「韓米同盟が最も重要な軸であり、韓米同盟の範囲内で核武装ができるならすべきだ」(「国民の力」のキム・ムンス候補、27日の大統領選第3回候補者テレビ討論)
■どのような脈絡からの発言か
27日の政治・外交安保を扱った大統領選挙第3回候補者テレビ討論は、暴言とネガティブ攻勢で彩られた。厳しい外交・安保状況についての深みのある討論は成されなかった。それなりに「討論」が実現したのは「韓国独自の核武装」についてだった。この日、最大野党「共に民主党」のイ・ジェミョン候補と与党「国民の力」のキム・ムンス候補は「韓米同盟と核武装は両立しうるか」をめぐって攻防を繰り広げた。
「韓国は核武装すべきだとの立場なのか」というイ・ジェミョン候補の簡単な質問に、キム・ムンス候補は「核武装というよりは核の均衡を実現すべきだということ」だとして、「慎重に韓米同盟の維持の範囲内でなすべき」と曖昧に答えた。イ候補に「核武装しようということなのか、しないでおこうということなのか、はっきりさせるべきではないか」と言われてもう少し明確な答えを要求されると、キム候補は「韓米同盟が最も重要な軸であり、韓米同盟の範囲内で核武装ができるならすべきだ」として、「核武装しても韓米同盟が壊れてしまうと、核武装の効果はないだろう」と付け加えた。
■韓米同盟と核武装は両立しえない
では、韓国の核武装と韓米同盟は両立しうるのだろうか。米国が韓米同盟を通じて韓国に提供する拡大抑止(核の傘)は韓国の核武装の放棄を前提とした政策であるため、韓米同盟と核武装は両立しえない、というのは多くの専門家の共通した意見だ。
国立外交院のチョン・ボングン名誉教授(韓国核政策学会会長)は今年4月1日のハンギョレのインタビューで、「米国は韓国の核武装を北東アジア情勢の不安定要因、かつ米国の影響力から脱する自律性確保のための道具とみている。韓米同盟を維持しながら核武装することは現実的に不可能だ」と述べた。米国の同盟国であり開放的通商国家であるため外部からの制裁にぜい弱な韓国は、「核武装するには『最悪の条件』」の下にあるとも指摘した。
チョン・ボングン名誉教授の説明によると、米国は中国による1964年の核実験成功後、これ以上の核拡散を防ぐため、核の不拡散のための国際体制である核拡散防止条約(NPT)体制を作った。この条約が1970年に発効したことで、核保有国は米ソ英仏中の5カ国に制限されたと米国は考えた。ところが、インドが1974年にカナダなどから持ち込んだ平和利用を目的とする核技術と施設を用いて、核実験に成功した。これに衝撃を受けた米国は、ウラン濃縮とプルトニウム再処理の技術のさらなる拡散を徹底して遮断しはじめた。その後、濃縮・再処理技術を確保した国は米国と対立したため、保有しているのは制裁を受けたパキスタン、北朝鮮、イランくらいだ。
米国の同盟国や友好国のうち、これらの技術を新たに獲得した国はこれまで存在しない。核の不拡散は米国の外交安保の最重要政策だ。韓国は北朝鮮のように国際社会の制裁を受けて輸出が滞り、国際的に孤立する覚悟をしない限り、核武装は難しい。それが冷たい現実だ。在韓米軍が撤退したり、韓国に対する米国の安保公約が撤回されたりした場合は核武装せざるを得ない、という安保専門家たちの主張はあるが、そうなった場合も、「核武装」を叫べば叫ぶほど、実際には核武装から遠ざかる。
にもかかわらず尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領をはじめとする国民の力の政治家たちは、北朝鮮の核能力の増強に不安を感じている国内世論に便乗して「核武装」を叫んだ。尹前大統領は2023年1月のあるメディアとのインタビューで、核武装の可能性に言及した。しかし同年4月に米ワシントンで行われた韓米首脳会談後の「ワシントン宣言」では、「尹大統領は国際不拡散体制の礎である核拡散防止条約(NPT)上の義務についての韓国の長年の公約、および大韓民国政府と米合衆国政府との間の原子力の平和的利用に関する協力協定の順守を再確認した」と表明し、この可能性を自ら撤回した。
