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中国政府の戦略とは別に、今回の事態を見る中国人の世論は複雑で微妙だ。多くの中国人にとって、尹錫悦が行った「12・3内乱事態」は東アジア民主化の優等生であることを自負してきた韓国政治が「混乱している」という認識を強めた。インターネットでは「韓国の大統領はなぜ毎回、末路が悲惨なのか」、「軍隊がなぜデモ隊に発砲すらできないのか」という嘲弄も広がった。2021年1月6日に選挙不正論を主張して国会議事堂を襲撃するよう支持者を扇動したトランプがホワイトハウスに戻ることになったのに続き、尹錫悦が選挙不正論を主張しながら軍を動員して国会を攻撃したのは、西欧式民主主義の失敗と中国式政治体制の安定性を強調してきた中国共産党の叙事を後押しするものだった。
もちろん、国会前で装甲車と銃を阻止した韓国市民の姿は、中国人に1989年の天安門デモの流血鎮圧を思い出させるものだった。ドイツに亡命中の元「南方週末」編集長の長平氏は、「ドイチェ・ベレ」(DW)中国語版への寄稿で、「中国人は今回の韓国のニュースを借りて1989年の天安門鎮圧の歴史をしばらく語れるようになった」と述べた。さらに「尹錫悦が戒厳を宣布した後に出てきた戒厳司令部の通告には、言論と出版に対する統制や、集会とストライキを禁止する内容が含まれている。これを見た中国のネットユーザーは『戒厳がこのような内容ならば、ある国はつねに戒厳状態にある』と書いた」とし、検閲と統制の中の中国社会を「持続的戒厳状況」に喩えた。
東京に滞在している中国人ジャーナリストで作家の賈葭氏に、韓国の非常戒厳事態を中国人はどう見ているのかという質問を投げかけた。氏は「最近数年間『タクシー運転手』をはじめ、韓国の光州(クァンジュ)民主化運動に関する映画が中国の小規模グループの間で流行したが、公に上映されることはなかった。普通の中国人は、韓国人が民主を勝ち取り守るために流した血と努力をちゃんと理解しておらず、官営メディアが誘導する通り、今回の事態は西欧式民主主義の危機であり混乱だと考えるだろう」という答えを送ってきた。そして、他の側面も一緒に見なければならないと強調した。「自ら問題を考えることができる多くの中国人は、民主体制を守るために行動に出た韓国の国会議員たちの努力と市民の力に関心を持っているが、このような観点は主流メディアには登場せず、個人的に書く文に登場するだけだ。しかし、独立的に考える多くの中国人は、韓国市民の行動を支持し、うらやましがり、自分たちの現実に投影したりもする」
韓国国会で弾劾案が可決された瞬間、中国の友人たちの歓呼と応援がインターネットに乗ってここまで伝えられた。「韓国の民主を支持する」 、「尹錫悦がついに退いた。民主万歳!」。12月3日以降、韓国の集会や国会の状況に中国語字幕を入れた映像を非常に多くの中国人がインターネットでシェアし、一緒に見た。今回の内乱事態とそれに対する韓国市民の抵抗は民主主義に対する悩みだという共通点で、韓国人と中国人が意思疎通できるきっかけにもなった。
北京外国語大学の周曉蕾教授は7日、「中国新聞周刊」への寄稿で、尹錫悦の戒厳を「冷戦の幽霊」と解釈し、今回の事態で明らかになった「韓国の傷」に注目した。「尹錫悦は『妻を守るために非理性的行動をした』のではなく、『冷戦の遺産』に従った… 韓国の戒厳の歴史を振り返ると、軍事独裁政権は分断の現実を利用し、国家非常事態を作り出し、国内の反対者たちに対する鎮圧を正当化してきた。韓国は民主化時代に入ったが、分断体制下で戒厳が象徴する合法的な国家暴力とそれが日常に浸透する状況からは抜け出せずにいる。それこそがハン・ガンがノーベル文学賞を受賞した原因かもしれない。ハン・ガンは文学の形で歴史の傷をあらわにし、傷の下でいつでも化膿しうる(奥底の)傷を暗示した」
尹錫悦の弾劾と内乱加担者に対する断固たる処罰が必ず必要だが、それだけでは解決されないほど、韓国政治と社会の問題は深く膿んでいる。これまで多くの韓国人が民主主義の優等生という自負と傲慢さが混在した視線で中国を見てきた。今回の非常戒厳で、その民主主義がどれほど脆弱なのか、それを守るために韓国人は何をすべきかを深く考えさせられた。鋭く分裂し、互いを憎悪することで、肝心の共同体の問題を解決する能力を失いつつあるこの深い危機の根源を探り出し、反省し、直すことができなければ、私たちの前には何があるだろうか。