全羅北道扶安(プアン)のセマングムで開催された「2023世界スカウトジャンボリー」が終わりました。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は今月14日の首席秘書官会議で、「世界スカウトジャンボリーを無難に終えたことで、国のブランドイメージを守る上で大きな役割を果たしてくれた宗教界、企業、大学および多くの地方自治体に感謝し、ジャンボリー隊員に喜んで応対してくれた韓国国民にも感謝する」と述べました。
今回の行事は成功裏に行われたという意味でした。記者団は大統領室の関係者に「責任究明」への言及はなかったか尋ねました。大統領室の関係者は次のように答えました。
「ジャンボリーが計画通りに進められなかった側面があるため、その理由については点検し、また今後の対応策も立てることは必要だと思う。しかし、そのような過程が不毛な政争になってしまってはならず、生産的な改善策を導き出すような過程にならなければならないと思う」
水たまり、熱中症、やけど虫、不衛生なトイレで史上最悪という汚名を着せられた今回のジャンボリーのことを、尹大統領と大統領室がこのように寛大に評価したのはなぜでしょうか。
「はるか昔にオリンピックを開催したのに…」
尹大統領はスカウト経験のある最初の大統領です。3月には韓国スカウト連盟の名誉総裁にもなりました。今月2日の開会式で尹錫悦大統領とキム・ゴンヒ女史は、スカウト服を着てスカウトたちの歓迎を受けながら明るく笑って入場しました。
尹大統領は「スカウト活動を通じて育まれた独立心と責任感、隣人に対する奉仕の精神、国に対する献身的姿勢は、みなさんを立派な社会のリーダーへと成長させるだろう」と演説しました。世界中から集まったスカウト隊員たちと共に、各自の夢を記した紙飛行機を飛ばしたりもしています。
大統領がここまで積極的に参加したイベントですから、どうしても大統領の口で「失敗した」と評価することはできなかったことでしょう。かといって、何事もなかったかのようにやり過ごすわけにもいきません。
口火を切ったのは監査院です。「誘致から準備過程、運営、閉会までのジャンボリー全般に対して監査を行うつもりであり、関連する中央省庁や地方自治体などのあらゆる関連機関や問題点などを対象として、徹底して監査する予定」だと表明しました。監査院はおそらくセマングムジャンボリー失敗の責任を、主に文在寅(ムン・ジェイン)政権と全羅北道および女性家族部の公務員に問うでしょう。そうすれば尹大統領と大統領室に浴びせられる非難を少しでも弱められるからです。
でも、おかしくないでしょうか。 いくら考えてもなかなか理解できません。21世紀の大韓民国で、どうしてこのようなあきれた事態が起きたのでしょうか。セマングムジャンボリー失敗の真の原因はいったい何なのでしょうか。
何よりも私は、公務員がどのように仕事をしたのか知りたいと思いました。韓国の公務員はとても有能な集団です。専門性、組織力、瞬発力で何一つ欠けているところのない人たちです。それら多くの公務員が今回は一斉に傍観していたのでしょうか。さっぱり理解できませんでした。
ユン・ヨジュン元環境部長官が今月10日に文化放送(MBC)ラジオの「シン・ジャンシクのニュースハイキック」でこんなことを言っていました。
「韓国がオリンピックを開催したのはいつですか。88年ですよ。公職者たちがきちんと気を配ってさえいたなら、イベントの準備があんなにでたらめになるはずがないんですよ。私のみるところ、完全にでたらめという表現を使わねばならないほどお粗末でした。これはどういう意味かというと、関連省庁や機関の公務公職者が誠意を尽くしていないということです。では、なぜこのようなことが起きたのか」
「韓国の公職者たちは能力でいえば有能な公職者たちです。経験も豊富ですし。でも、自らの誠意を尽くさなかったということじゃないですか」
「誠意を尽くすように仕向けられなかった責任者たちに問題があるのです。指導力に問題があると考えるべきです」
ユン元長官の言葉には要点がすべて含まれています。
「長官不在の行政安全部、政務的判断できず」
何人かの前・現職の公務員に今回の事態の原因を集中的に尋ねてみました。とても興味深い答えが聞けました。
「全羅北道がなぜよりによってあんな場所にジャンボリーを誘致したのかは別途問うべきだ。問題は行政安全部だ。女性家族部や文化体育観光部は人も少なく組織も弱い。しかし行政安全部は企画財政部の次に有能な人材が集まっている。経験も豊富で組織も強大だ。今回のジャンボリーがまともに回らないことを知らなかったはずがない。行政安全部がきちんと判断していたなら、開催前に非常対策を取っておくべきだった。ところがイ・サンミン長官は今年2月8日に国会の弾劾訴追を受け、7月25日に憲法裁判所が棄却決定を下すまで職務が停止されていた。職務を代行した次官は、長官がなすべき政務的判断ができない人だ」
