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「韓国のペンライト集会は成熟した民主社会の証拠」

登録:2025-07-15 08:48 修正:2025-07-15 09:59
■世界政治学会(IPSA)金大中賞 
初代受賞者のT・V・ポール教授 
 
国際安保・対立解決の研究が認められ 
「金大中は変革を実現した政治家」 
「尹弾劾の過程で行動に立ち上がった市民 
韓国の内面化された行動力示す」
13日から16日までソウル江南区のCOEXで開催中の世界政治学会総会が創設した金大中賞の最初の受賞者に選ばれたT・V・ポール教授が13日、江南区のホテルでハンギョレのインタビューに応じている=チョ・イルチュン先任記者//ハンギョレ新聞社

 今月13日に開幕し、16日までソウル江南区(カンナムグ)のCOEXで開催されている第28回世界政治学会(IPSA)総会では、103カ国から集った3570人あまりの政治学者が国際社会の政治・外交懸案についての最新の研究成果を共有している。特に今年の総会では、金大中(キム・デジュン)元大統領の民主主義精神を称える金大中賞が創設され、最初の受賞者を輩出した。国際関係、国際安保、対立の平和的解決を研究してきたカナダ・マギル大学のT・V・ポール教授(69)がその主人公だ。14日午後には授賞式が行われた。

 ハンギョレは13日午前、ソウルの総会会場近くのホテルでポール教授にインタビューをおこなった。同氏は、前日に休戦ラインを訪問したと語った。「非武装地帯の向こうに建てられている工場、南北を結ぶ道路と鉄道も見ました。それは南と北の双方にとって平和のための心からの努力でした。重要なのは、このような機会の窓がどのように開かれるのか、人々がそれをどのように活用したり誤用したりするのかです」

 1時間ほどのポール教授との一問一答をまとめた。

カナダ・マギル大学のT・V・ポール教授(69、左)が14日、ソウル江南区のCOEXで開催された第1回金大中賞授賞式で、IPSAのパブロ・オニャーテ会長から金大中賞を授与されている/聯合ニュース
14日午後、ソウル江南区のCOEXで開催されたIPSA総会の第1回金大中賞授賞式で、カナダ・マギル大学のT・V・ポール教授(69、中央)が、キム・ミンソク首相(左)、IPSAのパブロ・オニャーテ会長と記念撮影をおこなっている/聯合ニュース

-金大中賞の最初の受賞者に選ばれた感想は。

 「たいへん光栄だ。学者として私は平和、紛争の解決と終息、特に長期化した紛争の平和的な変化を長きにわたって研究してきた。人は、過去1世紀の間に自由を守るために命を落とした数百万人の存在に気付いていない。そして私たちは今も、はるか昔に解決しておくべきだった問題と格闘している。ある意味この賞は、私が国際平和と民主化(のための研究と活動)に専念してきたことを認めてくださったのだと思う」

-金大中元大統領は政治学者であるあなたにとって、どのような政治家か。

 「金大中大統領の、生前の投獄を含む民主主義のための挑戦の経歴から、非常に深い印象を受けた。彼は真の自由の闘士であり民主主義者だった。彼はビジョンと抱負を持った政治家、変革を実現させる政治家、自身が生きている世界の秩序を変えようとした人物だ。彼は韓国であれ世界であれ、どの大統領よりも多くのことを成し遂げたが、そのような例は非常にまれだ」

-ここ数カ月間、韓国は劇的な政治的変化を経験している。尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領による戒厳宣布、国会による弾劾と憲法裁判所による大統領罷免、市民のペンライト集会、早期大統領選挙を通じた政権交代へと至る政治的過程をどう見たか。

 「人類の歴史上の今の時点において、民主主義を取り戻すためのあの闘争は、本当に驚くべき光景だった。若者、女性、様々な団体、学生たちが民主主義を守るために特別な組織がなくても行動する姿を見るのは、本当に驚くべきことだった。実際、韓国の民主主義闘争は、民主主義に関心を抱く外部の者として以前から感動的だった。韓国人は民主主義をどれほど深く社会化し、内面化しているのかを示してくれるが、それこそまさに民主主義の価値だ。人間は最初から民主主義者や自由主義者として生まれるわけではない。私たちは言葉巧みな政治家、イデオロギー、アイデンティティー政治にたやすく操られうる。しかし、韓国は独裁政権を経験しながら、経済的繁栄と進歩的変化を遂げてきた。また、経済的な富が動機付けや価値観の唯一の要素ではないということを示した。これは成熟した社会のもう一つの兆候であり、尊敬に値する」

