2023年の朝鮮半島安保状況は一言で言えば、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の「力による平和」に対する北朝鮮の「強対強」の対応で軍事的緊張が高まり続けたということだ。戦争と軍事衝突が起きなかっただけで、平和はなかった。元日、北朝鮮は飛行距離約400キロメートルの短距離弾道ミサイルを発射した。国防部は1月16日に新しく発刊した「2022国防白書」で、「北朝鮮政権と北朝鮮軍は我々の敵」という表現を「復活」させた。北朝鮮の体制において、政権と軍隊はすなわち北朝鮮という国そのものを意味する。北朝鮮は直ちに韓国を主敵に指定すると発表した。
「自由の盾(フリーダムシールド)」という新たな名前の定例韓米合同軍事演習が3月と8月の2回にわたり大々的な規模で実施され、その他にも大小の合同訓練と韓国軍単独の訓練が年中持続的に行われた。 米国の空母、原子力潜水艦、核爆撃機などの戦略資産が朝鮮半島に「常時配備」のレベルで展開され、韓米を越えて韓米日海上訓練とミサイル迎撃訓練も事実上公式化された。これに対する北朝鮮の対応は主にミサイル発射だった。年末までに数十回の「訓練」を通じて、米国本土を打撃できる大陸間弾道ミサイルに加え、短距離弾道ミサイル、巡航ミサイル、潜水艇、潜水艦などに「核弾頭」を装着する意志を明確に示した。
北朝鮮を利する中ロ敵対政策
尹錫悦政権が追求する平和の手段である「力」は、米国の核戦力と韓米日の協力から生まれる。8月18日、初の正式な韓米日3カ国首脳会談がキャンプデービッドで行われた。インド太平洋地域および全世界の平和と繁栄、具体的な協議体の創設、拡大抑止と共同訓練、経済安全保障の強化などのための協力を誓う「キャンプデービッド原則」「キャンプデービッドの精神」という文書を採択した。そして、これに対する3カ国の「協議」(consult)を約束する別途の文書も共に発表された。
米国はついにキャンプデービッド合意を通じて、戦略的利益を共有する日本と、米日に順応し追従する尹錫悦政権を束ね、3カ国の協力を「完全かつ検証可能で不可逆的な事実上の同盟」にすることに成功した。それに伴う後続措置は、朝鮮半島における米国戦略資産の制限なしの展開と韓米日3カ国の合同軍事演習など、北朝鮮だけでなく中国とロシアも同時に狙った北東アジア地域での軍事協力で実行されている。
韓米日首脳会議が開かれてから1カ月もたたず、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長とロシアのウラジーミル・プーチン大統領は9月13日、ロシアのアムール州のボストチヌイ宇宙基地で会った。4年半ぶりの再会となる首脳会談では、公式発表文こそ出なかったが、両国が軍事・経済分野で協力を強化することにしたのは明らかだ。朝ロ軍事協力については、すでに7月27日の「戦勝節」(朝鮮戦争停戦協定締結日)を機にロシアのセルゲイ・ショイグ国防相が北朝鮮を訪問し、重要な実務協議を進めていた。
朝ロ協力の軍事分野では、ウクライナ戦争のために北朝鮮がいかなる形であれロシアに兵器を含む軍事支援を行う一方、ロシアは北朝鮮に先端軍事技術を提供することにした可能性が高い。さらに、合同演習や軍人事交流などの計画も、今後さらに具体的な輪郭が明らかになるだろう。
朝ロ首脳会談の後続措置として経済協力も実質的に進められている。11月14~16日、ロシアの天然資源環境相は第10回朝ロ経済共同委員会会議に出席するため平壌(ピョンヤン)を訪れ、貿易や経済、科学技術など多方面の協力事業を活性化するという「議定書」を交わした。別途のインタビューでは観光を活性化する必要性にも言及した。12月11~15日、沿海州知事一行が平壌を訪問し、北朝鮮の対外経済相と会談し、「両国間の地域間の経済協力をより高い段階に引き上げるための問題」について協議した。
朝ロ間の多方面にわたる協力が本軌道に乗り、朝中間の伝統的な友好関係が実質的協力に拡大すれば、北朝鮮が西側の封鎖と制裁を突破し、国内の経済問題を解決できる。限られた形ではあるが、国際社会に登場し、国際機関にも参加する可能性が高い。尹錫悦政権の行き過ぎた米日重点外交と中国とロシアに対する事実上の敵対的政策が、北朝鮮の立場を有利にするのに寄与したということだ。
南北間の完全なネガティブ・サム・ゲーム
北朝鮮は2023年5月と8月の二度の失敗を乗り越え、11月21日に「千里馬1型」というロケットを用いて衛星「万里鏡1号」の打ち上げに成功した。今回の衛星は過去に軌道進入に成功した「光明星3-2号機」(2012)や「光明星4号機」(2016)より衛星体が偵察装備を搭載するほど大きくなり、北朝鮮はホワイトハウスやペンタゴン、米国本土および海外米軍基地などを撮影したと主張した。北朝鮮の軍事偵察衛星は、核武力の「完成度」とそれに基づいた抑止能力をさらに高める。当然、北朝鮮は2024年にも偵察装備の性能向上とともに偵察衛星の打ち上げを続けるだろう。
北朝鮮が偵察衛星を発射した翌日、韓国は「9・19南北軍事合意」第1条第3項の効力を停止した。同条項は軍事境界線の南北に飛行禁止区域を設定するものだ(戦闘機と偵察機は東部40キロメートルおよび西部20キロメートル、その他の無人機とヘリコプターは10~15キロメートル区域)。そしてその翌日、北朝鮮国防省は「軍事合意に拘束されない」とし、「地上・海上・空中で中止していたすべての軍事的措置を直ちに復元する」と発表した。さらに合意によって非武装地帯で閉鎖した監視警戒所(GP)を復元し、武器を搬入する一方、西海岸の海岸砲の砲口を開いた。
このような対抗措置は、接境地域での軍事的緊張と衝突の可能性を高める南北間の完全なネガティブ・サム(negative sum、負の和)ゲームだ。強いて言えば、通常戦力と遠距離偵察能力で劣勢の北朝鮮に相対的に軍事的利点を与えるものだ。韓国の優勢な戦力は、その程度の「制限区域」を守っても、情報と作戦の面であまり制限を受けないからだ。2024年からは再び文在寅(ムン・ジェイン)政権以前のように非武装地帯内と北方限界線(NLL)付近の海域での南北の軍事衝突の可能性を常に懸念しなければならない安全保障状況に直面することになった。
2024年になったからといって、尹錫悦政権の外交安保政策と対北朝鮮対決路線が変化するとは期待しがたい。北朝鮮の強対強の対応基調も続くだろう。かすかな希望を抱けるのは、4月の総選挙で平和を実践しようとする政治勢力が国会を主導すること程度だ。もう一つは、11月の米大統領選挙で朝米関係の改善を果敢に進めようとする新大統領が選出されることも考えられる。しかし、最も重要なのは、平和的手段による平和を念願する多数の国民の存在だろう。険しい道のりだが、進むべき平和の道を、2024年も共に、毅然と歩んでいかなければならない。