「尹錫悦政権の発足初期から積もり積もった問題が爆発したのだ。文在寅政権の「オゴン(思いがけず公務員・政権による任命で公務員になった人)」たちは「ヌルゴン(常に公務員・公務員試験を受けて入った正規職公務員)」たちを苦手としていた。ヌルゴンが何か言えばオゴンたちは一応は聞いてやっていた。ところが尹錫悦政権のオゴンたちは、ヌルゴンが何か言うといつもイライラした態度を示した。『そんなことはあなたたちが自分で考えてやるべきだろう。なぜいつも私たちに聞くのか』という態度だった。そして何の決定も下さなかった。ヌルゴンを『羊飼いなき羊の群れ』のように放置した。李明博(イ・ミョンバク)、 朴槿恵(パク・クネ)両政権のオゴンはそれでもエリートだった。ヌルゴンたちのこき使い方が分かっていた。尹錫悦政権のオゴンたちは仕事を知らない。検事政権だからか、いつも過ちを問い、責任を問おうとするばかりだ。だからヌルゴンが動かない。梨泰院(イテウォン)惨事もそうやって起きた。セマングムジャンボリーの失敗と似たような事件は今後も相次ぐだろう」
尹大統領も公務員がきちんと動いていないことを知っていたようです。動かない公務員たちを何度も批判しています。
ついには6月29日に大々的な次官人事を断行した際、大統領室の5人の秘書官を次官として送り込みました。彼らには「政権が変わったのにまったく動かず、少し我慢していればまた(政権が)変わるのではないかと考えている公務員は、政府ではなく国会に行くべきだ」と語ったそうです。「魂をささげて働け」という号令です。尹大統領のこうした注文を、公務員たちはどのように受け止めたのでしょうか。
「大統領や長官・次官に叱責されると、ヌルゴンは何かを一生懸命やっているふりをする。しかし実際には何もしていない。ヌルゴンはこのようなことに長けた人たちだ。特に後で責任を取るようなことは絶対にしない。すべて抜け穴を作っておくのだ。尹錫悦政権は文在寅政権の政策に沿って働いた公務員に、監査院による監査と検察・警察による捜査という刃を突きつけている。5年後を考えているヌルゴンたちが働くふりばかりするのは当然だ。問題はヌルゴンではなくオゴンの方だ」
魂をささげて働くべきは大統領
オゴンとヌルゴンを政治家と官僚に置き換えてもそれほど間違ってはいません。1987年の大統領直接選挙制改憲で民主化が実現し、1997年に史上初の選挙による政権交代が起こって以来、韓国は政治家と官僚、オゴンとヌルゴンが協力とけん制によって国政を引っ張ってきています。
官僚制は近代国家において不可欠な制度です。ドイツの社会学者マックス・ウェーバーの論文「官僚制の本質と発達」には、次のような内容があります。
「官僚制は人間の作った組織の中で最も効率的で合理的なものであり、現代社会に欠かせないものだ」
「官僚制とは知識による統治を意味する」
「官僚制は階層の序列化、権限の明確化、文書で定義された法規に則った業務の遂行、専門性を持った官僚、個人ではなく組織によって検証された経歴の管理を特徴とする」
このように重要な官僚制の活用を成功させる責任は政治家にあります。マックス・ウェーバーは、政治家と官僚の望ましい役割分担についても卓越した見解を残しました。パク・サンフン博士が2011年に出した『政治の発見』から紹介しましょう。
「専門官僚はデマゴーグ(市民の期待を呼び起こす魅力的な政治家)ではないし、デマゴーグの機能のために作られたものでもない。にもかかわらずその官僚がデマゴーグになろうとしたら、概してその官僚は非常に悪いデマゴーグになってしまう。真の官僚は、彼の本来の使命に照らせば政治をしてはならず、単に『行政』のみをすることになっており、何よりも非党派的な姿勢で行政に当たらなければならない」
「官僚は『怒りも偏見も持つことなく』彼の職務を遂行しなければならない。言い換えれば、彼は政治家、指導者、そしてその追従者なら常にそして避けられず行わなければならないこと、すなわち闘争をしてはならない。党派性、闘争、情熱、怒り、偏見などは政治家、特に政治的指導者が活動する世界を構成する諸要素であるからだ」
「それに対して政治指導者、すなわち指導的役割を果たす政治家の名誉は、自らの行為に対して全面的に自ら責任を取るということにもとづいている。彼はこの自らの責任を拒否することも、他人に転嫁することもできず、またしてもならない」
まとめます。魂をささげて働くべきなのは公務員ではなく、尹大統領と大統領室、そして与党「国民の力」の政治家たちです。国政の方向性を正確に示し、情熱的なリーダーシップを発揮し、結果に対して無限の責任を負わなければなりません。
自分たちの無能のせいで発生したセマングムジャンボリー失敗の責任を公務員に押し付けないでほしい。罪のない公務員たちを苦しめないでほしいものです。