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ベトナム戦争民間人虐殺の被害者が大韓民国の大統領室にたどり着くまで【コラム】

登録:2025-06-26 23:49 修正:2025-06-28 07:29
ベトナム戦争中の韓国軍による民間人虐殺の被害者、2人のグエン・ティ・タンさん(同姓同名)が、自分の襟につけていた花のバッジを外し、大統領室の関係者たちの胸につけている=韓ベ平和財団提供//ハンギョレ新聞社

 1968年の虐殺から数えると約60年、2000年に韓国社会で「運動」がはじまってからは25年。ベトナム戦争の民間人虐殺の被害者たちが加害国の大統領室を訪問し、苦しみと要求を自らの肉声で直に伝えるまでにかかった時間だ。被害者たちは何度も訪韓し「真実を認めて謝罪せよ」と叫んできたが、大統領には届かなかった。文在寅(ムン・ジェイン)政権時代に大統領府での面談が試みられたものの、ついに実現しなかった。被害者たちがその敷居を初めてまたいだのは、今月23日だった。

 ベトナム戦争での韓国軍による民間人虐殺の被害者である2人のグエン・ティ・タンさん(同姓同名)は18日に訪韓し、23日まで韓国社会の各所で、事実を認めることと謝罪を訴えた。フォンニィ虐殺(1968年2月12日にフォンニィ村の70人あまりの民間人が犠牲になった事件)の被害者のグエン・ティ・タンさんが韓国政府を相手取って起こした国家賠償訴訟の二審判決が言い渡される1月に被害者の訪韓が準備されていたが、戒厳・内乱や大統領選挙などで訪韓時期は6月に延期された。ちょうど新政権の発足直後だった。被害者たち、彼らと連帯する韓国の市民社会団体は、新大統領に声を伝えようと意気込んだ。1万人を超える韓国市民も同時期に、李在明(イ・ジェミョン)大統領に対し、ベトナム戦争の民間人虐殺の真実を究明し謝罪を含む被害者の名誉回復措置を取るよう求める請願に参加し、大きな力となった。

23日午前、フォンニィ虐殺の被害者グエン・ティ・タンさん(左)とハミ虐殺の被害者グエン・ティ・タンさん(同姓同名)が大統領室の関係者に「新大統領にベトナム戦争民間人虐殺などの人権侵害の真実究明を求める請願書」を手渡している=韓ベ平和財団提供//ハンギョレ新聞社

 23日午前10時。大統領室の2人の関係者と2人の虐殺被害者、面談を仲介した「共に民主党」のミン・ヒョンベ議員、被害者を支援する弁護士と活動家たちが、大統領室の会議場所で向かい合った。フォンニィ虐殺の被害者のグエン・ティ・タンさんは「現在、最高裁で続いている国家賠償訴訟の上告を取り下げて下さることを願います。私たちは年をとっていて、残された時間は少ない。韓国政府の助けを切に求めます。何よりも大統領が私たちに直に会ってくださることを願います」という要求を伝えた。ハミ虐殺(1968年2月22日にハミ村の130人あまりの民間人が犠牲になった事件)の被害者のグエン・ティ・タンさんは、「ベトナム戦争での民間人虐殺の真実を究明する公式機関を設置して下さることを願います」と述べた。

 面談に同席した筆者は、大統領室の関係者の「回答」までは期待していなかった。様々な条件を考慮すると、「たしかに伝える」以上のことが言えるだろうかと思ったからだ。しかし、大統領室の関係者たちは最善の礼儀を示した。個人的な意見であることを前提に「被害者の方々の言葉に人間的に心から共感する。きちんと整理して伝える。みなさんの心のわだかまりを解消する方法があるか探ってみる。努力する」と述べた。驚いたし、ありがたかった。

 2人のグエン・ティ・タンさんは、胸にホアスアの花をかたどったバッジをつけていた。「ホアスアの花は、ベトナムでは生と死を象徴する花です。韓国市民は虐殺の被害者たちとの連帯の気持ちを込めてこの花をかたどったバッジを作り、つけています。済州4・3のツバキのバッジのようなものです」。活動家が説明すると、大統領室の関係者は自分もつけると言った。2人のグエン・ティ・タンさんは自身の襟のバッジを外して2人につけた。被害者たちの胸についていた生と死の花が、韓国の大統領室の関係者たちの胸に伝えられた。面談直後、フォンニィのグエン・ティ・タンさんは涙を流しながら言った。「うれしくて幸せです。ここまで来られて」

 聞くということは、答える義務につながっている。李在明大統領にお願いする。大韓民国の裁判所は5年にわたる審理の末、一審二審ともにフォンニィ虐殺が事実であることを認めた。被告大韓民国が従っていないため訴訟は最高裁まで行ったが、法律審であるため事実関係の判断が変更される可能性はきわめて低い。ベトナム外務省はこの訴訟に大きな関心を持っていることを表明してきたが、特に韓国政府が敗訴判決に従わない度に強い遺憾の意を表明してきた。主務省庁である国防部に指示し、さらに数年かからざるを得ない最高裁への上告を取り下げていただきたい。

韓ベ平和財団をはじめとする市民団体からなる「ベトナム戦争問題の正義にもとづいた解決のための市民社会ネットワーク」が23日午前11時、ソウル龍山の大統領室前で記者会見を行い、大統領室との面談内容を発表している=韓ベ平和財団提供//ハンギョレ新聞社

 李大統領は民主党代表時代の2023年、この訴訟の一審判決を「文明国としての立場を明確に示した判決」だとして歓迎しており、「(尹錫悦(ユン・ソクヨル))政府にはベトナム戦争の民間人虐殺に対して前向きな態度を取ることを訴え」ている。また大統領は第21代国会で、虐殺の真実を究明する政府機関の設立のための法案に共同発議議員の一人としてかかわっている。今や李在明政権だ。上告取り下げは韓国政府が直ちに実行できるし、慎重な省察的態度を取りうる前向きな措置だ。60年待った被害者に、これからの大韓民国は異なるということを示す最善の回答だ。

//ハンギョレ新聞社

イム・ジェソン|ベトナム戦争民間人虐殺被害者代理人 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1204747.html韓国語原文入力:2025-06-26 08:00
訳D.K

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