韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)次期大統領が掲げた大統領執務室移転の公約が漂流している。光化門(クァンファムン)の政府庁舎から突然、龍山(ヨンサン)国防部庁舎への移転説が急浮上し、拙速さが問題となっているほか、数百億ウォンとみられる移転予算を執行する法的根拠もないという指摘もある。国民の力内部ですら、執務室の移転問題を就任後に先送りすべきだという声が高まっている。
国防部「引っ越しには一日24時間作業で20日が必要」
大統領職引き継ぎ委員会のクォン・ヨンセ副委員長や、企画調整・外交安保分科引き継ぎ委員、「大統領府移転TF(タスクフォース)」チーム長のユン・ハンホン議員が18日、大統領執務室の移転候補地であるソウル龍山区の国防部庁舎と光化門外交部庁舎を訪問し、施設現況について報告を受けた。国防部の関係者は「(本館勤務人員だけでも)1060人ほどで、マンションのようにはしご車が入れる構造ではないため、エレベーターを使って引っ越しをしなければならない」とし、「引っ越し業者に仮見積もりを依頼したところ、一日24時間作業で20日ほど費やさない限り、(本館全体の)荷物を全部運び出せないと言われた」と説明した。「国防部の移転による安保空白が懸念される」という趣旨の報告だった。彼らは現場点検の結果を尹氏に報告する計画であり、尹氏は検討意見をまとめて執務室移転計画を最終確定する計画だ。
引き継ぎ委員会の段階での「大統領執務室の移転」、法的根拠なし
しかし、引き継ぎ委には大統領執務室の移転予算を執行する法的根拠がない。大統領職引き継ぎ法で定められた引き継ぎ委の業務範囲は、政府の組織と機能および予算現況の把握▽新政府の政策基調の準備▽大統領就任行事の業務準備▽首相・長官候補者の検証▽その他、大統領職の引き継ぎに必要な事項と規定されている。大統領府に勤務した経験を持つ共に民主党議員は、「大統領執務室の移転は引き継ぎ委の権限を超える超法規的な発想」だと述べた。
引き継ぎ委の予算は、この職務範囲内でのみ使うことができる。大統領職引き継ぎ法施行令は「行政安全部長官は次期大統領の礼遇に必要な経費と、委員会の設置と運営に必要な予算を算定し、次期大統領が指定する者との協議を経て、企画財政部長官に予備費などの協力を要請しなければならない」と定めている。執務室の移転費用は「次期大統領への礼遇と引き継ぎ委の運営に必要な費用」という引き継ぎ委支援予算の範囲に含まれない。これを大統領執務室の移転費用に使えば違法な予算執行になる。
尹氏側は、移転費用を引き継ぎ委の予算ではなく、政府予備費でまかなえると主張しているが、現実性に欠けている。尹氏側は今月17日、行政安全部が執務室の移転費用について「国防部庁舎に移せば500億ウォン(約49億円)かかり、光化門の政府ソウル庁舎別館に移せば1千億ウォン(約98億円)かかる」と引き継ぎ委に報告したという。さらに、500億ウォンは大統領執務室の移転費用にすぎず、「部屋を空ける」ための国防部や合同参謀本部などの連鎖移転や軍事施設構築費用まで合わせると、1兆ウォン(980億円)以上が必要だという推算まで出ている。市民団体「税金泥棒を捕まえろ」のハ・スンス共同代表は「予算を転用すれば国家財政法違反で、予備費を使うためには国務会議の審議を経て大統領の承認が必要だが、今のように物議を醸している状況では不可能だ」とし、「引き継ぎ委が権限を超えて国防部の荷物をすべて撤収するように指示すれば、職権乱用になる」と指摘した。大統領府で勤務した経験のある国民の力の関係者は同日、本紙に「正直に言って、どんな権限で執務室の移転費用を執行できると検討したのか、疑問に思う」と述べた。
国民の力の内部でも懸念の声…「執務室移転問題で1週間を無駄に」
引き継ぎ委の発足前から「執務室移転」問題で尹氏がつまずいたことで、国民の力内部でも批判と懸念の声が高まっている。「警護や外賓との面会などの問題は十分検討した」として尹氏が派手に打ち出した「光化門大統領」という公約が、「龍山への移転」となり、公約破棄をめぐる議論まで加わったことで、就任前から支持率を心配する状況を迎えるかもしれないという危機感が漂っている。国民の力の関係者は「引き継ぎ委初期に国政ビジョンと政策を示さなければならないが、執務室の移転問題で1週間も無駄にした。執務室移転が公論化したことで、各地域で支持者や党関係者などから上訴が出てくるなど、反発が上がっている状況」だとし、「尹次期大統領がこの問題で混乱をもたらしたことについて、直接謝ることも考慮しなければならない」と述べた。
このような状況で、大統領執務室の移転を就任後に先送りする可能性もあるという話も流れている。尹氏側のキム・ウンヘ報道担当は同日、ソウル汝矣島(ヨイド)の「国民の力」党本部のブリーフィングで、「春の花が散る前に国民の皆さんに大統領府をお返しする」としながらも、「時期についてはいろいろな意見を聞いている。それらを踏まえて検討する」と述べた。次期大統領就任式準備委員会のパク・ジュソン委員長も、CBSのラジオ番組のインタビューで、「(執務室の移転を)現実的に検討する過程で、1、2カ月先延ばしにしたところで『なぜ公約を守らなかったのか、約束を守らなかったのか』などと責められることはないと思う」と述べた。