米国の安全保障問題担当大統領補佐官を務めた米国の戦略家のズビグネフ・ブレジンスキーは、自著『地政学で世界を読む』で、米国の覇権において最もリスクの高いシナリオを提示した。「最もリスクの高いシナリオは、中国、ロシア、そしておそらくイランの大連帯、イデオロギーではなく互いの苦しみを補完する『反覇権連帯』だろう。今回は中国が主導者でロシアが追従者となるが、この連帯は、中ソブロックにより一時期造成された挑戦の規模と範囲を連想させるはずだ」
ドナルド・トランプ政権に続き、ジョー・バイデン政権も中国を締めつけようとする対外政策を強化しており、このようなリスクの高いシナリオの可能性はさらに高まっている。中国の習近平主席とロシアのウラジーミル・プーチン大統領は28日、両国の善隣友好協力条約20周年を迎えテレビ会議を行い、両国の戦略的パートナー関係の発展を論議した。両指導者は、トランプ政権の対中国圧迫政策が本格化した2018年から9回の直接会談、5回のテレビ・電話での接触、5回の書信交換を行ったと、中国国営のCGTN放送が報じた。
中国とロシアの指導者が会議をしたその日、米国は、イラクとシリアの国境地帯でイランの支援を受ける民兵隊を空襲した。空襲を受けたイラクの人民動員隊(PMF)は、イランが支援する最大のシーア派武装勢力だ。攻撃は事実上イランを狙ったものだ。米国とイランは現在、トランプ前大統領が一方的に脱退した「イラン核合意」である「包括的共同行動計画」を修復する交渉を進めている。最近大統領に当選した保守強硬派のエブラヒム・ライシ師が就任する8月初めまでに交渉が妥結されなければ、イラン核合意はもちろん、両国関係の修復は白紙に戻る公算が高い。
中国、ロシア、イランに対する米国の関係は、トランプ政権後、悪化の一途をたどっている。バイデン大統領は6月10日から1週間、欧州を歴訪し、主要7カ国首脳会議(G7サミット)、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議、プーチン大統領との首脳会談を続けて行い、米国が主導する「対中国同盟」を打ちたてた。冷戦時にソ連を相手に作られた軍事安全保障機構であるNATOに中国が「構造的挑戦」をしていると規定した。NATOの領域は、欧州とその周辺からさらにユーラシア大陸の東にまで拡張されたのだ。
欧州外交問題評議会のジェレミー・シャピロ研究所長は「フォーリン・アフェアーズ」への「バイデンのエブリシング・ドクトリン」と題する寄稿で、冷戦崩壊後の米国の対外政策の最大の失敗である、すべての国際問題に対する過度な介入にともなう国力の過剰な展開が、バイデン政権でさらに悪化するという懸念を提起した。バイデン大統領は、中国やロシアなどの権威主義体制への対応、民主主義と人権の向上、米国の同盟復元に加え、中産階級のための外交を対外政策の優先事項に設定した。シャピロ氏は、バイデン大統領の対外政策の優先事項は相互に拮抗するうえ、米国の限定された資源と時間では対応するのは難しいと指摘した。それで、バイデン政権の対外政策を「エブリシング・ドクトリン」、すなわち「森羅万象ドクトリン」と名付けた。
バイデン大統領の「森羅万象ドクトリン」が、米国特有の理想主義と道徳主義に基づくからだ。さらに大きなリスクは、このような対外政策が中国との対決に向かうリスクだ。バイデン大統領と閣僚らは「新冷戦」という言葉を拒否するが、「民主主義対権威主義の対決」という言葉を口にしている。
バーニー・サンダース上院議員は「中国に対するワシントンの危険な新合意:新たに別の新冷戦を始めてはならない」と題する寄稿で、20年前に中国との経済関係拡大を先を競い合って進めた人たちが、今になって中国を最大の脅威だと主張していると指摘した。サンダース氏は「民主主義と権威主義の主要な対決は、国家間ではなく国家内で起こる」とし、「民主主義が勝利するとすれば、それは伝統的な戦場ではなく、民主主義が権威主義よりも国民により良い生活を実際に提供することによってなされる」と指摘した。
米中対決が新冷戦と呼ばれるほど避けられないのであれば、中間に挟まれた韓国には「ツートラック」アプローチが必要だ。バイデン大統領の「森羅万象ドクトリン」の基になっている理想主義と道徳主義には呼応し、地政学的な問題では対決を避ける立場だ。米国が中国を圧迫する新疆ウイグル・チベット・香港・台湾問題において、私たちは、人権と自由については普遍的な価値に基づき積極的な声で呼応しなければならない。一方、地政学的な問題であるこれらの地域の独立や分離問題については、最大限慎重で独立的な態度を示すべきだ。
そのようなツートラック・アプローチが可能なのかと懐疑的にみる必要はない。米国と中国にとって韓国は重要な国であるため、韓国が相手を刺激しない一貫とした態度と声を維持できるだろう。外交は原則であり選択だ。
チョン・ウィギル国際部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )