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[キム・ソンジュ コラム] ‘チャン・ジャヨン’を生かそう

原文入力:2009-05-04午後09:09:08
←キム・ソンジュ 言論人

<権力と戦う記者たち>は米国史上初めて現職大統領を下野させたウォーターゲート盗聴事件を取材したウッドワードとバーンスタインの2人の記者の話だ。1972年、共和党のニクソン大統領は再選を控えて民主党選挙委員会の建物の盗聴を指示した。単純窃盗事件として始まったこの事件は2人の記者の報道に力づけられニクソン大統領を1974年権力の座から引き下ろすに至る。

映画<大統領の人々>でもよく知られたウォーターゲート事件とウッドワード,バーンスタイン2人の記者の話を読み、新たに興味深かったことは2人の記者が匿名の取材源をどのように最後まで保護したかという点だった。匿名の情報提供者、あるいは内部告発者がいなければ決して真実に接近できないことが権力内部の隠密な懸案だ。二人の記者もやはり匿名の内部告発者が信憑性ある高級情報を与えたので事件を追跡することができた。ウォーターゲート事件が起きたのは1972年であり匿名の情報提供者が明らかになったのは33年後の2005年6月だった。それも2人の記者によったのではなく、匿名の情報提供者の家族と弁護士たちによってだった。匿名の情報提供者は当時連邦捜査局(FBI)の第2人者であったフェルトだった。

私たちの社会ならば、大統領を下野させるまである事件の鍵を握る匿名の情報提供者をただの1ヶ月も保護できなかっただろう。しかし<ワシントン ポスト>の2人の記者は新聞社内部、あるいはどんな権力からも匿名の情報提供者を明らかにしろとの要求を受けたことがないという。

俳優チャン・ジャヨンが自殺して二ヶ月が過ぎた。彼女が死んだ後、住民登録番号と拇印を捺した悲しい文書が公開された。具体的で赤裸々に自身が体験したことを書き下したが、実際言論の関心はリストにだけあった。リストに指摘された金と権力を持つ人物らは脅迫と圧力でリストを塞ごうとしたがリストは非公開形式で公開された。

<権力と戦う記者たち>を翻訳した言論人チャ・ミレ氏は翻訳者の辞で、この本を翻訳することになった動機は2人の記者が事実のためだけでなく真実を明らかにすることに執拗に挑んだという点だと語った。報道資料と人が言った事実にのみぶらさがり、事実を明らかにすることだけで記者の任務が終わるのではないということを今一度呼び覚ましてくれたためだという。真実か否かではなく、事案や事実を収集し編集掲載してみれば、事実の破片たちは記者や会社,事実提供者などの利害関係の中で変形され真実とは距離が遠い記事に加工されて現れやすいとして現実の言論慣行を診断している。

チャン・ジャヨン事件が典型的な例だ。死をもって問題を提起した芸能界の性上納慣行の真実が明らかにならなければならないのに、ますます真実とは距離が遠のいていきつつある。文書に登場する人物たちの中で真に権力がある人々には触れることさえできないということを知った瞬間、言論の関心は遠ざかっているためだ。

映画評論家の東国大ユ・ジナ教授はチャン・ジャヨン事件を熱心に追いかけている。職業上、女優たちと個人的に親密なよしみを持っている彼は、芸能界の暗い現実に対して色々な情報を持っている。我が国トップスターの中で1,2人でも内部告発者になり自身が被ったことを隅々まで公開することによってチャン・ジャヨンの死が無駄にならないようにしたいという。チャン・ジャヨン事件の中間捜査結果発表を見て、内部告発者を探すのがより一層難しくなったと気を落としている。

真実を明らかにし、内部告発者によってチャン・ジャヨンを生かし、第2,第3のチャン・ジャヨンが出てこないようにしないならば、私たち皆が共犯者になるだろうという彼の主張に同意する。しかし内部告発者を保護することができない現実と、真実を明らかにしようとする人がむしろ私たちの社会から葬られることを考えれば、真実に立ち向かおうとする彼の勇気にさっさと手をあげることはできなくて残念だ。

キム・ソンジュ言論人

原文: https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/353194.html 訳J.S