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[朴露子ハンギョレブログより] 「狂った世界」が長続きする秘密

http://www.worldhunger.org/articles/Learn/us_hunger_facts.htm

原文入力:2012/02/10 03:29(3399字)

朴露子(パク・ノジャ、Vladimir Tikhonov)ノルウェー、オスロ国立大教授・韓国学

最近ポスト学風が流行る中、人気を失った単語の一つに「理性」があります。フーコー一派や国内の弟子たちの立場では(近代男性中産階層を中心にして考えられている)「理性」とは結局のところ抑圧の機制の一つにすぎません。私見では「理性」に対する判断の問題は結局この単語の具体的な「内容」によっています。「理性」は平等であらゆる人の自己実現の可能な、思いやりと利他的な精神に基づく社会への志向を意味するなら、すなわち文字どおり「自由、平等、友愛」から出発するなら、これは明らかに解放的な意味の近代を意味するのであり、相変らず有効な観点です。つまり、1789年から1871年まで、フランス大革命からパリコミューンまでを言説的に支えてきたその解放的「理性」の次元で見れば、私たちの住んでいる資本主義的な世界とは一つの大きな精神病院にすぎません。武器のような無用の物を作るために、枯渇する資源が浪費され、その武器を持ってアメリカ帝国がイランやシリアなどといったその影響圏外の国々を脅かしている間、約13%の地球人(9億人以上)たちが毎日飢餓に苦しまなければならず、約35%の地球人たちは職場がないか、あったとしても貧困を脱することができない「ワーキングプア」に属します。信じてもらえない方々もいらっしゃると思いますが、全世界でやくざのように振舞う、まさにそのアメリカ帝国の領内で約14%の世帯が「食糧供給不安層」に属しているのです()。これをわかりやすく言えば、いつか飢えるかもしれない貧乏人に属するということです。まあ、最高の大金持ちの1%が国富の40%を所有し、80%という多数が7%しか所有していない奇形的な国ではいくらでも予想しうる事態だということです。ローマ帝国末期を彷彿とさせる不平等、世襲的な貧乏、富と享楽の中の飢餓、資源枯渇と持続するアメリカの軍国主義の国際的な挑発など……「理性的」な立場から見れば、資本家階級の利潤追求行為がこの世を単なる一つの大きな精神病院にしてしまったのです。資本主義的な世界は「狂った世界」そのものです。

 そうすると、人々はこれを見ていながらどうして見ないふりをするのでしょうか。極めてナイーブな質問のようですが、私には常に脳裏から離れない質問です。大多数のノルウェー人たちは、毎日のようにこの世界で少なくとも2万人の児童が飢餓で死亡する、すなわち餓死するという事実を新聞などを通じてよく知っています。にもかかわらず、第3世界を荒廃させる「自由貿易」を推進する保守政党たちや労働党などの形だけの「穏健左派」を選挙のたびに選びます。本人の「正直な一票」が毎日2万人の児童を殺す一つの武器の役割を果たしているという事実にまったく気が付かないのでしょうか。「自由貿易」に対する幻想がまだ残っているのでしょうか。多くのノルウェー人たちは、工事現場などの最も危険な低賃金労働をここでほとんど東欧出身の人々が担っているということを通常知っています。知識人なら労災死亡者の中でほとんどが工事現場の労働者であるが外国人たちが約20%くらいを占めているという統計も知っているはずです。にもかかわらず、ヨーロッパの特定地域を永遠な貧乏と「出稼ぎ」の苦痛に陥れている資本主義という怪物的なシステムを一体どういうつもりで支持しているのでしょうか。本人たちがただ面倒だから利己心だけで支持するのでしょうか。ところが全然楽ではない国内だけでも資本主義をそれなりに問題化させる進歩新党の支持率は果して何%位でしょうか。主流政党を支持する人なら、基本的に資本制を暗黙に肯定すると見るべきでしょう。

 こんな悪夢のような世の中を当然視する理由について、私は9歳の息子を見てある程度見当が付きます。本人が言うには、息子は資本家になりたいそうです。スティーブ・ジョブスのような、大変すぐれた資本家になってIT産業やチョコレートなどの特定の市場を席巻したいとのです。多くの労働者たちを雇いたいそうです。子供の口から「雇う」という語が出てくる度に、私は「それでは労働者たちを搾取するつもりなのか」と聞くと、息子はとても答えられません。「搾取する」(a utnytte)という言葉を学校で彼に誰も教えなかったからです。この言葉は後で教科書に出ることは出ますが、まったく異なった意味で出てきます。個人関係で他人を利用するという、道徳論的な脈絡から出てきます。雇用とはつまり剰余価値の搾取を意味するという事実を、市民主義の国家ノルウェーでは学校で教えないのです。もちろん、私みたいに敢えてこれを説明しようとする親たちは個人的に努力して説明してみることはできます。ただし、それが極めて難しいということです。

 スティーブ・ジョブスやエジソンなどといった「資本の偉人」に関する本は書店でも図書館でもとても簡単に見つけることができるが、レーニンのような人の児童向けの評伝が、市販されているか図書館で利用可能な状態で陳列しているのを私は未だ見かけておりません。もちろん、英語が簡単に読めるノルウェーの子供たちなら、高校生になったら高校生向けの英文の『レーニン評伝』(http://www.amazon.com/Lenin-Founder-Soviet-Abraham-Resnick/dp/0595307019/ref=sr_1_2? ie=UTF8&qid=1328810981&sr=8-2)は読めるとはいえ、特別に奮発してインターネットで注文しない以上、このような本を簡単に手に入れることもできません。そうですね。子供のためのノルウェーの百科事典を見ると、レーニンは「革命家」というよりは「独裁者」として登場します。ほとんどの児童向けの参照書の類にはレーニンのソビエト共和国が「帝政時代の抑圧を単に複製しただけ」という評価が支配的です。このような「常識」の壁を打ち破ってレーニンの真実に迫ろうとする親たちと子供たちは果してどれくらいいるのでしょうか。実際、私の息子を含むノルウェーの子供たちは本よりはインターネットの動画やゲームなどを通して世の中を理解していくことが普通ですが、多くのゲームなどは模擬の利潤追求の活動を含んでいます。「有利に」与えられたお金で買い物をし、「投資」を試したりします。そのような環境で育った子供には「搾取」という単語の真の社会科学的な意味を説明するのは容易いことではありません。何よりも、子供たちは資本主義の現実、たとえば店員などの低賃金労働に従事する「有色人種」移民者、豊かなノルウェー人の家庭で最低賃金以下のお金で雇われているフィリピンの下女たちを見て成長しています。そんな彼らに大人たちは「こんな現実はよくない」とはあまり語ったりしません。そのうち、子供たちは搾取と差別の現実を当然視するようになります。そのうち、大人になって資本主義の無惨な結果を新聞を通してすべて熟知しても、資本制を支持する政党などに習慣的に投票します。「代案がない」と「通念的に」 決め付けるからです。

 この狂った世界では子供たちも小さい時から全体的な精神病的な雰囲気に同化してしまいます。彼らを救うことが、すなわち彼らにこの世界の真実を教えることがとても困難で巣。正直に言いますと、こうした子供に対する教養事業では私も個人的には未だに失敗し続けています。とても絶望的で恥ずかしいばかりです。

原文: http://blog.hani.co.kr/gategateparagate/41082 訳J.S