmatic intervention. British Journal of Sports Medicine.
DOI: 10.1136/bjsports-2025-111221