著者はマクロな観点から、朝鮮戦争勃発から約70年間続いている「分断体制」が、その「終末の開始段階」に入ったという診断とともに本書を始める。2018年の平昌(ピョンチャン)冬季五輪を基点にして3回続けて行われた南北首脳会談と、史上初めて行われた朝米首脳会談が、その「終末の開始」を伝える事件だ。2019年2月のハノイでの朝米首脳会談の決裂以来、膠着局面が長引いているが、広い視野で見れば、分断体制の解体の過程は戻ることができない段階に入ったというのが、著者が信じていることだ。しかし、韓日関係にだけ狭めてみれば、両国は対立の連続の末に「戦後最悪」というほど深刻な不信と反目を体験している。著者は、分断体制の解体と韓日関係の悪化という二つの流れの間に、必然的な関連まではないとしても、無視できない構造的な関連があると診断する。この本は、二つの流れの間にそのような関連が生じることになった地政学的な背景を考察し、韓日両国がこの悪循環から脱し、互恵の関係を回復する道を探る。
著者は議論を展開する前に、朝鮮半島をめぐる北東アジアの最近の歴史を丹念に見直す。著者が歴史的な検討の出発点にするのは「北朝鮮はなぜ核開発にしがみつくことになったか」という問いだ。ビル・クリントン政権の時からバラク・オバマ政権の時まで朝米交渉の歴史をよくみれば、北朝鮮が願ったのは「核兵器保有」自体ではなく「体制の安全の保証」であったことがわかる。体制の安全を保証される最も確かな道は、米国と平和協定を結び国交を樹立することだ。北朝鮮がドナルド・トランプ政権に期待をかけ首脳会談に出たのも、そのような理由だった。朝鮮半島の南に目を向けてみれば、文在寅(ムン・ジェイン)政府の前に朝米交渉を最も積極的に後押しして南北関係の改善に向け邁進したのは、金大中(キム・デジュン)政権と盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権だった。しかし、その時期は米国で強硬保守派に政権が変わった時期でもあった。そのため、朝米関係は足踏み状態を脱することができなかった。さらに、盧武鉉政権を継いだ李明博(イ・ミョンバク)政権と朴槿恵(パク・クネ)政権は、苦労して築いた南北関係の熱意がこもった塔を倒した。南北関係と朝米関係が再び前進のアクセルを踏みはじめたのは、文在寅政権になった後、特に2018年以後だ。
あいにくこの時期に韓日関係は最悪に突き進んだ。もちろん、両国関係がこじれ始めたのは李明博政権の時であり、朴槿恵政権でも冷ややかな関係は続いたが、韓日関係が前例のない対決の泥沼に陥ったのは2018年以降であることは事実だ。この年、2015年の「日本軍慰安婦合意」により設置された「和解・癒やし財団」が解散し、韓国最高裁が「強制徴用被害者への賠償判決」を下した。韓日関係に決定的な打撃を与えたのは、2019年夏に日本政府が韓国を「ホワイト国」(輸出手続き優待国、現在はグループA)から排除することを決め、韓国政府もこれに対抗し報復措置を打ち出したことだった。著者は、両国関係がこのようになるまで文在寅政権が事態の悪化を防ごうと積極的な努力をしないのは、明らかに外交的な失敗だと指摘する。南北関係を進展させ朝米交渉を促進しようとするならば、朝鮮半島を取り囲む隣国を協力者として引き入れなければならないが、その点で未熟さを示したということだ。金大中政権が南北首脳会談の前に日本を訪問し、当時の小淵恵三首相と「韓日パートナーシップ共同宣言」を行い、日本を朝鮮半島問題の味方にしたことを忘れるべきではないという指摘だ。安倍首相は南北が近づき協力する雰囲気が強くなることに危機感を抱き、そのような流れを妨害するような態度を示した。そのような日本をいさめて朝鮮半島の平和が日本の得になるという点を説得しなければならなかったが、韓国政府はそのような努力を十分には行わなかった。著者は「文在寅大統領には『知日』が必要だ」ときっぱりと述べる。
さらに著者は、日本政府にも時代の流れを賢く読むことを勧告する。「朝鮮半島の半永久的分断」を前提とする「現状維持政策」にしがみついていては、東北アジアの平和に貢献できず、周辺部に追い出されかねないということだ。ここで著者は、2019年夏の韓国・北朝鮮・米国の3カ国の首脳が板門店(パンムンジョム)で会った直後に日本が「ホワイト国排除」を決めた事実を想起させる。朝鮮半島の急速な平和の進展を、日本に対する脅威だとみなし、ホワイト国排除というとんでもない報復の刀を押しつけたのではないかという疑いだ。そのような早急な対応が自害的な結果をもたらしたことは、その後の時間が示してくれた。著者は、日本政府が韓国内部の「南南葛藤」(韓国内部の対立)を利用し、保守派を支援する態度を示すことも賢明な処置ではないと指摘する。保守派の朴槿恵・李明博両政権時代に韓日関係がひっくり返り、金大中・盧武鉉両政権時代に両国が「戦後最高の関係」に至ったことを記憶しなければならないということだ。日本政府は、南北の和解と統一により朝鮮半島が中国に近づき、休戦ラインが大韓海峡(対馬海峡)に下る結果になるはずだと懸念しているが、そのような心配こそ杞憂に過ぎない。米国とは安全保障で縛られ、中国とは経済で縛られているという点で、韓国と日本は地政学的な利害関係を共有している。著者は、今の日本政府に必要なのは、北朝鮮核問題を解決し北朝鮮と米国が関係正常化を果たすことが、東北アジアの平和の土台になり、日本の平和に繋がるという事実を深く認識することだと強調する。