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互いに公転する「ブラックホールのペア」撮影に初めて成功…40年の謎が解明

登録:2025-11-12 07:29 修正:2025-11-12 08:33
クエーサー「OJ 287」で互いに公転する2つのブラックホール。下の2点は両方のブラックホールからの電波の放出で、最上部の点は小さいブラックホールの物質ジェット(図左の点線)=トゥルク大学//ハンギョレ新聞社

 天文学者がブラックホールの写真撮影に初めて成功したのは2019年のことだった。地球各地の電波望遠鏡8基で構成されるイベントホライズンテレスコープ(EHT)を利用し、約5350万光年先の楕円銀河「M87」の中心にある超大質量ブラックホール(SMBH)をとらえた。続いて2022年には、銀河系の中心にある超大質量ブラックホール「いて座A*」の撮影に成功した。

 天文学者は今回、互いに公転する2つのブラックホールを撮影することに成功した。重力によって互いに縛りつけられた2つのブラックホールについて、実際に画像が得られたのは今回が初めて。

 ブラックホールとは、重力があまりにも強いため、光をも吸い込む超高密度の天体を指す。一般的には、太陽よりはるかに大きい星が核融合エネルギーの減少によって崩壊する過程で超新星爆発を起こした後に生成される。M87銀河の中心にあるブラックホールは太陽の質量の65億倍、銀河系の中心にあるブラックホール「いて座A*」は太陽の質量の400万倍ある。しかし、ブラックホールは体積がゼロに近い特異点(singularity)の状態であるため、一般の天体とは違い、物理的な表面はない。代わりに「事象の地平線(イベント・ホライズン)」という概念的な境界が存在する。

クエーサー「OJ 287」の2つのブラックホールが互いに公転する様子を描いたイラスト。小さいブラックホールは太陽の質量の1億5000万倍、大きいブラックホールは太陽の質量の183億5000万倍になる=米国天文学会(AAS 2018)//ハンギョレ新聞社

■太陽の質量の180億倍と1億5000万倍

 フィンランドのトゥルク大学が主導する国際研究チームは、地球から50億光年先にあるクエーサー「OJ 287」で対を成す2つのブラックホールの電波画像を撮影することに成功し、国際学術誌「天体物理学ジャーナル」に発表した。2019年に初めてブラックホールの画像が公開されて以来、これまでに撮影されたのはいずれも単一のブラックホールだった。クエーサー(Quasar)とは、ブラックホールが周辺の物質を飲み込む際に、そのエネルギーによって形成される巨大な発光体を指す。クエーサーの中心には太陽の質量の10億倍以上のブラックホールが存在する。

 科学者たちは、クエーサー「OJ 287」の光の明るさが12年周期で変化することから、かなり前からこのクエーサーの内側に2つのブラックホールが公転していると考えていた。

 19世紀に初めて発見されたこのクエーサーは、地球と太陽の距離の300兆倍を超える距離の先に存在するが、アマチュア天文家でも観測できるほど、きわめて明るい。しかし、当時の天文学者は1つの恒星と考え、ブラックホールやクエーサーの存在は想像できなかった。

 この天体が注目を集めることになったのは、1982年にトゥルク大学の大学院生のアイモ・シッランパー氏が、天体の明るさが12年周期で変わる事実を発見したことがきっかけとなった。その後、科学者たちは、光が周期的に変わる理由として2つのブラックホールが互いに公転するためだと考え、クエーサーを追跡してきた。

 そして4年前、NASAのトランジット系外惑星探査衛星「TESS」の観測データから、2つのブラックホールの存在を探知することに成功した。1つは太陽の質量の183億5000万倍、もう1つは太陽の質量の1億5000万倍だった。大きいブラックホールは巨大な降着円盤に囲まれており、小さいブラックホールは12年の公転周期の間に円盤に2回衝突し、明るい光を放つ。

 しかし、解像度は高くなく、2つのブラックホールは1つの点としてしか見えなかった。2つのブラックホールの存在をそれぞれ確認するためには、解像度が10万倍高い電波望遠鏡のデータが必要だった。

太陽系とOJ 287の比較=www.spitzer.caltech.edu/images/6796-ssc2020-11b-Sizes-of-Black-Holes-in-Galaxy-OJ-287-Relative-to-the-Solar-System//ハンギョレ新聞社

■1万年後には1つに合体する見込み

 研究チームは、2019年まで観測活動を行ったロシアの宇宙電波望遠鏡衛星「ラジオアストロン」が残した超高解像度(12マイクロ秒角)のデータを用いることで、この問題の解決策を見出した。

 この衛星は、地上の電波望遠鏡と連動する宇宙ベースの超長基線電波干渉計(VLBI)望遠鏡システムとして機能した。電波干渉法とは、遠く離れた電波望遠鏡を用いて、同じ天体を同時に観測した後、データを合成し、あたかもその距離の口径を持つ望遠鏡が観測するのと同じ効果を得る技術を指す。望遠鏡間の距離が数百キロメートル以上離れている場合、超長基線電波干渉計と呼ばれる。地球から最大35万キロメートル離れた軌道を周回した衛星「ラジオアストロ」は、この技術を利用することで、地球と月の距離の半分にあたる19万キロメートルの仮想電波望遠鏡システムを構築することができた。

 研究チームは、このシステムが2014年に作成した電波地図から、「OJ 287」のデータを探り、画像を抽出することに成功した。このようにして得られた写真は、40年間解決できなかった疑問、すなわち、ブラックホールのペアの存在を確認することができた。論文の第一筆者であるマウリ・バルトネン教授は「それぞれ異なる位置にある2つのブラックホールが、強力な粒子ジェットを放出していることを識別できた」と述べた。

 ブラックホールから放出されるジェットには2種類あった。1つは小さいブラックホールから放出されるもので、庭のホースのように湾曲していた。小さいブラックホールが大きいブラックホールの周囲を高速で移動し、尻尾を振るような形状のジェットが放出されている。研究チームは、小さいブラックホールが今後数年以内に速度と向きを変え、さまざまな方向に曲がる様子を観測できると予想している。

 科学者たちは、2つのブラックホールは重力の相互作用によって、今後1万年以内に合体する可能性が高いと考えている。

*論文情報
Identifying the Secondary Jet in the RadioAstron Image of OJ 287.
DOI 10.3847/1538-4357/ae057e

クァク・ノピル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/science/science_general/1228519.html韓国語原文入力:2025-11-11 11:54
訳M.S

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