ロシア、シリア戦率いた人物を戦線司令官に任命、ＮＡＴＯはウクライナに兵器支援強化
ロシアがウクライナ戦争を総指揮する戦線司令官を任命し、ウクライナ東部で攻勢強化の手綱を引き締めている。これに対抗する北大西洋条約機構（NATO）は、これまでウクライナに提供してきたものより強力な兵器の支援を決めており、激しい接戦が予想されている。
ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストは9日、ロシアがウクライナ戦争全体を指揮する司令官に、ロシア軍南部軍管区のトップ、アレクサンドル・ドボルニコフ将軍を任命したと、米政府高官の話として（現地時間）報道した。これまでいくつかの指揮系統でそれぞれ命令を受けてきたロシア軍がドボル二コフ将軍の指揮のもとに置かれることになったわけだ。
戦線司令官の任命は、ロシアが集中攻略対象としたウクライナ東部で戦果を上げるための戦列再整備の一環だ。 ドボルニコフ将軍は2015年、内戦を行うシリアのバッシャール・アル・アサド政権のためのロシア支援軍を率いた功労で「ロシア連邦英雄」の称号を受けた人物だ。当時、彼の率いたロシア軍は民間人地域無差別空襲で非難された。彼はドンバス地方での戦闘にも関与してきた。
ロシア軍が民間目標攻撃を強化してきた中、このような経歴のドボルニコフ将軍が指揮を執り、ロシア軍がより残酷な方式を使う恐れがあると懸念する声もあがっている。8日、避難民が集まった駅に対する弾道ミサイル攻撃で52人が命を失ったドネツク州クラマトルスクは、ロシア軍が完全制圧を狙うドンバス地方にあり、ドボルニコフ将軍がこれを指示した可能性もある。ドネツク州のパブロ・キリレンコ知事は9日も、ロシア軍砲撃で民間人5人が死亡したと明らかにした。
ロシア軍が第2次世界大戦の戦勝記念日（5月9日）を迎え、誇示できる戦果をあげるために猛攻に出るという見通しもある。米国防総省高官は、「ロシア軍の戦力が侵攻直前に比べて85%以下に落ちており、これを補充するために徴兵と予備軍として6万人以上を新たに動員する計画が進められている」と述べた。
NATOはこれに対抗し、より強力な兵器を提供している。スロバキア政府はウクライナに旧ソ連製S300対空ミサイルを提供し、これによる防空網の空白を埋めるため、米国がパトリオットミサイル部隊を自国に配備すると発表した。かつて旧ソ連に属していたウクライナが運用に慣れているという理由で提供を求めてきたS300は、米国が提供する肩打ち式の対空ミサイルに比べて射程距離が数倍で、防御範囲もはるかに広い。チェコは旧ソ連製戦車をウクライナに提供した。米国は7日、対戦車ミサイル1万2千発、対空ミサイル1400発、「自殺ドローン」数百台を追加提供すると発表した。NATO外相会合談に出席したアントニー・ブリンケン米国務長官は、「彼らが望んだり、我々が効果的だと信じたりするものをウクライナ人に届けるのに、何も妨げにもならない」と述べた。
このような中で発生したクラマトルスク駅へのミサイル攻撃は、衝突をさらに激化させる起爆剤になる可能性がある。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、「故意の民間施設攻撃だ」と述べ、ドネツク州のキリレンコ知事は、「国際的に使用が禁止されたクラスター爆弾が使われた」と主張した。ジョー・バイデン米大統領は「米国はロシアの行動に対する資料確保の過程で今回の攻撃に対する調査も支援し、彼らに責任を問う」と述べた。
接戦地に浮上したドンバス地方は、2014年以来、親ロ武装勢力が3分の1ほど占領している状態だが、今回の戦争でロシア軍が掌握した地域まで合わせると、半分ほどがロシア側によって占領された。ここをめぐる戦況の見通しは分かれる。ロシア軍がこれまで露呈した弱点を補うと思われ、都市部と違って構造物が少なく視野が開けたところであるため、ウクライナ軍のゲリラ式戦法の駆使は難しいとみられている。一方、ロシア軍の問題が一気に解消されるのは考えにくいうえ、NATOの支援が拡大しているウクライナ軍が善戦し続けるという見通しもある。
訳H.J