hankyoreh

韓国の憲政史上初めて国会で弾劾訴追が行われたアン・ドンワン釜山地検第2次長検事が2月20日午後、憲法裁判所で開かれた弾劾審判の初弁論に出席し、弁護人と話している。左は代理人のイ・ドンフプ前憲法裁判官/聯合ニュース

　「ソウル市公務員スパイ捏造事件」の被害者ユ・ウソン氏を報復起訴するなど、公訴権を乱用したという理由で弾劾審判台に上げられたアン・ドンワン釜山（プサン）地検第2次長検事の弾劾訴追が、憲法裁判所で棄却された。憲法裁が現職検事に対し判断を下したのは韓国の憲政史上初めて。これに先立ち、最高裁はアン検事の公訴権乱用を認め、ユ氏事件の公訴を棄却したが、憲法裁はその違反の程度がアン検事を弾劾するほど重くはないとみた。

　30日、憲法裁判所は裁判官5（棄却）対4（認容）の意見でアン検事に対する弾劾訴追を棄却した。ところが、棄却意見を出した裁判官5人中2人は「この事件の公訴提起が検察庁法と公務員法に違反したもの」という点は認めつつも、職権乱用の故意はないという理由で弾劾請求を棄却しているため、9人の裁判官のうち6人が「アン検事の公訴提起は違法だった」と判断したことになる。

　アン検事の刑法違反（職権乱用）▽旧検察庁法違反（権限乱用）▽国家公務員法違反（誠実義務）の有無に対し、裁判官9人の意見は大きく分かれた。まず、イ・ヨンジン裁判官、キム・ヒョンドゥ裁判官、チョン・ヒョンシク裁判官の3人は、アン検事がいずれも違反していないとみた。3人の裁判官は「（ユ氏事件を）最高裁で公訴権乱用に該当すると判断したが、これだけで直ちに（アン検事が）職務上の義務に違反したと認めることはできない」と述べた。ユ氏の犯行に対する新たな手がかりが見つかったため、担当検事としては再捜査の必要性があったと判断できるとして、アン検事に私益追求や違法の目的があったとみる根拠がないと判断した。

30日午後、アン・ドンワン検事弾劾審判の宣告が行われたソウル鍾路区の憲法裁判所に、アン検事の代理人を務めるイ・ドンフプ前憲法裁判官が出席し、大法廷に向かっている/ 聯合ニュース

　イ・ジョンソク所長（裁判官）とイ・ウネ裁判官は、旧検察庁法違反（権限乱用）と国家公務員法違反（誠実義務）の違反は事実だが、事案が弾劾するほど重大ではないという理由で棄却意見を出した。2人の裁判官は「アン検事が最大限に公共の利益を図り、その不利益を防止するために人格と良心を捧げて誠実に職務を遂行したとみることはできない」とした一方、「最高裁判所の判断でユ氏に国家刑罰権が行使される事態が発生しておらず、このような判決で（今後）検事が公訴権を乱用して公訴提起する行為が繰り返される可能性が高いとは考えられず、弾劾審判制度の目的はある程度具現化された。したがって罷免を正当化する理由が存在するとは考えにくい」と述べた。

　アン検事を罷免しなければならないと判断したキム・ギヨン裁判官、ムン・ヒョンベ裁判官、イ・ミソン裁判官、チョン・ジョンミ裁判官は、アン検事が刑法違反（職権乱用）▽旧検察庁法違反（権限乱用）▽国家公務員法違反（誠実義務）にすべて該当しており、「法律違反が重大であるため弾劾訴追を認容すべき」と判断した。4人の裁判官は「（アン検事が）ユ氏事件を受け持った頃、すでに別の意図を持っていたため、再捜査を進めたとみるのが合理的」だとしたうえで、「公益の代表者であり人権広報機関として適正な訴追権を行使する義務があるにもかかわらず、これに背きユ氏に実質的な不利益を与える意図で公訴を提起をした」と指摘した。

　さらに、アン検事の違法行為が罷免に至るほどなのかについては、「検事は選挙で選出された憲法機関ではないため、大統領に対する弾劾審判と同じ程度に考慮されることは難しい」とし、「国家刑罰権の実現の役割を果たす検事が権限を乱用した場合、国民の基本権侵害が大きいため、検事による憲法違反が繰り返されないよう厳重に警告する必要がある」と述べた。アン検事の罷免で得られる憲法守護の利益が、検事の罷免による国家的損失を上回るくらいに大きいため、弾劾訴追を認容すべきという意味だ。

　これに先立ち、検察がユ氏のスパイ容疑の証拠として提出した中国政府の公文書が捏造であると明らかになり、ユ氏のスパイ罪に無罪が言い渡されると、検察は4年前にすでに起訴猶予処分を下した対北朝鮮送金容疑（外国為替取引法違反）でユ氏を裁判にかけた。最高裁（大法院）は2021年、公訴権乱用を認め、ユ氏の外国為替取引法違反疑惑を公訴棄却した。その後、昨年9月に共に民主党などによってアン検事に対する弾劾訴追案が国会で発議され可決した。