新型コロナの感染拡大で東京に緊急事態宣言の発令が決まった中、五輪の競技のほとんどが「無観客」で開かれる最悪の状況になり、菅義偉首相の政治的打撃も大きいものとみられる。今秋に予定されている衆院解散後の総選挙や首相続投などにも影響を及ぼすという分析だ。
朝日新聞は9日付で、「東京五輪の開催を最優先した菅政権の対応に、不備はなかったのか。首相の政治責任が大きく問われている」と報じた。菅首相は今月8日、新型コロナの感染拡大を受け、東京に来月22日まで4回目の緊急事態宣言を発令した。首都圏の神奈川や千葉、埼玉は緊急事態に準ずる「まん延防止等重点措置」が来月22日まで延長適用される。東京など4カ所で開かれる五輪競技は、すべて無観客で行われる。五輪会場は全体42カ所だが、東京など4地域に81%の34カ所が集中している。同紙は「首相はこの夏、コロナの感染拡大を抑え込んで、安心・安全な五輪を実現して、衆院解散・総選挙になだれ込み、勝利したい考えだった」とし、「だが、その方程式は崩れつつある」と診断した。9月に自民党総裁、10月に衆議院の任期が終わるため、9月ごろ衆院解散が見込まれている。
政権与党の自民党内部からも批判の声があがっている。自民党の重鎮議員は朝日新聞とのインタビューで「五輪を最優先にした結果、感染状況も有観客もこの有様」だと指摘した。読売新聞も同日、「東京の4度目の緊急事態宣言発令が決まり、与党内に動揺が広がっている」と報じた。 同紙は「(東京の緊急事態宣言で)次期衆院選への弾みになると期待していた東京五輪・パラリンピックの開催に冷や水を浴びせる形となったため」だと分析した。自民党では「早く無観客を打ち出しておけばよかった」という恨み節も聞こえると、同紙は報じた。
産経新聞も「与党内には『選挙の顔』としての首相に対する不安感がある」とし、4月の衆参補選・再選挙と今月4日に行われた東京都議選で自民党が相次いで敗北した事実を取り上げた。政権の行方がかかった衆議院総選挙を菅首相体制で行うことが不安だという意味に捉えられる。
野党は、菅政府の責任を問うとして、手綱を引き締めている。野党第一党の立憲民主党は、自民党に五輪前や開催中の国会招集を求めた。自民党が拒否した場合、召集要求書を国会に提出する方針だ。立憲民主党は、現在日本に滞在しているトーマス・バッハ国際オリンピック委員会(IOC)会長の国会招致も要求している。立憲民主党の枝野幸男代表は8日、記者団に対し「同じ失敗を繰り返すのは政権担当能力の欠如だ」とし、「五輪中止または延期をIOCなどに対し強く求めて交渉するべきだ」と述べた。国民民主党の玉木雄一郎代表も「(五輪開催期間中に)毎日メダル数が報道されると同時にコロナ感染者数や重症者数、死亡者数を聞くことになる」とし、「緊急事態下の五輪は政策的失敗の象徴だ。安心安全の五輪にはならず責任が重い」と述べた。
日本共産党の志位和夫委員長は「国民に対して『自粛をせよ』『酒を出すな』『外出するな』『運動会、夏祭り、花火大会をやるな』と求めながら、人類最大のお祭りである五輪だけは開催となれば、矛盾したメッセージとなる」とし、「それでは国民の協力は得られない」と五輪中止を求めた。