本文に移動

尹大統領式の権威主義統治は危機を悪化させる【コラム】

登録:2024-10-24 08:12 修正:2024-10-26 13:05
尹錫悦大統領と国民の力のハン・ドンフン代表が21日、ソウル龍山の大統領室前のパイングラスで対話している。チョン・ジンソク大統領秘書室長も同席した=大統領室提供//ハンギョレ新聞社

 米マサチューセッツ大学(MIT)のダロン・アセモグル教授ら3人の経済学者は、政治・経済制度と経済成長の関係性を究明した功績により、今年ノーベル経済学賞を受賞した。彼らは古代から現代までの洋の東西の国々の興亡盛衰を膨大に研究した結果、民主主義が経済成長に重要な役割を果たしたという結論に達した。逆に独裁で富と権力を少数の人間が占有したり、国家と社会との力の均衡が崩れたりした国は衰退の道を歩んだ。彼らは韓国の急速な経済成長の過程を主な論拠としたことで注目を集めたが、民主主義を後退させる尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権を検討した時に韓国の未来をどう展望するのかが、非常に知りたいところだ。

 これらの学者を大衆に知らしめた最初の著書は『国家はなぜ失敗するのか』だ。要点は、包容的な政治・経済制度をとる国は、より多くの国民が経済活動に参加して才能を発揮することにより革新を起こして豊かになる一方、少数の既得権勢力が権力と富を独占する搾取的な政治・経済制度をとる国は、大半の国民にとって働くインセンティブが消滅するため貧しくなるというのだ。包容的政治制度とは国家権力の恣意的行使を制限し、社会全般に等しく権力を配分する体制を指し、包容的経済制度とは私有財産権、法治、公正な競争を保障するもののことを指す。尹錫悦大統領が「人生の本」として推薦したこの著作は、実は極貧国や発展途上国に適用される新国富論だ。

 現在、韓国をはじめとする主要国が直面する諸課題については、2番目の著書『自由の命運:国家、社会、そして狭い回廊』で論じられる。要旨は、国は強力な中央集権化を通じて本来の役割を果たさなければならないが、独裁へと変質しないよう社会がけん制・監視してはじめて経済も持続的成長が可能になるというもの。国家権力を社会がけん制することを、旧約聖書に出てくる巨大な海の怪物「リヴァイアサン」に足かせをはめることに例えている。韓国的現実において国家(リヴァイアサン)とは「帝王的」大統領のこと、社会とは立法府、司法府、メディア、労組、社会団体、市民などのことだと理解される。これらの学者たちは、現代国家は不平等の悪化、雇用の減少、経済力の集中などの問題が深刻化しているが、政治的分裂と非妥協的な態度のせいで解決策を見出せずにいると指摘する。そのせいでポピュリストが勢力を得て、彼らが政権を握って独裁化する国が増えているというのだ。代表例としてドナルド・トランプの米国をはじめ、フランス(マリーヌ・ルペン)、トルコ(レジェップ・タイップ・エルドアン)、ハンガリー(オルバン・ビクトル)、フィリピン(ロドリゴ・ドゥテルテ)などをあげる。果たして、尹錫悦政権の韓国がここに含まれないと、誰が自信を持って言えるだろうか。

 韓国社会は今、法の下の平等という民主主義の基本原則までもがじゅうりんされている。尹大統領の恣意的統治は、妻以外には誰もけん制できないようだ。与党はもちろん検察、監査院、国民権益委員会、放送通信委員会などの中立的、独立的でなければならない機関は事実上、政権防衛部として機能している。野党のことは政治パートナーとしてすら認めず、調整と妥協という政治の基本まで捨て去って久しい。韓国のリヴァイアサンは足かせから解き放たれているのだ。やはり今年のノーベル経済学賞受賞者であるマサチューセッツ工科大学のサイモン・ジョンソン教授は、「強い(民主主義)制度を構築するには長い時間がかかるが、それを倒すのに長い時間はかからない」と警告する。

 このような権威主義的、非民主的な統治のあり方は経済にとっても有害だ。官僚たちは大統領の怒りを買うことを恐れて、誤った指示にも「NO」とは言えない。発表直前まで成功すると大統領に報告していた釜山への万博誘致の失敗は象徴的だ。人工知能が話題になっている時代に研究開発予算をばっさり削ってしまったり、まともな協議もなしに「医学部定員2千人増員」を推進したりして、科学人材養成にも支障をきたした。財政は、税収欠損事態で赤字規模を膨らませ、外国為替平衡基金などを引っぱってきて帳尻を合わせた。このような一時しのぎは、20~30年間かけて発展させてきた経済システムを揺るがすものだ。株の空売りの突然の禁止も同様だ。以前の政権では想像すら難しかった政策の歪曲が何のはばかりもなく繰り広げられているのに、官僚たちは相づちを打ってばかりいる。このようなあり方は、平時には問題にならないかもしれないが、危機に見舞われたら事態を悪化させる恐れがある。外交安保政策でも似たようなことが起きており、尹大統領の準同盟に近い韓米日安保協力の強化の動きは、北朝鮮のロシアへの密着の一つの要因となった。「コリア・ディスカウント」はこれらとつながっているのだ。

 韓国社会はリヴァイアサンにどのように足かせを再びはめるのか、選択の瞬間が迫っている。妻の起訴を阻止するとして国政の混乱を放置する尹大統領の態度に憤る市民が増えている。与党代表の苦言も受け入れず、野党とメディアの批判にははなから耳を貸さないわけで、結局は市民が再び立ち上がるしかないのだろうか。

パク・ヒョン|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1163978.html韓国語原文入力:2024-10-23 17:18
訳D.K

関連記事