台風11号「ヒンナムノー」の影響で浸水被害に遭ったポスコ浦項(ポハン)製鉄所の一部工程の稼動中断が長期化すると予想されることから、主な鉄鋼製品の供給先である自動車・造船業界が非常事態に陥っている。稼動中断の長期化に備えて新たな供給元を模索するなど、対応策作りを急いでいる。特に電気自動車のモーターに使われる電気鋼板は、国内では唯一浦項製鉄所だけが生産する品目であるため、代替品の調達に困難をきたす可能性が高い。鉄鋼製品価格と自動車価格の上昇につながる恐れがある。
15日に本紙の取材に応じた自動車・造船業界の関係者や専門家は、浦項製鉄所の稼動中断による影響についての質問に対し、「在庫を使って時間を稼ぎつつ、早急に供給元の多角化に取り組むべき」と述べた。浦項製鉄所は韓国国内の粗鋼(鋼鉄に加工される前の段階の鋼)生産量の30%(昨年)ほどを担っているが、台風11号で工場の大部分が浸水したため、高炉を除いた後工程の稼動が中断している。完全な正常化までには6カ月ほどかかる見通しだ。
鉄鋼製品の供給先の中でも造船業は、夏休みと秋夕(チュソク。中秋節)連休には操業を停止していたため、厚鋼板の在庫が多く残っている。厚鋼板は船舶の建造に使われる厚い鉄板。現代重工業は現代製鉄から、大宇造船海洋とサムスン重工業はポスコから主に調達してきた。造船業界はすでに国外にも厚鋼板の供給元を確保している。造船業界の関係者は「過去に厚鋼板の供給に困難をきたした経験があるため、量は多くはないものの日本や中国からも厚鋼板を輸入している。事態が長期化したら現代製鉄や海外からの調達量を増やせばよい。船舶建造を中断するまでには至らないだろう」と語った。
完成車メーカーは、電気自動車を生産しているかどうかによって明暗が分かれている。車体の生産に使用される鋼板は大きな打撃は受けていない。現代・起亜は主に現代製鉄から自動車用鋼板の供給を受けており、ルノーコリア、韓国GM、双龍自動車は供給のほとんどをポスコから受けている。ポスコはこの鋼鉄を光陽(クァンヤン)製鉄所で生産しているため、浦項製鉄所の稼動中断とは関係がなく、供給には問題がない。
問題は電気鋼板だ。国内で電気鋼板を生産しているのは浦項製鉄所のみ。電気鋼板は電気自動車の部品である電気モーターに使われる高付加価値の鉄鋼製品だ。現代自動車グループが生産する電気自動車のすべてのモーターには、浦項製鉄所で生産された電気鋼板が使用される。現代製鉄はまだ電気鋼板を生産していない。今回の浸水で、浦項製鉄所に3つある電気鋼板工場のうち、稼動が可能なのは第3工場のみであるため、事態が長期化すれば供給に支障をきたす恐れがある。
国外で新たな供給元を見つけたとしても、実際の製品に用いるには数カ月かかる見通しだ。自動車部品業界の関係者は「スペック(顧客の要求条件)が同じ電気鋼板であっても、実際の製品に使うためには経なければならないテストが多いため、すぐには生産に投入できない。急を要する場合には少し速く進められるだろうが、原則通りにやるならば新たな部品を用いるまでに少なくとも6カ月はかかる」と述べた。