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「強制わいせつ被害者」L中士はいかにして死に追いやられたのか

登録:2021-06-04 03:24 修正:2021-06-04 08:36
ソ・ウク国防部長官が2日午後、京畿道城南市の国軍首都病院内の斎場の霊安室で、空軍のL中士を追悼している/聯合ニュース

 強制わいせつの被害にあい自殺した空軍のL中士(軍の階級)の事件は、「MeToo運動」が始まって3年が過ぎたにもかかわらず性犯罪を軽く考える軍の後進的文化、問題が発生すればこれを適当に隠ぺい・もみ消そうとする軍特有の習性、迅速かつ合理的な捜査に失敗した軍事警察の無能さなどが相まって起きた悲劇だと解釈できる。軍の内外では、文在寅(ムン・ジェイン)大統領も自ら「報告と措置の過程を含めた最高上級者に至るまでの指揮ラインの問題も調べよ」と述べていることから、ソ・ウク国防長官とイ・ソンヨン空軍参謀総長がいかなる形であれ指揮責任を取らざるを得ないだろうとみられている。

 L中士が自殺に追い込まれる過程は3段階に分けられる。1つ目は部隊の「もみ消し工作」だ。L中士は3月2日夜、望まない会食に参加させられた後、官舎に帰る途中で車の中で先輩のJ中士から強制的にわいせつ行為をされた。この日の会食は、上官であるN上士(軍の階級)の知人の開業を祝う私的な集まりで、5人が参加していた。全ての市民が厳格に守っている「新型コロナウイルス防疫指針」(会合への出席人数は4人まで)すら違反し、女性であるL中士を無理やり呼び出していたのだ。

 強制わいせつ事件の発生後、上官たちは事件が外部に知られることを懸念し、もみ消しを試みる。事件翌日の3日、上官のN准尉(軍の階級)はL中士を夕食の席に呼び「生きていれば一度ぐらいは経験しうること」と述べ、事件をなかったことにしてほしいと要求した。会食を主導した上司も「一緒に会食に行った人たちが迷惑する」と圧力を加えた。そうした中、L中士は加害者から「いっそのこと死ぬつもりだ」というショートメッセージを受け取るなどの2次加害にさらされていた。「望まない会食の強要」(248条2)、「空間分離などによる被害者の保護」(244条)、「通報受理後、性暴力苦情処理部署に移送」(246条6)、「遅滞なく軍の捜査機関に調査を要請」(246条2)などの国防部部隊管理訓令の条項にすべて違反している。

2日午後、空軍副士官強制わいせつ事件の加害者であるJ中士が、拘束令状実質審査を受けるため、ソウル龍山の国防部普通軍事裁判所に入っていくところ。J中士に対する拘束令状は同日夜に発付された=国防省提供//ハンギョレ新聞社

 国防部はすでに昨年、「性暴力予防活動指針」を通じ、性犯罪者には「ワンストライクアウト制度」、黙認・ほう助・隠蔽・庇護行為を行った者には「性暴力などの行為者と同一の懲戒量定基準」を適用するとの厳正な方針を明らかにしている。しかし、遺族が3日にN准尉ら2人を国防部検察団に告訴する前には、事件のもみ消しと隠蔽に加担した2人に対する調査は行われていなかった。

 相次ぐ手抜き捜査はL中士をいっそう大きく傷つけた。イ中士は「やめてほしい」と加害者を止める自分の声を含め録画された車のドライブレコーダーを確保し、自ら空軍第20戦闘飛行団の軍事警察に提出している。被害者と加害者の「主張」ばかりがぶつかることの多い他の性犯罪とは異なり、犯罪事実を客観的に立証する物証を確保したのだ。にもかかわらず、軍事警察がJ中士に対する最初の調査を行ったのは、事件発生から半月たった3月17日になってからだった。容疑を立証する重要な証拠となりうる携帯電話の押収は、事件発生から3カ月後の先月31日になってようやく任意提出のかたちで行われている。

 イ・ソンヨン空軍参謀総長は、2日に国防部検察団が急きょJ中士を拘束すると、「なぜ今まで拘束できなかったのか」と嘆いたという。軍の関係者は「我々も非常に情けない気持ちだ。軍事警察と軍検察は無能すぎる。報告を督促しても遅すぎるし、事実と異なる内容が上がってくることもある」と述べ、ため息をついた。軍人権センターのイム・テフン所長は「今回の手抜き捜査は力量不足のせいなのか、事件を隠ぺいするための意図的なものだったのかについては、国防部検察団の徹底した捜査を通じて究明されなければならない」と強調した。

 L中士に最後の打撃を加えたのは、軍による放置と嫌がらせだった。L中士は事件発生直後からの2カ月間の請願休暇を終え、5月3日に復帰した。それまでは軍の相談官との22回の相談が行われるなど、それなりの保護措置が取られていたが、復帰後にはこのような機会は与えられなかった。遺族は、L中士が異動した第15特殊任務飛行団に対し、「初出勤の日から一人で夜勤をさせた」「被害届からの2週間、何月何日の何時に何をしたかを書き出せと言った」と述べ、集団での嫌がらせを行っていたのではないかという疑惑を提起している。このこともまた国防部検察団の捜査で明らかにされなければならない。

 L中士が「組職はもはや自分を保護しない」という絶望に陥った5月末に至るまで、加害者であるJ中士は「逃走の懸念はない」との理由で、不拘束で一度の調査を受けただけだった。L中士は、部隊を異動して4日後の5月22日に冷たい遺体となって発見された。L中士に強制わいせつを行ったのはJ中士個人だったが、L中士を死に追いやったのは、性暴力の被害者の苦しみに徹底して無頓着だった巨大な軍組織だった。

キル・ユンヒョン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/997901.html韓国語原文入力:2021-06-03 15:49
訳D.K

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