高物価・高金利・ウォン安の複合危機に直面している韓国経済はどこに向かうのだろうか。世界各国で同時多発的に芽生えた危機が互いに絡み合って各地に拡散し、地雷原が広がっている。米国の攻撃的な金融引き締め、中国の急激な景気減速、欧州のエネルギー危機という3方向から立ち込めてきた暗雲に、韓国経済の先行きは一層見通しの立たない困難な状況に陥っている。為替相場や株式、債券など金融市場側はもちろん、企業の輸出・生産・投資および民間消費など実物経済でも警告音が鳴り響き、これから数カ月が最も厳しい時期になるという見通しも示されている。経済アナリストの間で「来年国内外の景気低迷への進入」は避けられない条件として受け止められている中で、韓国政府と当局が急激な景気萎縮を防ぐために最適の通貨・金融政策の組合せを展開できるかがカギになるとみられる。
米国の物価の「従属変数」になった世界経済
米国の金融引き締めの動きは、次第に終わりが見えない状況に向かっている。米商務省が先月30日(現地時間)発表した8月の個人消費支出(PCE)物価指数は、1年前より6.2%上昇し、市場の予想(6.0%)を上回った。米国の物価が依然として高止まりしていることが確認されたこの日、ラエル・ブレイナード米連邦準備理事会(FRB)副議長はニューヨークでの演説で「金融引き締めの後退を避けることに専念している」と話した。高金利による景気低迷への懸念にもかかわらず、インフレに立ち向かうと意志を示したのだ。
米国の金融引き締めが長引くほど、韓国はさまざまな危険に同時に直面しなければならない。当面はウォン安と金融市場の変動性を管理しなければならず、長期的にはFRB が「甘んじて受け入れようとする」米国の景気低迷に備えなければならない。「強いドル」のため、短期外債の支払い負担が増える状況も無視できない危険要因だ。
世界経済が一気に米国の物価の従属変数になった状況で、今のところ韓国の政策対応効果は限られている。数回にわたる口頭介入や韓国銀行(韓銀)と国民年金の外国為替スワップ協定締結、造船会社の先物為替売り支援策の発表、国債の緊急バイバックなど、市場安定化カードを次々と取り出したが、ウォン安が2008年の金融危機以降初めて1ドル=1400ウォンまで進んだ。
外国為替当局は金融機関などがドルの調達に深刻な困難を経験する「ドル流動性の梗塞」の発生兆候を深刻に懸念し、備えているものとみられる。チュ・ギョンホ副首相兼企画財政部長官は先月28日、「梅雨前線が近づいているのに、我々の力ではそれを止める方法がない」とし、「弱いところで被害が大きくならないよう、国内でできるところで対応している」と述べた。チュ副首相が先月30日、ジャネット・イエレン米財務長官と「カンファレンスコール」(電話会議)を行ったのも「万が一の場合、両国が流動性供給装置を緊密に協議して実行しようという従来の合意を再確認したもの」だと、為替当局の関係者は説明した。
専門家たちの意見は、米国の景気低迷の「深さと長さがカギ」である点で一致している。米国の景気が緩やかに低迷して回復するU字型ではなく、長い間低迷が続くL字型になる場合、対外依存度の高い韓国経済が相当な衝撃を受けるというのが、大方の予想だ。対外経済政策研究院のユン・サンハ国際マクロチーム長は「金融引き締めの峠を越えても、これからは過去のような低物価時代を後にして、中物価時代に適応しなければならず、構造的な景気変化に直面する可能性もある」とし、「このような場合、世界的に成長率が一段階下がる状況になりうる」と語った。
中国、金融危機当時は世界経済の回復を牽引したが…
