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米国とイスラエルが直面する「勝者の呪い」【コラム】

登録:2025-07-03 06:53 修正:2025-07-03 09:56
2025年6月15日、イスラエル軍の空爆でイランの首都テヘランのシャラン精油貯蔵所が炎に包まれている/ロイター・聯合ニュース

  6月13日から12日間続いたイランに対するイスラエルの攻撃と米国の爆撃は、中東で続いた「勝者の呪い」を繰り返すだろう。既存の地政学の構図と秩序を崩した勝者が敗者となるアイロニーだ。

 その歴史は古い。現在の中東地政学の構図のルーツは、1967年のイスラエルとアラブの6日戦争(第三次中東戦争)にある。エジプト、シリア、ヨルダン、イラクとの戦争で6日で完勝したイスラエルは、中東最大の軍事強国であるとともに、米国の確実な代理者として位置づけられた。米国も当時、ソ連に傾いていたアラブ諸国を牽制するイスラエルという心強い同盟を確保した。

 ところが、イスラエルは6日戦争でそれまで中東紛争の原因だったパレスチナ問題を棚上げせざるを得なかった。パレスチナ問題を積極的に解決する動機を失ったのだ。エジプトなどアラブ諸国は、強力になったイスラエルとの対決または妥協に没頭するようになった。パレスチナ問題は中東で解決不可能な常数になった。イスラエルはどんなことをしてでも米国の支援を受けて存続するようになった。エジプトとイスラエルは米国の仲裁で1979年に国交正常化を進めた。ちょうどイランではイスラム革命が起きた。中東で米国の最大の関心がイスラエルに集中している間に起きたことだった。

 「アラブ対イスラエル」という従来の中東紛争の構図は一変した。中東のムスリムたちの闘争は、アラブ民族主義からイスラム主義へと移った。イラン対イスラエルという対決構図が芽生え始めた。米国とサウジアラビアは、イスラム主義革命を遮断するため、イラクのサダム・フセイン大統領を後押しし、1981年のイランとの戦争を扇動した。イスラエルも1982年、パレスチナ解放機構(PLO)の掃討を名目にレバノンを侵攻した。その侵攻はレバノンにヒズボラという親イラン・反イスラエルの武装勢力を出現させた。イラン-シリアのアサド政権-ヒズボラ-ハマス-イラクの親イラン武装勢力-イエメンのフーシ派にまでつながる親イランのシーア派連帯が作られた契機だった。

 8年間のイラン・イラク戦争は事実上、イランの勝利で終わった。イラクのフセインは、米国やサウジに補償を求め、1990年に電撃的にクウェートを占領した。これは、米国がイラクをクウェートから追い出す1991年の湾岸戦争につながった。湾岸戦争は、オサマ・ビンラディンのアルカイダ結成などイスラム主義武装勢力の浮上につながった。そして、2001年のアルカイダによる同時多発テロの原因となった。同時多発テロは米国のアフガニスタン戦争およびイラク戦争につながった。

 米国はイラク戦争でフセイン政権を倒し、親米的な政権樹立という「レジームチェンジ」(体制交替)を図った。ところが、それは中東に巨大な勢力空白をもたらしただけだった。イスラム国(IS)などイスラム過激主義が跋扈(ばっこ)した。イラク戦争はイラン対イスラエルという中東紛争の対決構図を完成させた。

 この時から米国は、中東の泥沼からの脱出を対外政策の一軸に据えた。バラク・オバマ政権時代の2015年、イランとの国際核交渉である包括的共同作業計画(JCPOA)を妥結し、妥協を目指したが、第1次トランプ政権時代にこれを破棄し、再び対決に回帰した。ドナルド・トランプ大統領はイスラエルとサウジアラビアの国交正常化を目指すアブラハム協定を追求した。イラン対イスラエルの対決構図でイスラエル側を強化する戦略を取ったのだ。

 ジョー・バイデン政権もアブラハム協定を受け継ぎ、イスラエルとサウジアラビアの国交正常化が目前にあった2023年10月、ガザ戦争が勃発した。ガザのハマスがイスラエルとサウジの接近にくさびを打ち込むため、電撃的にイスラエルを攻撃した。この攻撃はイスラエルの極右化を促し、ベンヤミン・ネタニヤフ首相がイランとの戦争にまで至る強硬策を後押しする結果をもたらした。

 その結果は、「イラン対イスラエル」という既存の中東紛争構図の解体だった。イスラエルはガザ戦争勃発後、ハマスを孤立化させ、ヒズボラを弱体化させ、シリアのアサド政権を崩壊させた。イランの同盟はほぼ解体され、ついにイランもイスラエルと米国の強力な爆撃に体制危機にまで追い込まれた。

 今は確かにイスラエルと米国が既存の中東の地政学構図を崩した勝者だ。だが、中東紛争の歴史を振り返ると、勝者は常にさらに大きな敵に遭い、より激しい紛争構図に足を引っ張られてきた。

 イスラエルと米国の爆撃にもかかわらず、イランの核開発は依然として解決が不透明だ。イスラエルと米国にとっては「ガザ戦争」も未解決のままだ。考えてみれば、ガザ戦争勃発以後、米国のイラン爆撃に続くイラン-イスラエルの休戦まで、解決されたものは何もない。

 米国とイスラエルはこれらの戦争に終止符を打つ戦略もなく、その姿勢も見せていない。ならば、イランの同盟を瓦解し、イランを弱体化させたことは、彼らにとって戦略的勝利ではなく、むしろさらに混乱と勢力の空白を招く戦略的災いになるだろう。

//ハンギョレ新聞社
チョン・ウィギル | 国際部先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1205982.html韓国語原文入力:2025-07-02 22:29
訳H.J

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