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ブラジル最高裁がソウル中央地裁の判決を引用
21世紀に入ってからは、人権侵害などの反人道的な犯罪行為も主権免除の例外として認める流れが生じている。2004年3月にイタリア最高裁が、第2次世界大戦中にドイツの軍需工場で強制労働させられた自国民がドイツ政府を相手取って起こした損害賠償請求訴訟で「国際犯罪に当たる国の行為には主権免除は適用できない」として、原告勝訴の判決を下したのが代表的な例だ。
最近になって似たような判例が相次いでいる。ブラジル最高裁は2021年8月23日、第2次大戦中の1943年に自国の領海内でドイツ軍の潜水艦に攻撃され漁船が沈没した事件の被害者の遺族がドイツを相手取って起こした損害賠償請求訴訟で、原告勝訴の判決を下した。ドイツ軍の行為は「国際人道法の一般原則に違反」しており、「人権を侵害する不法行為は主権免除の恩恵を受けない」というのが裁判所の判断だ。この時、ブラジル最高裁は根拠判例の一つとして、日本の主権免除を否定し、「慰安婦」被害者の勝訴とした2021年1月のソウル中央地裁の判決を引用している。
ウクライナ最高裁も2022年4月14日、ロシア軍との戦闘中に死亡した被害者の遺族がロシアを相手取って起こした損害賠償請求訴訟で、ロシアの損害賠償責任を認めた。同法廷は「主権免除は国際関係の主体としての国家の法的地位の特徴であり、それは『対等な主体同士は相互に権限や司法的管轄権を持たない』という国際法の一般原則にもとづく」、「しかしこの原則を順守するための必要条件は国家主権を互いに認めることであるため、ロシア連邦がウクライナの主権を否定し、それに対する侵略戦争を繰り広げている際には、同国の主権を尊重し順守する義務はない」との判断を示した。
ソウル高裁の判断も同様だ。同法廷は判決で「主権免除に関する国際慣習法は恒久的で固定的なものではない。…法廷地国(韓国)の領土内で法廷地国の国民に対して行われた不法行為は、その行為が主権的行為と評価されるかどうかを問わず、主権免除を認めないことこそ、現在の有効な国際慣習法だと考えるのが妥当だ」と述べている。
続いて「原告(被害者)はほとんどが大韓民国国民で、現在大韓民国に居住しており、大韓民国民法にもとづいて被告に不法行為の責任を問うている」とし、「この事件において原告は大韓民国の法を準拠法として被告の不法行為の責任を問うているため、被告の不法行為にともなう損害賠償請求権が成立するかどうかは大韓民国の法を準拠法として判断することとする」としている。主権免除の対象に当たらない日本の不法行為について、韓国の法にもとづいて損害賠償責任を認める、との判断だ。
「近代市民は国の保護を受ける。人権侵害が発生しないよう、国は保護・救済しなければならない。また侵害が発生した際には、国が裁判所で裁判を受ける権利と判決の実行を保障しなければならない。…このかん被害者たちが日本で起こしてきた訴訟はすべて敗訴した。日本側は裁判を請求する権利がないとして最初から門戸を閉ざしてしまった。韓国司法も主権免除を押し立てて原告敗訴の判決を下した。そのせいで被害者たちは長年、存在するのに存在しない人々、市民の資格を与えられていない人々だった」
民主社会のための弁護士会(民弁)で日本軍「慰安婦」問題対応タスクフォースの団長を務めるイ・サンヒ弁護士(法務法人チヒャン)は、ハンギョレ21にこのように述べた。イ弁護士はさらに、「これまで被害者はただの一度も(日本政府の)法的責任を認められたことがない。今回の判決で韓国司法は被害者に完全な市民権を与えたと考えることができる。今回の判決と同じ論理を適用するなら、侵略戦争の遂行過程でなされた強制動員に対しても、日本政府は法的責任は免れないだろう」と付け加えた。
上告しなかったため確定した判決、履行は可能か
日本側の反応は十分予想しうるものだった。日本の上川陽子外相は11月23日の談話で、「国際法及び日韓両国間の合意に明らかに反するものであり、極めて遺憾であり、断じて受け入れることは」できないとし、「韓国に対し、国家として自らの責任で直ちに国際法違反の状態を是正するために適切な措置を講ずることを改めて強く求める」と述べた。このかん日本側は、「慰安婦」問題を含む歴史問題は1965年の韓日請求権協定で「完全かつ最終的に解決済み」で、特に「慰安婦」問題は2015年の韓日「慰安婦」合意で「最終的かつ不可逆的に解決」されたと主張してきた。
一審から訴訟そのものを無視して一切対応してこなかった日本政府は、上告しなかった。ソウル高裁の判決は確定した。同高裁は原告側の請求を認め、「被害者1人当たり2億ウォンの損害賠償金と年12%の遅延利子の支払い」を命じた。判決は履行されるだろうか。専門家は、裁判所の強制執行決定を引き出した後に、日本政府が韓国に保有している使用していない土地(遊休地)を現金化したり、日本政府所有の商船が韓国の港に停泊した際に差し押さえたりなど、強制執行の方法がないわけではないと語る。容易ではないことは明らかだ。だが、ソウル高裁の判決が主権免除についての国際慣習法の有力な判例として位置づけられる可能性は高い。イ・サンヒ弁護士は次のように言う。
「これまで戦争犯罪に対しては、国がやったことだから、『婦人及児童の売買禁止に関する国際条約』、『奴隷条約』、『強制労働条約』などの条約の適用を試みて、だめなら仕方ない、というのが国際社会の論理だった。今回の判決は、重大な人権侵害をこれ以上座視しないということを司法が国際社会に宣言したものと考えることができる。パレスチナの地ガザ地区の惨劇についても、ウクライナに殺傷兵器を援助することについても、国の違法性を争えるようになった」