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[ニュース分析]コロナの真の主犯は?…朝鮮時代のコロナも気候変動で猛威

登録:2020-05-20 02:34 修正:2020-05-23 11:09
//ハンギョレ新聞社

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が韓国に上陸して1カ月ほど経った2月16日未明、Pさん(39)は京畿道高陽市一山(コヤンシ・イルサン)の炭ヒョン(タンヒョン)駅近くのオフィステルの6階にある自室で眠りにつこうとしていたところ、普段とは違う動きを感じて目を開けた。「バタバタッ」という音が聞こえ、手のひらほどの大きさの黒い影が顔の上を通り過ぎた。

//ハンギョレ新聞社

 Pさんは小鳥か大きな蛾だと思った。電気をつけると長さ10センチほどの黒い物体が窓のカーテンの上にぶら下がっているのが目に入った。Pさんはそれを見ても、それが「コウモリ」だとはしばらく分からなかった。この日、「大騒ぎになった」というPさんはコウモリの姿が消えた後、部屋の隅々を探したが、コウモリは見つからなかった。

 その後、Pさんとコウモリは約1カ月にわたる「不便な」同居をした。何事もなく過ぎ去る日もあれば、急に頭の上にコウモリが現れる日もあった。PさんはSARS、MERS、エボラなどの人獣共通感染症がコウモリと関係があり、COVID-19の遺伝子もコウモリの持つウイルスと89%が同じという疾病管理本部の発表を聞いており、心配はさらに深まった。3月中旬になってようやく、知人の助けを借りて、窓枠にはまったコウモリを外へ出した。Pさんは「不安だったが、近くにいるだけでは感染する可能性はないので安心しろという研究所の言葉を信じた」と話す。

 韓国コウモリ生態保全研究所のチョン・チョルン所長は最近、コウモリがマンションで発見されたという連絡を多く受ける。主に「町の裏山に立ち並ぶ」ニュータウンのアパートの住民たちだ。チョン所長は「韓国国内の哺乳類の25%がコウモリで、コウモリは全国どこにでも生息している」と、驚く市民を落ち着かせる。チョン所長は「どんな動物もウイルスを持っている。コウモリが人にウイルスをうつした例は稀なのだが、コウモリについてはよく知られていないため、住民たちは大きな不安を感じる」と説明する。

 韓国のコウモリの適応戦略を研究している国立生態院のキム・ソンスク進化生態研究チーム長は「気候変動でコウモリの餌になる昆虫の成長速度が変われば、コウモリも出産や冬眠の時期が変わる可能性がある。しかしそれだけでは、コウモリが新しいウイルスを伝播するとは予想できない。実は、コウモリがウイルスを持っているということは、それほど重要な問題ではない」と強調した。それでは、COVID-19の主犯はいったい誰なのだろうか。

昨冬、Pさんが住む京畿道一山のオフィステルに入ってきたコウモリ。Pさんが動画で撮影=動画をキャプチャー//ハンギョレ新聞社

 「食べ物が底をつくと、普段は食べていなかった野生動物を捕獲して食べることもあったのではないでしょうか」

 「過去にもCOVID-19のような人獣共通感染症はあったのか」という質問に、生気象学(気象や季節と関係する疾病を研究する学問)を専攻する慶煕サイバー大学フマニタス学科のイ・ジュンホ教授はこのように答えた。もしCOVID-19がコウモリ、センザンコウなどの野生動物の食用産業を放置してきた人間への懲罰なら、生存が脅かされる極限状況に直面したときに野生動物を食べたであろう昔の人たちも、新種の人獣共通感染症にさらされた可能性があるという推論だ。

 実際にイ教授は、歴史的な「特別な事件」の際の感染症の頻繁なまん延を史料で確認している。もちろん記録に残されている感染症がCOVID-19のように新しい病気だったのか、それとも既存の病気だが程度がひどくて薬が効かなかったのかは分からなかった。コレラや赤痢のような水因性の伝染病だったのか、COVID-19のような人獣共通感染症だったのか、資料だけでは区分できなかった。しかしCOVID-19のように「強い」感染症が人間を脅かしたことは少なくなかった。

 イ教授が注目した「特別な事件」とは異常気象だ。昨年11月に韓国地域地理学会誌に発表されたイ教授の論文『朝鮮時代の気候変動が伝染病の発生に及ぼした影響』によると、朝鮮王朝実録に収録されている1455件の伝染病は飢饉、洪水、異常寒波のような677件の異常気象現象と関係があった。そのうち1650~1700年に注目すると、1455件の伝染病のうち312件(21.4%)がこの時期に集中していた。朝鮮時代は気象学的に20世紀の平年より気温が低く「小氷期」として分類されるが、17世紀半ばは気温が特に寒冷だった。朝鮮王朝実録には、朝鮮第18代王の顕宗(ヒョンジョン)11~13年(1670~1672年)に大飢饉が発生し、全国的に伝染病だけで1万人以上が死亡した、とある。その時期は、春と秋の異常低温現象で冷害の被害が大きかったという記録が残っている。

 イ教授は「当時の記録だけでは餓死と病死を明確に区別することはできないが、異常気象で食糧難が起き、国家の機能が麻痺する災害に見舞われれば、人間が生態系に介入する可能性が高くなる。各種の疾病が増える条件も容易に作られる」と説明した。