韓国の最大交易国である中国経済の回復にも赤信号が灯った。世界銀行が先月27日(現地時間)に見通した中国の今年の国内総生産(GDP)成長率は2.8%で、中国政府が今年3月に提示した年間経済成長率見通し(5.5%)の半分に止まる。中国は米国など主要国とは正反対に金利を下げて景気浮揚に取り組んだが、効果はあまりない。厳しい新型コロナウイルス感染症政策を固守しているうえ、中国経済の30%を占める不動産景気の低迷が長引いたためだ。韓国の対中国輸出額は9月が133億7千万ドルで、1年前より6.5%減少し、4カ月連続減少を記録した。
現在の状況は2008~2009年の金融危機の時とは対照的だ。グローバル金融危機の勃発を受け、中国は2008年11月「2年間4兆元」の大規模景気浮揚策を発表した。その結果、2009年の経済成長率が第1四半期6.4%の底を打ってから第4四半期には11.9%を記録し、世界経済回復を主導した。1兆9千億ドル規模の世界最大の外貨準備高や財政黒字、低い政府負債、金利引き下げ余力など様々な景気浮揚手段を保有したおかげだ。
今や中国の景気浮揚策の効果は以前ほどではない。ゼロコロナの防疫基調が、16日に開かれる第20回全国代表大会(党大会)を機に緩和されるか、それとも来年3月の全国人民代表大会(全人代)まで延びるかをめぐっても見通しが分かれるなど、不確実性も高い。韓国経済は中国依存度が高く、ウォンは外国為替市場で人民元の「プロキシ」(代理)通貨とみなされている。最近の人民元安もウォン安ドル高の主な要因だ。
冬近づいてくるのに…ロシア発世界ガス争奪戦
暖房需要が高まる冬を控え、液化天然ガス(LNG)の「貴重性」がさらに高まっている。これまで韓国、日本など東アジア諸国は、米国やオーストラリアから液化した天然ガスを船で輸入する一方、欧州はパイプラインで気体状態の天然ガス(PNG)をロシアなどから運んで使ってきた。しかし、ロシアのガス供給統制でLNG価格は天井知らずに高騰した。韓国のLNG輸入価格は、昨年8月の1トン当たり535ドルから、今年8月には1194.6ドルへと過去最高を記録した。天然ガスの価格上昇は韓国電力公社などエネルギー公企業の赤字を大きくするだけでなく、天然ガスを生産原料として使うシリコンウェハーや肥料など化学製品の生産原価負担増加につながる。
最近は、ノルトストリームのガス管の爆発をきっかけに、ロシアが欧州へのガス供給を全面中止するだろうという見通しも示されている。こうなれば、LNG価格はさらに上昇し、最悪の場合、購買力が弱い国を中心に需給不安が高まる恐れがある。イ・チャンヤン産業通商資源部長官は最近、世界エネルギー市場について「70年代のオイルショックに準ずる非常状況」だと表現した。
チュ副首相は先日、韓国が第2の通貨危機に見舞われる可能性は「極めて低い」と述べた。 今は、政府が繰り返し強調するように外貨準備高の規模が過去とは異なるうえ、世界各地の危機兆候をリアルタイムで捉えており、対応体制も以前よりも整っている。しかし、いつになく多様な問題が敏感に相互作用しているため、韓国経済が一時的な景気低迷を越えて危機に陥るのではないかという懸念が高まっているのも事実だ。
延世大学のキム・ジョンシク名誉教授(経済学部・元韓国経済学会長)は「今は政策決定者が金利などを通じて、医師が処方箋を書くように、副作用を減らしながら危機を乗り越えなければならない。政策の選択と運用の技術が非常に重要な状況」だとし、「過去の事例を見る限り、米国は金利を上げた後には『ドル高』のために悪化した貿易収支を改善しようと保護貿易主義に傾く傾向がある。今回のヤマ場が過ぎれば、米国が作る世界貿易秩序の変化によって中国が長期間低迷する可能性が高い。政府は当面のことだけをみるのではなく、米国の金利引き上げが終わった後、2~3年間にわたり起きることに備えなければならない」と指摘した。