尹前大統領は米国と国際社会に「核武装は行わない」と公に約束したわけだが、その後も国民の力の内部では核武装が主張され続けた。国民の力の議員たちは国会で核武装と核潜在力の確保を主張する公開セミナーを開催したり、核武装1千万人署名運動すら提案したりした。このような態度は韓国の安保に役立たなかっただけでなく、米国エネルギー省によって韓国がセンシティブ国に指定されるなど、韓国の安保と科学技術の発展に大きな被害を及ぼしたと評されている。
過去に何度も核武装を強く主張してきたキム候補は、この日の討論会では「韓米同盟の範囲内で核武装ができるなら、すべきだ」というとっちつかずな立場を表明した。韓国が独自の核武装を行うには米国の同意や支援がなければならないが、それは現実的に難しいため、次善策として登場したのが核潜在力の確保だ。有事の際に迅速に核武装しうる濃縮・再処理能力などの技術的能力と資源を普段から備えておこう、というのだ。
今回の討論会では、キム・ムンス候補がまず核潜在力論に言及した。キム・ムンス候補はイ・ジェミョン候補との攻防の途中、「核潜在力の確保は、プルトニウム再処理、ウラン濃縮などが韓米原子力協定によって制限されているため、私が大統領になったら米国のトランプ大統領に会って日本水準の再処理ができるように(する)」と述べた。これを聞いたイ候補は「修正してさしあげると、プルトニウムを再処理するのではなく、使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを抽出するのだ」と述べた。イ候補は「今、韓国の核武装(の意図)を疑って米国が韓国をセンシティブ国に指定したという説もあるわけで、核潜在力を確保すると言うと米国から疑われ続けることになる」とし、「そのように核武装、核潜在力に言及して発言が行ったり来たりするのは望ましくない。実現可能な話をしよう」と批判した。
韓国が核潜在力を確保するには、まず韓米原子力協定を改正しなければならない。具体的には、使用済み核燃料の再処理については自由な再処理が可能でなければならず、ウランの20%未満の濃縮は全面的な容認をとりつけ、20%以上の高濃縮も可能でなければならない。韓国政府には直ちに核武装することはできないから、次善策として核潜在力を確保したいという本音をためらいなくあらわにすれば、米国が韓米原子力協定の改正要求に応じる可能性はほとんどない。
最後に、核共有と戦術核の再配備についての問答もあった。イ候補は「キム候補は米国との核共有、そして戦術核の再配備を公約しているではないか。米国は核共有はしないというのが原則だが、そのような公約は実現可能なのか」と問うた。キム候補は「実現可能だ。NATO式もあるし、韓国式の独特な核共有のあり方も(米国と)いくらでも協議しうる」として、「米国との十分な韓米首脳会談を通じて、原子力潜水艦などもうまく推進するつもり」だと述べた。
キム候補の述べたNATO式の核共有とは、NATO(北大西洋条約機構)の加盟国が核兵器の配備施設を提供し、核兵器発射任務の一部を担うというもの。米国は現在、NATO加盟の5つの国(ドイツ、ベルギー、オランダ、イタリア、トルコ)に戦術核兵器を配備し、運用している。米国とNATOは「核計画グループ(NPG)」で核についての定例協議を行うとともに、核兵器の安全および保安、核兵器の管理などの役割を遂行する。しかし、NATO加盟国が核兵器を自国の戦闘機などに搭載して発射する場合も、核兵器を使用するかどうかの最終決定はすべて米国大統領が下すというのは同じだ。NATOの核共有は、米国とNATOが核兵器の所有や使用権を共有するものではなく、核兵器の使用に伴う政治的負担と作戦のリスクを共有するものだ。
キム・ムンス候補の言及した原子力潜水艦(原子力で推進する潜水艦)は、朝鮮半島の状況がさらに厳しさを増せば、次期政権においても課題として浮上する可能性はある。原子力潜水艦は核兵器を搭載した潜水艦ではなく、ディーゼルエンジンではなく原子力を推進動力として使用するものであり、核拡散防止条約(NPT)違反ではない。かつて盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権が推進し、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が2017年の大統領候補時代に公に必要性を語ったことで、改めて勢いを得た。尹錫悦政権が予算を削減したため、事業は停止している。