 気候変動とCOVID-19のような人獣共通感染症の因果関係は、まだ科学的に証明されてはいない。しかし気候変動が進むと、それに適応するために人間の行動が変わり、その結果として生態系が破壊され、生息地を失った野生動物から人へと人獣共通感染症が広がるという「蓋然性」は確認できる。

 このため世界の専門家たちはSARS、エボラ、COVID-19などの新種の人獣共通感染症と気候変動の原因が同じであることに注目している。ソウル大学環境大学院のユン・スンジン教授は、新種の人獣共通感染症と気候変動が両者とも「森林の破壊」から始まっていると強調する。人間が成長志向的な開発を行い、より多く肉を食べるために森を破壊することで、また気候の変化による山火事、干ばつ、洪水などの異常気象で森が破壊されることで、野生動物の生息地が失われ、彼らを宿主とするウイルスが人間にうつった。また森が減った結果、森が保存する二酸化炭素が大気中により多く排出されることによって、気候危機が深刻化する悪循環に陥ったというのだ。

 翰林大学医療院感染内科のイ・ジェガプ教授は「エボラも、アフリカで飢饉が発生し、人が薪を求めて森に入ったことで発生した。以前は出会うことのなかった人と動物が環境破壊によってつながり、人獣共通感染症が増えている。広く見れば気候変動の影響はある」と述べた。

 さらに専門家は、新種の人獣共通感染症の世界的大流行は、気候変動を招いた現代文明の暴力性のせいだと指摘する。チョ・チョンホ元国立気象科学院長は「資本はより安い資源を得るためにアフリカの奥地に入って生息地を破壊し、汚染物質を排出しても規制のない発展途上国に工場を置く。資本が経済論理に集中し、成長という価値にしがみついた結果、人類の文明は互いに緊密につながった。COVID-19の出現と世界的拡散は、資本主義と産業化一辺倒の現代文明に対する自然による反撃」と述べた。結局、新たな人獣共通感染症と気候変動のいずれもが、生態系を破壊した「人類文明の陰」だというのだ。

 産業化、都市化、グローバル化に突き進んできた人類文明を転覆すべきとの主張も出ている。29カ国48研究所のウイルス専門学者らの集まりである「世界ウイルスネットワーク(Global virus network)」は「気候変動とグローバル化はウイルスのパスポート」と述べた。全世界の人々が日常を返上し「ポストコロナ」時代を準備することになった背景には、気候変動を招き、グローバル化を可能にした人類文明があったという意味の隠喩だ。『人獣共通 すべての伝染病の鍵』を著した米国の科学著述家デビッド・クアメンも「それぞれの疾病は自然に生じたものではない。われわれが犯したことの意図せぬ結果にすぎない」とし、COVID-19を招いた主犯は人類の文明そのものだと指摘した。

「気候変動と感染症」の発生経路//ハンギョレ新聞社

 自然からの警告はすでに始まっている。2016年には気候変動によりシベリアの凍土が溶け、中で凍っていたトナカイの死骸についていた炭疽菌が広がったため、遊牧民が死亡し、トナカイが大量死した。米国と中国の研究陣は、今年1月に発表した論文で、中国チベット地域で1万5千年前の氷河が溶け、新たな28種のウイルスが現れたと発表した。

 遅まきながら自覚が始まっている。気候変動対策が、すなわち感染症を予防する代案となり得るという省察だ。都市を変えようという提案もその一つだ。ソウル大学医学部のホン・ユンチョル教授は、産業革命後の生活環境が健康に影響を及ぼすという事実を悟って都市計画を改めたように、感染症に強い「免疫力のある都市」とすることが必要だと提案する。ホン教授は「生態系を破壊する今の構造から脱し、共同体のすべての構成員に利益となるようにするためには、電力供給の分散などの、資源と技術を共有する都市的実践が必要だ。気候問題への対応に弾力性のある都市こそ、感染症に対応する都市」と説明する。

 気候変動と感染症対策は相互につながり得るという主張もある。その被害が不平等に降りかかるという共通点があるからだ。延世大学政治外交学科のイ・テドン教授は、2003年に欧州を襲った猛暑で死亡した人とCOVID-19で死亡したのは、慢性疾患を持つ人や免疫機能が低下した高齢者が多かったことに注目している。イ教授は「900の欧州の都市を調べた結果、高齢者が多い都市ほど気候変動に対応する政策も多く施行していた。感染症と気候変動に対してより脆弱な人々がいたら、彼らをどう保護するか、気候変動と感染症の両方面で考えるべき」と述べた。

 COVID-19の影響で、感染症や気候変動への感受性は高まった。せめてこれからは自然と人間の関係を再設定しなければ、未来を守ることはできないと訴える声もある。国会未来研究院のキム・ウナ副研究委員は「環境と人間の健康には密接な関係があり、人間と微生物をはじめとする生命体は、お互いに影響を与え合っているという現実を認識することが重要。そうすればウイルス伝播を含む周辺環境の変化にもう少し早く対応でき、徐々に環境にやさしい生活と消費が可能になり、気候変動の速度も遅らせることができるだろう」と述べた。

チェ・ウリ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
先月22日のアースデー。ソウル光化門広場で環境団体の活動家たちが「コロナ禍の根本原因は生態系の破壊と気候変動」とし、環境問題に対する関心を促す寸劇を披露している= パク・ジョンシク記者//ハンギョレ新聞社
https://www.hani.co.kr/arti/society/environment/945499.html韓国語原文入力:2020-05-19 05:00
訳D.K

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