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[寄稿]尹錫悦政権1年、巨大な退行を目撃する

登録:2023-03-08 03:00 修正:2023-03-08 09:44
尹錫悦大統領が1日、ソウル中区の柳寛順記念館で開催された104周年三一節記念式で記念演説を行っている/聯合ニュース

 ドイツの放送で最も政治的で知的なジャンルはコメディーだ。特に公共放送のコメディ番組は政治意識の水準を示す。本質をズバッと突く鋭い知性と辛辣な風刺で、権力の偽善と腐敗を痛烈に批判する。

 韓国にもそのような番組があったなら、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領当選からの1年は政治コメディの黄金期となっていただろう。このようにコメディの素材を無限に提供した大統領がいただろうか。手のひらに書かれた王の字、天供(チョンゴン)スキャンダル、「バイデン-飛ばせば」惨事、略式記者会見での出来事、イ・ジュンソク、ユ・スンミン、ナ・ギョンウォン問題に至るまで、まさにコメディの連続だった。

 しかし、この1年を単純に「事件史」だけで振り返るのは危険だ。事件の底流に流れる不吉な構造的変化を見るべきだからだ。尹錫悦当選からの1年は、何よりも「先進国」大韓民国の土台がどれほど脆弱かを如実に示した。成熟した民主社会の実現がどれほど至難な道かを教えてくれた。今、韓国社会は巨大な退行の軌道に乗りつつある。

 第1に、新自由主義の復活。新自由主義のグローバル化の破産後、新自由主義の廃墟を修復するために各国政府が様々な政策を試みているのが今日の世界だ。北東アジアも例外ではない。中国の習近平主席の「共同富裕」や日本の岸田文雄首相の「新しい資本主義」は、いずれもこのような世界的な流れの中にある。米国でも「急進的分配政策」との評価を受けたバイデン予算が世を驚かせたではないか。しかし唯一韓国だけが、すでに死んでいる新自由主義が逆に復活しつつある。金持ち減税や労組弾圧などの露骨な新自由主義政策は、世界的な流れに完全に逆行するものだ。

 第2に、守旧の帰還。歴史の地平から消え去ったと思われた守旧保守たちが再び続々と戻ってきている。李明博(イ・ミョンバク)元大統領が赦免された日に彼の自宅の前に集まった面々を見て、守旧の驚くべき生命力に私は言葉を失った。朴槿恵(パク・クネ)弾劾で政治の表舞台から消えた守旧派が、支配権力として再登場している。

 第3に、冷戦への回帰。尹錫悦政権発足後、朝鮮半島は一触即発の戦争の危機に陥っている。明日戦争が勃発したとしても驚かないほど危機が高まっている。過去の冷戦時代に完全に戻った格好だ。新冷戦国際秩序において北東アジアに濃い戦雲がたれこめる中、尹錫悦政権は古い冷戦的思考にとらわれ、状況を悪化させてばかりいる。

 第4に、歴史の逆行。特に日本との関係で歴史意識を忘れた態度を示している。歴史的和解は良いことだ。しかし、反省なき和解は偽りの和解だ。いま尹錫悦政権が日本に示している態度は全く未来志向的ではない。未来を志向するというのは、過去を省察するということだ。省察なき和解は屈辱感と抵抗感を残すだけだ。

 このように尹錫悦大統領の1年で新自由主義は復活し、守旧派は帰還し、冷戦は回帰し、歴史は逆行した。巨大な退行が繰り返された。しかし、このような退行よりも憂慮すべきことがある。それは民主主義の後退だ。

 大韓民国は偉大な「民主革命の国」だというが、本質から見れば今も依然として独裁のくびきから逃れられずにいる。軍事独裁から資本独裁へと移行したと思ったら、今や完全なる「検察独裁」へと向かっている。民主主義とは、その実この過程を華やかに粉飾する装飾品に過ぎない。このような過程は「暴力の支配(Autocracy)」から「資本の支配(Plutocracy)」を経て「技術官僚の支配(Technocracy)」へと移行したと説明することもできる。現在の韓国社会は技術官僚の中でも法技術者が支配する段階であり、これは同時に「資本の支配」の深化の過程だと考えることができる。検察は資本の支配の最も忠実な管理人だからだ。

 韓国民主主義の後退は別の側面からも観察される。ほとんどすべての領域において民主主義が後退している。国民の力の党大会や民主党ファンダム政治に見られるように「政治の民主化」が後ずさりしており、不平等の深化と労働者弾圧が示すように「経済の民主化」が退行しており、不公正と差別の深化において「社会の民主化」の退潮が見られ、権威主義の深化と憎悪の拡散において「文化の民主化」の後退を目撃している。

 もうこの巨大な退行は止めなければならない。これ以上、現政権の乱暴な逆行を許すことはできないし、無能な野党の慢性的無気力も容認できない。今や市民社会が動かなければならない。国を滅ぼしつつある二大政党の既得権政治階級に代わる新たな政治勢力を構築しなければならない。巨大な転換を模索しなければならない。

//ハンギョレ新聞社

キム・ヌリ|中央大学教授・独文学 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1082568.html韓国語原文入力:2023-03-07 17:29
訳D.K

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