T・V・ポール教授は、韓国民主主義の躍動性に深い印象を受けたと語った=チョ・イルチュン先任記者//ハンギョレ新聞社

-近ごろは韓国社会でも極右勢力が声を強めており、暴力的な行動も見られた。先進国を中心として広がりつつある世界的な極右化の傾向の理由と対応策は。

 「現在の極右主義は、かつては支配的だったグループのアイデンティティー主張と関係している。例えば、西欧の白人グループは世界システムにおいて支配的な地位にあった。このような国々では、特定の民族集団である可能性もあるし、米国では白人中産階級である可能性もあるが、自由主義(進歩)の政党が彼らの分離や孤立政策を支持していないことに気づき、脅威を感じているのだ。かつて、階級は主に経済的な分類だったが、こんにち私たちは人種的アイデンティティーや地域的アイデンティティーと階級の結合を目撃している」

-多くの国では、多様性を代表すべき議会がエリートグループによって掌握されており、政治・社会・経済的両極化が深まっている。

 「エリートが支配する体制において、エリートは必ずしも政治権力のみを指すわけではない。企業家である可能性もある。エリートによる独占を防ぐために、民主主義はもっと民主的にならなければならない。価値観と権力の共有、地域の権限強化、女性と少数者グループの権限強化が必要だ。容易ではない。市民が政治指導者によるアイデンティティー政治に振り回されたり、『自分にとってどのような利益があるのか』ばかりを問うたりするからだ。民主主義のために闘いうるアイデアと政策を持つ目覚めたグループが必要だ。もしかすると大きな危機が必要かもしれない。韓国も民主主義の危機がなかったら、今に至っていなかっただろう」

2000年12月、金大中元大統領(右)がノルウェーのオスロで開催されたノーベル平和賞授賞式で、ノルウェー・ノーベル委員会のグンナー・ベルゲ委員長からノーベル平和賞のメダルと賞状を授与されている=金大中平和センターのウェブサイトより//ハンギョレ新聞社

-朝鮮半島はいわゆる「新冷戦」の最前線だ。朝鮮半島の平和は北東アジア地域の安全保障にとってどのような意味を持つか。

 「過去の冷戦とは異なり、こんにちの新冷戦の表現様式は、市民にとって基本的なものとなっている生活・福祉サービスよりも多くの金を兵器と軍に注ぎ込むものだ。これはすべての社会福祉予算を大幅に減らすことになる。欧州の全ての国も同じだ。米国のトランプ大統領は同盟国に、国防支出を国内総生産(GDP)の5%にまで増やすよう迫っている。国家安保パラダイムが多くの国に広がりつつある。世界秩序において軍事化が進むと、冷戦時代の考え方が登場する」

-朝鮮半島、ひいては確執のある地域の平和はどのように実現できるか。

 「非常に挑戦的な課題だ。冷戦と軍備拡張競争が激化すれば、朝鮮半島も影響を受ける。中国と米国が太平洋、特に南シナ海でどのように行動するかが重要だ。私たちは現在、非常に敏感な時期に直面している。兵器の規制も信頼の構築もない。指導者が慎重でなかったり、諸国が自国の利益だけのために行動したり、自己破壊的な行為をしたりすると、問題が発生する恐れがある。行為者相互の信頼構築がいつにも増して重要だ」

-このような現実において、政治学の役割とはいかなるものか。

 「政治学は非常に広範な学問分野だ。政治学のカリキュラムには国際関係、安保、交渉などの、他の学問では扱われない多くのものがある。政治学は戦争と平和を教える唯一の学問だ。人は政治学を学ぶことで批判的分析能力を習得する。だが、私たちが見落としてきたのは、政治学は進歩的傾向のある学問であるため、保守主義やポピュリズムのようなあちら側には十分な注意を払ってこなかったということだ。進歩的イデオロギーにとらわれず、彼らをよりよく理解することが課題だ。

 一方で、こんにちの世界は年を追うごとに技術官僚主義へと向かっている。彼らは情報通信(IT)科学では非常に優れた人材だ。しかし、彼らは進歩的な社会教育が足りず、視点が時として非常に後れている。どうすべきか。市民意識と市民教育が必要だ。民主主義を守りたいなら、よりよい市民教育をしなければならない」

チョ・イルチュン先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/religion/1207968.html韓国語原文入力:2025-07-14 21:42
訳D.K

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