ジョー・バイデン米大統領に人工知能(AI)兵器の禁止を拒否するよう求める米国政府の報告書が提出された。米国がAI兵器に手をこまぬいていたら、中国に軍事力で逆転されると主張して中国の阻止を根拠にした。科学界では、このような要求はAI開発に関わる巨大ハイテク企業の利害に従ったもので、AI兵器拡散という災いを引き起こすことになると批判している。
「人工知能(AI)に関する国家安全保障委員会」は1日、米国と同盟国はAIで作動する自律型兵器システムに対する世界的な禁止要求を拒否すべきだと、バイデン大統領と議会に報告した。同委員会の委員らは報告書を満場一致で採択したと、BBCなどが報道した。
委員会は大統領と議会に提出する報告書で、AI兵器システムが「決定時間単位などを圧縮し」、人間が1人では迅速にできない軍事的な対応を追求できるという理由を明らかにした。報告書はまた、ロシアと中国はAI禁止に関する条約を守らないだろうとも主張した。
委員会は「もし我々の戦力に、敵をしのぐ新たな概念で誘導されるAI作動システムが装着されなければ、我々の戦力は遅れをとり、戦闘の複雑性により麻痺するだろう」と主張した。委員会は、誤って設計されたAIシステムが戦争の危険を増加させるだろうと警告しながらも、「AIを採用せずにAI能力を備えた敵を防ぐというのは災厄への招待」だと主張した。
同報告書は、AI兵器反対論について積極的に反対した。報告書は、もし自律型兵器システムを適切にテストし、人間である司令官が使用を許可するならば、国際的な人道主義の法を守ることになると主張した。ただし、報告書は、核兵器の使用にAIを適用することに対しては一線を画した。核兵器の使用には引き続き大統領の明確な承認が必要だと明らかにした。
委員会は2019年3月に出した報告書で、AIによる国家安全保障への脅威の警告が無視されたとし、迅速な対処を求めた。委員会は、バイデン大統領や他の政治家たちが迅速に行動すれば、まだ窓は開かれていると主張した。AIの研究開発に関する非国防予算も、2026年までに320億ドル(約3兆4000億円)と2倍に増やすよう要求した。
750ページにのぼる報告書は多くの部分で、2030年頃にはAIで世界の先頭に立とうとする中国の野望をいかに阻止するかに焦点を合わせた。同報告書は、高位の軍事指導者は、もし中国がAIで作動するシステムをさらに迅速に採択し、米国の軍事技術的な優位を飛び越えるならば、米国が「今後数年のうちにその優位を失うことになり得る」と警告していると報じられた。報告書は、米海軍を攻撃する中国のドローン(無人機)集団の使用を例にあげた。
中国の最先端コンピューターチップ製造能力を制限する必要性に焦点を合わせるようにとも注文した。報告書は「もし潜在的な敵が、長期間にわたり半導体で米国を凌駕したり、突然、先端半導体全体に対する米国の接近を遮断すれば、中国は戦争のすべての領域で優位を獲得するだろう」と分析した。そのためには、米国内での新たな半導体製造工場の新設▽中国への半導体および製造関連装置の輸出の制限▽半導体装置における日本やオランダとの協力などを提示した。特に、移民法改正を通じて国外から関連する人材を受け入れ、中国からの「頭脳流出」を加速させるべきだと指摘した。
こうした内容を批判する人々は、このような提案が無責任な軍拡競争を加速させる危険性があると懸念した。「キラーロボット禁止キャンペーン」の報道担当である英国シェフィールド大学のノエル・シャーキー教授は「誰を殺すかを決めるAI兵器の拡散を導く、驚くべき恐ろしい報告書」だとし、「地球上のほどんどのAI科学者は、その結果に対して警告をしてきており、今も続けている」と明らかにした。 それは特に「これは重大な国際法違反を引き起こすはずだ」と懸念した。
報告書を出した委員会は、グーグルの元最高経営責任者であるエリック・シュミット氏とロバート・ワーク元国防副長官が共同議長を務めている。委員は、アマゾンの次期経営者であるアンディ・ジャシー氏、グーグルとマイクロソフトのAI責任者であるアンドリュー・ムーア氏とエリック・ホーヴィッツ氏、オラクルの幹部であるサフラ・カッツ氏など、AI開発を行う巨大ハイテク企業の経営者たちだ。
彼らが在職中または在職した企業は、米国の国防総省や他の省庁からAI開発事業の契約をすでに受注したり受注しようとする企業だ。マイクロソフトは100億ドル(約1兆700億円)の契約を受注し、競合であるグーグルはこれを不服とする訴訟を起こした。