ロシアのウクライナ侵攻後、世界第1位の天然ガス輸出国であり三大産油国であるロシアを孤立させるために、「原油輸入を禁止しよう」という声が米国政界で高まっている。相当な経済的苦痛を受けてでも、膨大な天然資源を「地政学的な武器」として利用してきたロシアの手足を縛ろうという意図だが、現実化することは難しいとみられる。
民主党のジョー・マンチン上院議員は1日、「ウラジーミル・プーチン大統領がエネルギーを武器化した」とし、ロシア産原油の米国への輸入を防がなければならないと述べた。共和党のリンゼー・グラム上院議員も「ロシアから来る油には(ウクライナ人の)血が入っている」とし、ロシアのエネルギー分野に対する制裁を主張した。米国は昨年時点で原油と精油製品の8%をロシアから輸入した。ロシアの原油輸出量は1日あたり約500万バレルで、大部分は北米ではなく欧州に向かう。
ロシアの国内総生産(GDP)は2020年時点で1兆4834億ドル(約171兆円、世界銀行基準)であり、韓国(1兆6378億ドル、約189兆円)に近い水準だ。しかし、旧ソ連を継承した広大な領土と6000発を超える核弾頭、膨大な地下資源などにより、米国と中国とともに世界を三分できる大国として扱われている。プーチン大統領のウクライナ侵攻に強い衝撃を受けた米国政界から、ロシアの資金源を封じプーチン大統領を倒そうという超強硬論があふれ出たわけだ。米国はこれまで、バルト海の海底を通じてロシアの天然ガスを直接輸入できるノルドストリーム2ガスパイプライン事業を推進するドイツに対しても、「ロシアに対するエネルギー依存度を高めてはならない」とし、不快な態度を隠さなかった。
しかし、この主張に従う場合、ただでさえ高騰中のガソリン代は、さらに上がらざるをえない。ロシアによる侵攻後の1日のブレント原油は、ロンドンICE先物取引所で前日より7.1%(7.00ドル)高い1バレルあたり104.97ドルで取引を終えた。2014年8月以降では最高値だ。米国のガソリンスタンドでのガソリン価格も9週連続で上昇し、1ガロンあたり3.61ドルに達する。コロナ禍初期の2020年4月の1.77ドルの2倍以上になったのだ。
米国内の政治状況をみても、この主張を現実化することは容易でない。米国のジョー・バイデン大統領も1日の就任後初の一般教書演説で、「私の最高の優先順位は、物価を統制すること」だと述べた。支持率の下落に直面しているバイデン大統領にとって、物価上昇は11月の中間選挙を控えての最大の障害物だ。そのため、米国はプーチン大統領個人やロシア中央銀行、主要銀行の資金取引を止めながらも、ロシアのエネルギー輸出には制裁を加えなかった。
これに対して、カナダは最近、ロシア産原油の輸入を中断すると明らかにした。しかし、カナダは2019年以降、ロシア産原油を輸入しておらず、実質よりは象徴的な意味が大きい。米国の戦略国際問題研究所(CSIS)のニコス・ツァフォス・エネルギー地政学研究員は、ウォールストリート・ジャーナルに「(ロシアのエネルギー輸入禁止は)危険な戦略だ。特に、天然ガスの輸入禁止は欧州には災いになりうる」と述べた。ロシアは欧州連合(EU)が消費する原油の4分の1、天然ガスの40%を供給している。
興味深いのは、ロシア産原油と手を切る民間企業の動きだ。ニューヨークタイムズは、フィンランドのネステやスウェーデンのプリームなどの一部の精油会社がロシア産原油の購入を中断したと報道した。これに先立ち、グローバル精油企業のシェルやBPも、ロシアでの事業を放棄し、投資を撤収することを明らかにした。これらの措置は、ロシアへの報復ではなく、事業上の不安定性のためだと分析される。