ホッキョクグマは陸上の捕食者の中で最も大きく、オスは体重650キログラムに達する巨体だ。この大きな体で雪と氷にめり込まずに狩りや移動をするため、直径30センチに及ぶかんじきのような大きな足を持っている。
しかし、体重を分散させる大きな足だけでは雪原で滑るのを防げない。ホッキョクグマの足の裏の肉球には独特の小さな突起があり、他のクマより摩擦力が50%まで大きく、滑り止めの役割を果たしているという研究結果が出た。
米国アクロン大学の材料科学者のナサニエル・オンドルフ氏などが、科学ジャーナル「英国王立協会インターフェース」の最近号に掲載された論文で、ホッキョクグマ、ヒグマ、アメリカクロクマ、マレーグマの4種の足の裏の微細構造を比較した結果を明らかにした。マレーグマを除いた残りの3種のクマには足の裏の肉球に小さな突起があるが、中でもホッキョクグマのものはかなり長かった。
ホッキョクグマの肉球の突起はヒグマやクログマより高さが1.5倍長かった。研究者たちは「このような長さの差によりホッキョクグマの肉球の突起の表面積は1.3倍大きかった」と明らかにした。
子どもの靴下でよく見られる滑り止めの大きさに差があるわけだ。また、冬場のスノータイヤも床との接触面積を増やして表面積を増やす材質とともに、溝を深くしたタイヤで、雪道で滑ることを防ぐ。
研究者たちは「長い突起が雪原で摩擦力の差を起こすのか、3次元プリンターで作った突起で実験した結果、30~50%の摩擦力の増強効果を確認した」と明らかにした。
ホッキョクグマの体から肌がそのまま露出した部位は鼻と足裏の肉球で、白い毛の下の毛同様に黒い。ところが、ホッキョクグマの足は他の熊より大きいが、肉球の大きさは著しく小さい。肌から熱が逃げることを最小化するためだ。
今回の研究は、ホッキョクグマの肉球は小さくなったが、突起を長くしたことで摩擦力の減少を補う方向に進化したことを示した。研究者たちは論文で「足の裏に突起がある熊3種は、摩擦力の大きさは同程度だった」とし、「ホッキョクグマは他の熊に比べて肉球が小さいことによる摩擦の減少を長い突起で補ったものとみられる」と明らかにした。
引用論文:JournaloftheRoyalSocietyInterface,DOI:10.1098/rsif.2022.0466