「捕虜は、特に、暴行又は脅迫並びに侮辱及び公衆の好奇心から保護しなければならない」
1949年に定められた捕虜の待遇に関するジュネーブ条約(第3条約第13条)の規定だ。捕虜の写真と映像の公開を禁止しているわけではないが、ニューヨーク・タイムズ紙は「大衆の好奇心」から捕虜を保護することを「公の場に彼らを展示してはならないという概念」として解釈した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は11日(現地時間)、クルスク州で北朝鮮兵士2人を捕虜にしたと発表した。その後、韓国の国家情報院もこの事実を確認した。ゼレンスキー大統領は、彼らの年齢をはじめ、写真や尋問映像まで公開した。まだ若い北朝鮮軍兵士の顔は、北朝鮮に帰らず「ここで暮らしたい」という陳述内容とともに、保護されることなく世界に広がった。韓国メディアは包帯を巻き傷が癒えていない彼らの顔と話を大々的に報じた。「ロシアに到着してから派兵されたことを知った」という陳述は、北朝鮮に対する非難の声を高めた。ところが、若い兵士たちの身元を公開する必要性をめぐる問題提起はほとんど見られなかった。
同日、ニューヨーク・タイムズやワシントンポスト、ガーディアンなどは、このニュースを報じながらも、捕虜になった北朝鮮軍兵士の写真を載せなかった。CNNやロイター通信などは、北朝鮮兵士の顔をモザイクで隠して放送または掲載した。一部はジュネーブ条約違反である可能性があるという説明を付け、一部は「独自の映像が撮られた場所、日付、真偽だけでなく彼ら(兵士)の所属を確認できない」という理由を挙げた。
先月26日には「ウクライナ特殊戦司令部(SOF・司令部)がロシアのクルスク州で北朝鮮兵士を捕虜にしたとみられる」というウクライナ軍事専門メディア「ミリタルニ」の報道があった。メディアは、傷を負ったようにやつれたアジア人のそばで、軍服姿の白人が記念に撮った写真を一緒に載せた。国情院は素早く事実を「確認」した。そして半日ほど経った後「26日に捕虜になった北朝鮮兵1人が、負傷が悪化し死亡した」と発表した。21世紀に瀕死の捕虜を「戦利品」であるかのように見せびらかした写真で、ウクライナ軍と推定される男性の顔は隠されていた。
このニュースを報道した主な海外メディアはほとんどなかった。北朝鮮軍の遺体から確保したという北朝鮮兵の自筆の記録や「金正恩(キム・ジョンウン)北朝鮮国務委員長直筆の手紙」も報道されなかった。北朝鮮兵捕虜の顔を公開しなかったことと同じ理由とみられる。最近、あるメディアは、複数の脱北軍人と北朝鮮専門家の話として、この記録物が捏造された可能性が高いと報じた。
ソーシャルメディアを利用したウクライナの新たなプロパガンダ(宣伝扇動)は、戦争勃発初期の2022年2~3月から物議を醸してきた。リアルタイムで血まみれの戦況を誰でもアクセスできるソーシャルメディアに掲載し、ロシア兵捕虜たちを会見に立たせたからだ。西欧の世論を直接喚起し動かすことで、支援を獲得しようとする戦略とみられた。かなりの破壊力を持ったウクライナの戦略について、真偽をめぐる議論とともに倫理的・合法的問題が提起され、主な海外メディアは報道に慎重を期した。
13日、ウクライナ国防省情報総局の関係者は「北朝鮮兵捕虜をウクライナの利益のために活用する」思惑をあらわにした。北朝鮮軍の派兵問題をめぐる世論戦の標的集団に韓国が含まれているだけに、韓国メディアにも慎重さが求められるのではないかと自らを省みる。