原文入力:2009-04-01午前09:17:00
クォン・テソン コラム
ノ・ジョンミョン<YTN>労働組合委員長が警察に強制連行され、拘禁されてすでに10日を越えた。その間に小学校5年生の彼の長女は膝に鉄芯を打ち込む手術を受けた。1998年、YTNの経営危機の時に無給休職をし苦労して育て精魂を込めた娘の病床を見守ることができなかった彼の心が如何ばかりだったか察しても余りあるが、彼は全く表情に出さなかったという。大統領特報出身のク・ボンホン氏が社長に選任されて以来、渦中に陥ったYTNの労組委員長に出馬する時から覚悟していたことであるためだろうか?
彼を知る人々は一様に彼が原則主義者であり、闘争的な人物ではないと口をそろえる。YTNの後輩たちの彼に対する人物評は‘アイデアが多く純粋で信頼できる人’だ。それもそのはず、‘突発映像’を初めて作りYTNの代表商品に育て、グーグルアースを活用するなどニュースの新しい領域を切り開いたのが彼だった。このおかげでYTNの視聴率と信頼度が高まり、彼は看板アンカーに抜擢された。
こういう彼が拘束まで覚悟し労組委員長に出た理由は常識を守るためだった。言論の生命は公正性にあり、公正性を守るのは言論人本来の義務だ。言論の公正性こそ民主主義の根幹であるためだ。ところが、政権は大統領特報出身をニュース専門チャンネルの社長に座らせた。これは言論の公正性に対する重大な威嚇であり、言論人ならば公正性を守るためにそのような社長を拒否しなければならない。これが彼の常識だった。彼の先輩の話のように「自分の実利よりは全体の利益を前面に出して原則を重視する」。そして、同僚らの信望を受ける彼が闘争の先に立つほかはなかった。
しかしこういう常識が、言論を権力の下手人に作りあげることに汲々とするイ政権には通じなかった。政府・与党はYTN再許可で不許可の可能性を示唆するなど、多様な方式で労組員らを脅迫し、ク氏を側面支援した。ク氏は自身に反対する労組指導部を解雇しても足りなくて、業務妨害疑惑で告訴・告発し拘束捜査まで要請した。与野党議員らが提示した仲裁案さえ省みなかった。
常識を尊重し合理的批判意識を備えた記者であるだけのノ委員長を闘士に作りあげたのは、まさにこういう政権の非常識だった。政権の非常識はYTN事態に止まらない。言論掌握のためにあらゆる無理手を動員しながら言論関係法を貫徹しようとすることにも、<文化放送>の‘PD手帳’をどうしても処罰しようとしている事実を見なさい。龍山惨事や人権委事態についてはどうだろうか? イ政権は自分たちが抱いて涙をふいてあげなければならない撤去民と借家人に敵として対峙し、去る7年間各種差別を是正し人権増進に寄与し国際的に国の地位を高めた人権委を国内外の批判にもかかわらず無力化しようとしている。
批判を容認しない一方的で独善的な政権が示す今日の現実は、あたかも20~30年前の古いフィルムを再び見ているようだ。しかし、歴史の完全な退行はありえない。軍事独裁下の銃刀の威嚇の前でも屈服せずに血を流して勝ち取った言論の自由と人権を享受した国民がそれほど簡単にあきらめる訳がない。すでに言論現場で、人権現場で、そして生存現場で新しく登場する数多くのノ・ジョンミョンたちが見えないか? 政権が公権力を武器にして非常識を押し通せば通すほど、それに抵抗する常識の闘士たちは増えるほかはない。ところで今からでもイ政権が、政府に対する批判の許容は民主主義の基本要素だという常識を回復するならば、あえて消耗的戦闘を行う理由はない。ノ・ジョンミョン委員長を釈放することが、その常識回復の第一歩だ。
論説委員kwonts@hani.co.kr
原文: https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/347356.html 訳J.S