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「革新家」クーパンのキム・ボムソク議長が見過ごしてきたもの【コラム】

登録:2026-01-05 23:46 修正:2026-01-06 08:20
クーパンIncのキム・ボムソク議長が2021年3月11日、米国のニューヨーク証券取引所前で、上場を前にポーズを取っている/AP・聯合ニュース

 「800人の社員の幸せが彼らの3000人の家族の幸せを引き出します。彼らが感じた幸せは、改めて顧客と社会へと広がっていくでしょう。これこそ、クーパンが作っていきたい企業の姿です」(2013年1月、「韓国経済」インタビュー)

 これは、業歴2年8カ月のベンチャー企業「クーパン」のキム・ボムソク代表(当時35歳)が「短時間で企業を大きくした秘訣(ひけつ)」を問われ、返した答えだ。自身の追求する企業の目標は「成長」ではなく「幸福」であり、「社会の幸福に寄与する企業を作れば後悔しないだろう」とも語った。「クーポンがどんどん(パンパン)出てくる」を意味する社名から分かるように、当初は割引クーポン仲介ソーシャルコマースとして始まったクーパンは、2010年5月の創業から15年目に年間売上41兆ウォン(2024年末現在)にのぼる、流通・物流業界を代表する企業へと成長した。大韓民国の国民の4人に1人が「ワウ会員」(クーパンの有料会員)となっている現在、「クーパンなしでどう暮らしていたのか」と思われるようにするというキム・ボムソクの夢はかなったようにみえる。ただ、13年前に30代の若い企業家が説いた「幸福論」に取って代わったのは、死の職場という汚名、規模の成長スピードに追いついていないお粗末な内部統制、そして「グローバルCEOボム・キム」の無責任だ。

 先月国会で相次いで行われたクーパン個人情報流出事件についての聴聞会は、クーパンの「国民に対する宣戦布告」を公式化する場だった。創立者であり意思決定権を握っているクーパンIncのキム・ボムソク議長の代わりに出席した新任のハロルド・ロジャース代表の対応は、クーパンの今後の戦略を予想させるものだった。対官業務を総括していたパク・テジュン代表が辞任し、ハーバード大学ロースクール出身の最高法律責任者であるロジャース代表が選任されたのは、今後繰り広げられる政府との「戦闘」で徹底的に法理で争うという意志をクーパンが表明したものと考えるべきだ。聴聞会での終始一貫した質問内容と関係のないとんちんかんな回答、資料の真偽を疑わせる「メッセンジャー攻撃」、問い詰める聴聞委員たちに「もういいでしょう(enough)」で応酬する居直りの態度などは、「絶対に過ちを認めない」という闘志の表現だ。クーパンは聴聞会の5日前に個人情報流出についての「独自調査」結果を奇襲的に公開し、流出情報は3000件に過ぎないと主張するとともに、「(独自調査は)政府の指示に従ったもの」だとしてフレーム転換を試みた。セルフ調査の結果を一方的に発表したのも、1兆7000億ウォン規模の「クーポン補償」を急きょ打ち出したのも、いずれも米国で起こされた集団訴訟に対応するための戦略だと解釈される。米国内の紛争への備えを急ぐあまり、韓国政府との全面戦争程度は辞さないということだ。

 このような傲慢さは、顧客は「クーパンのエコシステム」から抜け出せないだろうという自信から来ている。消費者はワウメンバーシップ一つあればロケット配送、無料のフードデリバリー、コンテンツ視聴などをすべて利用できる。「脱パン」(クーパン会員脱退)は単なるオンライン購入プラットフォームの乗り換えにとどまらず、無料で視聴していた「ハリー・ポッター」シリーズをあきらめたり、フードデリバリーにいちいち配達料を支払ったりしなければならなくなることを意味する。また、「顧客満足」という大命題のためにクーパンは、数億件の注文を処理できる人工知能(AI)アルゴリズムを作り、労働者が最も速く動ける動線を計算してきた。キム・ボムソク議長がクーパンを単なる流通・物流企業ではなく、グーグルやアマゾンのようなテック企業だと自負する理由はここにある。このような革新の実験に抜けているのは「人」だ。最高の効率を計算するクーパンのAIシステムは、生産性目標とそのための最適の動線を出すに過ぎず、労働者個人が毎日全力を尽くすなどということが果たして可能なのか、高いところにある荷物を安全に取り出す時間的余裕はあるのか、などは考慮しない。これは、2020年に過労死した慶尚北道漆谷(チルゴク)のクーパン物流センターの労働者、チャン・ドクチュンさん(当時27歳)が生前、「クーパンは私たちを道具としてのみ考えている」(『最後の職場、クーパンを解約します』)と愚痴をこぼしていた理由でもある。

 キム・ボムソク議長が「時給制の労働者が懸命に働くはずがない」(個人情報保護の元最高責任者とのメッセンジャーでのやりとり)と述べて労災隠蔽に没頭している間に、クーパンは労働者が倒れていく「労災工場」、「死の職場」と認識されつつある。人間の労働をロケット配送のための「部品」くらいに思っている現在の姿は、13年前にキム・ボムソク議長が描いた「幸福」の未来ではないはずだ。「クーパンなしでどう暮らしていたのか」という賛辞の有効期限が迫っている。

//ハンギョレ新聞社

チェ・ヘジョン|イシュー副局長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1238166.html韓国語原文入力:2026-01-05 18:45
訳D.K

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