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韓国、わずか5年で「夕方のある暮らし」が危機に…集中労働で休む権利は後回し

登録:2023-03-07 02:34 修正:2023-03-07 09:03
ゲッティイメージバンク//ハンギョレ新聞社

 政府が労働時間を柔軟化することを核とする「労働時間制度改編案」を6日に確定したことで、「夕方のある暮らし」をスローガンに2018年から実施されてきた週最大52時間労働の枠組みが、わずか5年で大きく揺らいでいる。改編案は延長労働の時間管理の単位を拡大する一方、選択労働制と弾力労働制も柔軟化し、仕事が集中する時期に週52時間以上働き、代わりに休暇の活性化で休息権を保障するとする内容が盛り込まれている。政府は改編案について「労働者の選択権(時間主権)、健康権、休息権を保障するためのもの」と説明した。労働界は「労働権、健康権、休息権なき三無の残業法」(職場パワハラ119)として強く反発しており、経営界は「古い法と制度を改善する労働改革の出発点」(経営者総協会)として歓迎している。

時間主権:労働者の選択権の拡大?

 政府が示した改編案の核となる延長労働の時間管理単位の拡大は、現在は週単位(12時間)のみが使える延長労働時間を月(52時間)、四半期(140時間)、半年(250時間)、年(440時間)単位も使えるようにし、特定の日、週、月、四半期などに自由に集中できるとする内容だ。選択肢は2つ。(1)週最大64時間労働を、退勤と出勤の間の11時間連続の休息なしで勤務するか(2)週64時間以上の労働で、11時間連続休息権が与えられるかだ。雇用労働部のイ・ジョンシク長官は、このような延長労働時間管理を説明しつつ、「労働時間の選択権を拡大したもの」だと語った。

雇用労働部のイ・ジョンシク長官が6日、政府ソウル庁舎ブリーフィング室で労働時間制度改編案を発表している/聯合ニュース

 ただし労働現場での延長労働の柔軟化は、結局は使用者の意思により労働時間を不規則に増やすことになると懸念される。民間公益団体「職場パワハラ119」は改編案について「(政府の提案した)11時間連続休息制度なき64時間労働においては、午前4時退勤、午前9時出勤で週4日連続労働も可能となる」と説明した。また「政府の主張どおり自律と選択だというなら、労使が対等に労働時間を決められるようになっていなければならないが、韓国の労働者の86%には労働組合がなく、労働時間を決めるべき労働者代表は社長の弟や営業本部長だ」と批判した。政府はこのような懸念に対して、労働者代表の民主性と代表性を強化する方策を改編案に組み込んでいる。

 改編案はまた、「業務に対するかなりの裁量が認められる高所得・専門職、一定規模以上の株を持つスタートアップの労働者」には、延長労働を制限したり、延長労働手当てを支給しなくてもよい「ホワイトカラー・エグゼンプション」制度を検討することも研究課題として設定した。また、選択労働制の精算期間を全業種について1カ月から3カ月へと拡大したが、当初は労働者の時間選択権を強調していたこの制度は、週40時間以内は延長労働手当てなしに労働時間を柔軟化するなど、悪用される恐れがあるとの懸念が生じている。

健康権:突発・不規則労働への対応は?

 労働時間の柔軟化は「集中労働」を招き労働者の健康を害するとの懸念に対して、政府が用意した「健康保護装置」は、どのようなケースであっても4週間の週平均労働時間は64時間以内とし、1週間で労働時間が64時間以上になる場合は11時間連続休息権を付与するというものだ。

 これは、平均の労働時間は制限できるものの、日単位、週単位での不規則な労働がもたらすリスクは依然として残る。特に注目すべきは、弾力的労働時間制(特定の労働日・週の労働時間を延長するのではなく、特定期間の平均労働時間を週40時間とするもの)を実施すれば、本来はあらかじめ定めておくべき労働時間を「機械の故障、業務量の急増などの避けられない理由の発生時に事後的に変更できるように」するという内容が改編案に含まれていることだ。不規則労働に加え「突発労働」も可能となるわけだ。

 ソウル聖母病院職業環境医学科のキム・ヒョンニョル教授は「長時間労働そのものも問題だが、突発労働、不規則労働が健康に及ぼす影響も大きい」とし、「この間の研究結果をみれば、日単位、週単位で不規則に労働する人々は不安障害が深刻化する。週当たり労働時間が7日前に比べて10時間増えると、心血管疾患の危険性が大きく高まる」と語った。

休息権:労働時間は短縮されるのか?

 2018年7月から実施されている週最大52時間労働は、弾力労働制の拡大や30人未満の事業所に対する事実上の適用除外により、現在も完全に実施されているとはいえない。ただし「週に最大52時間働ける人の時間に合わせて仕事のやり方を変えなければならない」という認識は広がり、それによって実際の労働時間も減ってきている。制度実施前の2017年には244万7千人にのぼった週52時間以上働く労働者は、2021年には100万1千人と半数以下に減少している。ただ、依然として経済協力開発機構(OECD)の平均(1716時間)に比べ、韓国の年間労働時間(1916時間)は200時間ほど長い。実労働時間の削減の必要性は依然として残っているわけだ。

 政府は実際の労働時間の削減に向けて「労働時間貯蓄口座」の導入などによって長期休暇を取りやすくする制度的基盤を築くことを決めている。「団体休暇、長期休暇の活性化のための国民キャンペーン」などで、人の顔色をうかがわない休暇取得の拡大を図る計画だ。ただし年次有給休暇の消化率は、2021年には58.7%にとどまるほど、休暇取得は活発になされていない。これは延長・休日労働に対する手当てが賃金のかなりの部分を占めるという、ゆがんだ賃金構造が大きく影響しているが、これに対する対策は改編案にはない。イ・ジョンシク長官は「ゆがんだ賃金体系が長時間労働を強めている面があるが、これは共生賃金委員会で別途議論する」と語った。

 ソウル科学技術大学のチョン・フンジュン教授は「政府が労働市場の柔軟化を強調しているうえに、制度適用も複雑なため、特定の週に過度に働き休むべき時には休めないなど、制度が乱用される恐れがある」とし、「特に仕事量の変動にともなう労働時間の柔軟化の必要性が大きく、延長労働がなければ賃金が少ない小規模な事業所では労働時間が増える一方、大企業や公共機関のような労働組合がある事業所は大きな影響を受けないため、労働時間の両極化が起きる可能性もある」と語った。

パン・ジュンホ、チャン・ヒョヌン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/labor/1082377.html韓国語原文入力:2023-03-06 18:22
訳D.K

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